2024年4月21日のブロック紙・地方紙の社説・コラム

イスラエル報復 攻撃の連鎖を断つ時だ(2024年4月21日『北海道新聞』-「社説」)
 
 イラン中部の空軍基地周辺などが無人機で攻撃された。
 先週のイランによる攻撃へのイスラエルの報復とみられる。ネタニヤフ首相は報復攻撃すると繰り返していた。ミサイルを発射したとの情報もある。
 ただ、攻撃の規模は限定的で、イランをけん制することが狙いだったと言えよう。死傷者は出ておらず、イランは直ちに報復する計画はないとしている。
 長年敵対している両国は中東の軍事大国だ。本格的な衝突に発展すれば中東全域が不安定化する。イスラエルの後ろ盾である米国も介入すれば、世界を巻き込む紛争にエスカレートする恐れがある。
 双方は自制し、報復を連鎖させてはならない。
 国際社会は外交努力を尽くして衝突の拡大を防ぐ時だ。
 発端は今月初めにシリアのイラン大使館が空爆されたことだ。在外公館への攻撃は国際法違反である。イランはイスラエルの仕業と断定し、13日に無人機やミサイルでイスラエルを攻撃した。
 ネタニヤフ政権は報復を決定したが、米国のバイデン大統領はネタニヤフ氏に反対の意を伝え、英独の外相もイスラエルを訪れて自制するよう訴えた。
 このため今回の攻撃は小規模にせざるを得なかったのだろう。
 イスラエルは事実上の核保有国で、イランも核開発を進めている。破滅的な事態に至らぬよう沈静化を急ぐことが欠かせない。
 中東で緊張が高まっている背景にはパレスチナ自治区ガザでのイスラエルと、親イランのイスラム組織ハマスとの衝突がある。
 イスラエルがガザ市民の虐殺を続ける限り、親イランの武装組織はイスラエルを攻撃するだろう。
 イスラエルはガザの戦闘をやめてハマスと停戦する必要がある。
 イタリアで開催された先進7カ国(G7)外相会合は共同声明で、中東情勢に関して緊張を高めぬよう全当事者に自制を求めた。
 イスラエルへの批判は避けた一方で、イランを強く非難し、さらなる制裁を科す用意があると表明した。米英や欧州連合EU)は制裁強化を打ち出した。
 これでは新興・途上国などから「二重基準」との批判が強まるのは当然だ。
 日本はイランへの一方的な非難に同調したものの、制裁強化からは距離を置いた。良好な関係を築いてきた経緯があるからだ。こうした時こそ独自の外交で緊張緩和に尽力することが求められる。
 
 
(2024年4月21日『東奥日報』-「天地人」)
 
 船の愛好家で知られたイラストレータ柳原良平さん(1931~2015年)の絵本に、丸木舟の時代から6千年に及ぶ船の歴史を描いた「絵巻えほん 船」がある。自身も乗ったという超豪華客船の絵は、にぎやかな船内の様子をユーモラスなタッチの断面図で表現。最新の客船を「浮かぶリゾートホテルであり、洋上の観光地」と伝えている。
 青森港に巨大なクルーズ船が相次ぎ寄港している。まさに海に浮かぶホテルかマンションのよう。外国人客が多い。船を下りるとバスやタクシーに乗り込み、桜が盛りの観光地巡りや青森市内の散策に向かうという。
 新型コロナウイルス禍で中断したクルーズ船の受け入れは昨年来、活況を取り戻している。青森港国際化推進協議会のホームページによると、今年の青森港への寄港は直近で過去最多の38回を見込む。
 23日は総トン数8万トン超の「ウエステルダム」、28日は9万トン超の「クイーン・エリザベス」が新中央埠頭(ふとう)に接岸。30日には、初寄港となる14万トン超の「ロイヤル・プリンセス」が沖館埠頭に入る。
 青森港は、油川埠頭などが洋上風力発電の建設拠点となる「基地港湾」として整備されることも期待されている。来年は開港400年。旅人をもてなす側ではあるが、クルーズ船の旅人になって青森の土を踏み、活気づく街をそぞろ歩き。なんていうのも憧れる。
 
コメ食味ランキング 巻き返しへ、猛暑対策急ごう(2024年4月21日『河北新報』-「社説」)
 
 残念ながら昨年の暑さの影響は、1等米比率の低下だけにとどまらなかった。いたずらにランキングの変動に一喜一憂する必要はあるまいが、無策でいては、今後の市場での評価にも関わりかねない。
 この夏も猛暑の可能性が指摘される中、適切な品種選択と栽培管理の重要性が増している。東北の産地が長年、食味の向上に向けて積み上げてきた努力を無にしないためにも、凡事徹底で厳しい夏に備えるべきだろう。
 日本穀物検定協会(東京)が発表した2023年産米の食味ランキング(5段階評価)で、最上位の「特A」とされた東北の産地銘柄は前年より二つ減って七つとなり、宮城、福島両県では03年以来のゼロとなった。
 前年の特Aから今回、1ランク下のAとなったのは、青森(津軽)産青天(せいてん)の霹靂(へきれき)と宮城(区分なし)産つや姫、福島(会津)産コシヒカリなどの五つで、いずれも特A常連の産地銘柄だった。
 東北の主要産地では、昨年7月からの高温少雨に続き、フェーン現象も加わった8月下旬の猛暑により、コメが白く濁る白未熟粒や胴割れが多発した。見た目だけでなく、食味や食感にも悪影響が避けられなかったとみられる。
 一方で初出品の青森(区分なし)産はれわたり、秋田(同)産サキホコレなど新たなブランド米が特Aを取得し、品種間の「世代交代」が進んでいることも印象づけた。
 はれわたり、サキホコレを含め、東北で特Aとなった7産地銘柄のうち山形(村山、置賜)産つや姫、山形(置賜)産雪若丸は、いずれも高温耐性品種だ。
 気候変動の影響で極端な気温変化が常態化する中、特に登熟期の高温への強さが品種選択のカギとなることがはっきりしたと言える。
 こうした傾向は全国的にも顕著だ。前年のAから今回、特Aに格上げされた12産地銘柄のうち八つは関西、九州をはじめとする西日本産のコメだった。高温耐性品種が広がった上に収穫時期の前倒しなど、猛暑対策を進めたことが功を奏したという。
 特A銘柄は過去10年で急増し、限られた店頭の棚を奪い合う状況が続く。このまま東北の銘柄が苦戦し、食味評価で「西高東低」の傾向が固定化してしまっては、今後の販売戦略にも大きなマイナスとなろう。
 気象庁によると、今年の夏は地球温暖化に加え、エルニーニョ現象の影響もあって、全国的に気温が高くなり、猛暑日が増える予想だという。
梅雨時に大雨となる恐れもあり、品種選定では耐倒伏性にも配慮が必要になりそうだ。
 自治体、農協などの関係機関は連携を強め、例年以上に早い時期から作付けや栽培管理に関し、的確な情報発信に努めてほしい。産地の力を結集して対策を急ぎ、ぜひ巻き返しを図りたい。
 
 
「秋田犬の里」5年 民間活用で魅力向上を(2024年4月21日『秋田魁新報』-「社説」)
 
 大館市の観光交流施設「秋田犬の里」は本年度、オープンから5年を迎える。「秋田犬に会える施設」として認知度が高まっており、魅力をさらに向上させたい。
 
 秋田犬の里は、JR大館駅に近い旧小坂鉄道大館駅の跡地に建設された。鉄骨一部2階建て1246平方メートルで総事業費約10億5200万円。2019年5月にグランドオープンした。
 入館無料で、ガラス越しに秋田犬を見ることができる展示室が目玉だ。秋田犬の特徴や大館生まれの忠犬ハチ公の物語などを紹介するコーナーのほか、土産物売り場などもある。
 初年度の19年度は約31万5千人が訪れた。新型コロナウイルス禍により一時休館した20年度は約7万2千人に減少したものの、21~23年度は約11万人、約13万2千人、約19万1千人と盛り返している。累計は約82万人で、本年度の入館者数が23年度並みであれば100万人に達する計算だ。
 増加基調を今後も持続させる取り組みの一つとして、インバウンド(訪日客)への情報発信にさらに力を注ぐべきだ。昨年12月には台湾と秋田空港を結ぶチャーター便が就航している。この便の利用者や台湾の旅行会社へのアピールを強化する必要がある。
 リピーターを獲得するには、新しい企画を打ち出したり、施設の機能を充実させたりすることが重要だ。秋田犬の里を直営する市は、そうした企画などにノウハウを持つ民間の力を活用しようと、来年度には指定管理者制度を導入したいとしている。多様なアイデアを持つ指定管理者が登場することを期待したい。
 施設機能の充実に関しては、飲食ブースの設置が待たれる。市議会でも繰り返し取り上げられている課題だ。市も必要性を認識しており、キッチンカーを含めて飲食提供の仕組みを模索中。早期の実現が望まれる。
 市は秋田犬の里を、地元の児童生徒がハチ公や秋田犬について学ぶふるさと教育の場にしたいとも考えている。北秋田市の伊勢堂岱遺跡では、遺跡について学んだ子どもたちがジュニアボランティアガイドとして活躍している。こうした例も参考にしてほしい。
 大館商工会議所は、この施設を発着点に市内の秋田犬ゆかりの地を巡るモデルコースづくりを検討している。ハチ公の生家や秋田犬会館と組み合わせることで観光客の満足度を高める試みとして注目したい。
 市は新たな総合計画として、「おおだて未来づくりプラン」(24~27年度)を策定。22年度実績値で180万人だった市への観光入り込み客数を、27年度には300万人に増やすとする目標を掲げた。達成には、中核施設の一つである秋田犬の里の機能に磨きをかけることが欠かせない。そのための不断の努力が求められる。
 
(2024年4月21日『秋田魁新報』-「北斗星」)
 
 新年早々に秋田市中通の県立美術館を訪ねたことがある。5年ほど前のこと。来館者は数えるほどだったが、いずれも熱心に鑑賞していた。その中に藤田嗣治の「秋田の行事」を食い入るように眺める中高年の男女がいた
 
山形県酒田市から来たという夫婦。秋田の行事がどんな絵か知ってはいるが、現物を生で見てみないと本当の良さは分からないとの思いで訪れたとのこと。「やはり間近で見るのはいいものですね」とうなっていた
▼雑誌などに掲載されている絵の写真を見ただけでも作品の素晴らしさを感じ取ることはできるが、やはりじかに見ることで得られる感動は格別。この夫婦にとって秋田の行事は忘れられない一枚になったようだ
▼美術館勤務の経験を持つ作家原田マハさんに大きな影響を与えた画家はピカソだそうだ。小学生の頃、作品が展示されている美術館を父親に連れられ訪問。これなら自分の方がうまいと思ったという。印象が一変したのは大学生の時。ピカソ展に足を運び、今度は卓越した才能に圧倒されることになった
▼美術館を訪れたからといって必ず満足感が得られる保証はない。だが館内を巡るうち、ある作品の前で足が止まり、その場から離れ難くなるほど魅了されることがある。そんな出合いはかけがえのないものだ
▼春の行楽期。出かけた先で美術館や画廊に足を延ばし、お気に入りの作品を探してみるのもいい。それが一つ見つかるだけで美術への親しみが増すはずである。
 
(2024年4月21日『山形新聞』-「談話室」)
 
▼▽「ヤマメとサクラマスを知ってる?」。藤岡陽子さんの小説「リラの花咲くけものみち」は、獣医師を目指す女子大学生の物語。内気な主人公は実習中に挫折して、自信を失う。彼女を慮(おもんぱか)った先輩は、魚の話を始める。
 
▼▽元々は同じ魚だが、稚魚の個体の強弱から違いが生じる。強い稚魚は川で餌を得て、そこでヤマメとなる。一方、弱い稚魚は川の餌にありつけず、海へと下る。苦難を乗り越え生き延びれば、ヤマメよりも大きく育ち、サクラマスとして帰ってくる。最後は「大逆転だ」と。
▼▽先輩はこうも諭す。「苦しんだ人のほうが、初めからなんでもできるやつより強いよ」。一連の場面は3月の県立高入試で、国語の問題に引用された。初めは弱くても、寄り道しても大丈夫、諦めないで―。こんなメッセージとして、試験中、心に留めた生徒もいたのでは。
▼▽新年度に入り3週間。進学先や職場が希望通りではなかったとか、新たな環境に惑う若者もいよう。最近は「スパッと辞める方が合理的」との考えも浸透した。他方、遠回りして大成する道もあるだろう。銀色が眩(まばゆ)いサクラマスは、食味も上品。私たちが誇る県の魚である。
 
 
高校生語り部事業/震災の教訓を考える契機に(2024年4月21日『福島民友新聞』-「社説」)
 
 県教委の「震災と復興を未来へつむぐ高校生語り部事業」は、高校生に改めて震災を学び、自らの言葉で語ってもらう取り組みだ。教訓などの風化防止を目的としており、2021年度の開始から3年間で、延べ67校の生徒が「語り部」として学びを深めた。
 
 高校生語り部事業は、「総合的な探究の時間」などを使って震災学習を行う学校が実践校となる。授業に参加する生徒はそれぞれのテーマを設定し、東日本大震災原子力災害伝承館の見学、被災経験者の講話を聞くなどして考えをまとめる。その上で県外の高校などとの交流を通じ、自分の言葉で学んだ成果を発表する。
 県教委によると、生徒から「震災についてあまり関心がなかったが、学んでみて語り継ぐことの意義を感じた」との声があったという。高校生は、震災当時を記憶している最後の世代となる。県教委は、生徒が震災を「自分ごと」と再確認する契機に位置付け、語り部事業により多くの高校の参加を呼びかけていくことが重要だ。
 語り部事業では、実践校の代表らが集まり、それぞれの取り組みを報告する交流会が開かれる。昨年度の交流会では、中間貯蔵施設にある除去土壌の最終処分の在り方から、被災した住民との対話や復興の現状などの各校の地元に根差した内容まで、幅広いテーマが語られた。
 本県の被災状況は、原発事故に目が向きがちだが、沿岸部の津波被害は甚大で、中通りでは土砂崩れの被害があった。会津地方では、震災の4カ月後に新潟・福島豪雨が発生した。県教委は、実践校間の交流や成果の共有を進め、高校生が同年代の取り組みを通じて、県内で発生した多様な被災の実情についても理解を深められるよう後押ししてほしい。
 語り部事業には主に高校1~2年生が参加するが、年を追うごとに震災を経験した年齢は低くなっていく。21年度の事業開始当初、参加した生徒は、小学1年生や幼稚園で震災を経験していた。本年度に参加する生徒は震災当時は未就園児で、震災を記憶する最後の世代のなかでも、記憶がよりあいまいな学年になる。
 近い将来、高校教育の現場で生徒だけではなく、教える若手教員も震災を経験、記憶していない状況は確実に訪れる。県教委は高校での震災学習について、被災した県民の体験などを聞いて学び、自分の言葉で語る現在の取り組みに続き、その内容を先輩から後輩へとつなぐ「語り継ぎ」の要素を加えていくことが求められる。
 
太陽光(2024年4月21日『福島民友新聞』-「社説」
 
 
 新型コロナウイルス感染拡大により、不要不急の外出を控えるよう言われたのは4年前の4月。ただ、家にこもりがちになっても適度な運動と太陽の光を浴びるよう専門家は訴えていた
▼暗い室内より、さんさんと降り注ぐ太陽の日差しを浴びて、体を動かす方が気持ちがいい。体も太陽を浴びないとビタミンDが不足し、骨が弱くなり、病気のリスクが高まるという
▼2016年夏、日中青年交流協会理事長の鈴木英司さんが、中国で突然拘束された。身に覚えのないスパイ容疑で、古いホテルのような部屋に連れて行かれた。窓は黒いカーテンで閉ざされたまま、24時間監視された
▼拘束から1カ月ほどたったある日、「太陽が見たい」と訴えると「15分だけなら」と許され、窓から1メートル離れた場所に椅子が置かれた。太陽が視界に入った時、「『これが太陽かあ』 涙が出てきた」。拘束は6年余り続いた(「中国拘束2279日」毎日新聞出版
▼製薬会社の日本人社員が中国で拘束されてから1年が過ぎた。スパイ容疑との報道だが、詳細は不明という。隣国での経済活動は困難が伴うのが常だが、理不尽な拘束は決して許されない。太陽の光を浴びているだろうか。心配が募る。
 
名物ガイド(2024年4月21日『福島民報』-「あぶくま抄」)
 
 惜しまれつつ今春終了したNHKの「ブラタモリ」。タモリさんとアナウンサーが謎解きをしながら各地を巡り、街の歴史を発見する。お茶の間に居ながら、まち歩きの気分を楽しめた。「陰の主役」と言えるのが専門知識を持つ案内人だった
いわき市のまち歩きツアーでも、男女2人の案内人が活躍する。いわき観光まちづくりビューローの養成講座を受けた市民らから選ばれた。呼び名は、期待を込めて「名物ガイド」。昨年から報酬を得て活動する。男性は自然探索に通じ、女性は英語が堪能だ。いわき、湯本両駅周辺のツアーで合わせて160回、延べ230人を案内した
▼史跡や公園で知られざるエピソードを紹介し、参加者をうならせる。知識を披露するだけではない。どうしたら喜んでもらえるか―。参加者の表情を見て話し方を変え、飽きさせないよう話術に工夫を凝らす。活動を支えるのは地域愛。それぞれにファンがつき、リピーターも増えた
いわき市は海や山などの豊かな自然、神社仏閣や炭鉱遺産など観光資源にあふれている。今年度のツアーは27日に始まる。ブラリと出かけてみよう。名物ガイドのうんちくが街の奥深い魅力を引き立てる。
 
共同親権 DV被害者の不安払拭を(2024年4月21日『新潟日報』-「社説」)
 
 ドメスティックバイオレンス(DV)被害から逃げて暮らす親子が不安を抱かずに済む制度でなくてはならない。当事者が安心できるように制度を組み立て、実効性を高める必要がある。
 
 離婚後の共同親権を導入する民法改正案が衆院を通過し、参院で審議入りした。
 改正案は、父母どちらか一方の単独親権としている現在の規定を見直し、共同親権を選べるようにする内容で、今国会での成立が見込まれている。
 親権の在り方は父母が協議して決めるが、折り合えない場合は、DVや虐待の恐れが認定された場合を除き、家裁が共同親権と決定することがあり得る。
 家族関係の多様化に対応し、離婚後も父母双方が養育に関われるようにする狙いがある。
 見過ごせないのは、衆院の審議が進むにつれ、廃案や慎重審議を求める声が広がったことだ。
 DVは身体的暴力だけでなく、精神的暴力や性的加害まで多岐にわたる上、密室の出来事のために証拠を残しにくい。
 立証が難しいDV事案が、共同親権から適切に除外されるか不安に感じている被害者は多い。
 衆院与野党の修正合意で、親権の在り方を決める際に「真意を確認する措置を検討する」と付則に加えた。父母の力関係に差があり、対等に話し合えないケースを念頭に置いている。
 DVや虐待の被害者らは、加害者から共同親権への合意を強制されることを警戒している。丁寧な対応が求められるのは当然だ。
 気がかりなのは、家裁の体制が不十分なために、被害を見逃す恐れがあることだ。
 司法統計によると、全国の家裁が2022年に受理した面会交流調停の申し立ては約1万3千件に上り、10年前より3割も増えている。一方で複雑な争いが増え、審理期間は長期化している。
 日弁連の分析では、家裁調査官は23年度に約1600人で、この20年ほどで数十人しか増員されていないという。
 父母の意思を丁寧に確認し、適切な判断を下すには、家裁の体制強化がなくてはならない。
 共同親権では、子どもの進学や医療など重要な事項を迅速に決められず、紛争が多発する恐れがある。一方の親が単独で判断できる「急迫の事情」や「日常の行為」は分かりにくいと指摘される。
 参院の審議を通じ、対策や具体例を示す必要があるはずだ。
 成立すれば26年までに施行され、既に離婚した父母も単独親権から共同親権への変更を申し立てることができる。
 このため、家裁への請求件数が膨らむ可能性はあるが、DV案件を1件でも見逃せば、命に関わる事態が起きかねない。家裁が慎重に見極められるか問われる。
 
(2024年4月21日『新潟日報』-「日報抄」)
 
 手前みそながら、弊社のインターネットサイト「デジタルプラス」ではウェブならではの記事や機能も展開している。朝刊を定期購読していると全て無料なので、ご興味ある方は試していただければ
▼小欄の朗読サービスもある。読み上げるのは県内のコミュニティーFM12局のパーソナリティー。各局に「朗読日報抄」という番組があり、放送後にサイトで音声が聞ける。比較的抑揚をつけずに読む人。やや感情を込めて読む人。聴いていると声色にもそれぞれ個性があると改めて実感する
▼ある時、気になる声があった。滑らかだけど、少し機械的のような。語り手を調べてみると、AI(人工知能)のアナウンサーだった。最近は、テレビの全国ニュースなどで「AI自動音声でお伝えします」といった説明を聞く機会も増えた
▼実際、人が読むのと比べても違和感はそれほどない。事実関係は問題なく分かる。AIアナウンサーによる小欄の朗読も同様だった。AIは急速に発展している。国際通貨基金IMF)によると、世界の雇用の約4割に影響する見通しだ。人間が担ってきた仕事の多くが取って代わられるのか
▼一方、能登半島地震の際には大津波警報の発表直後にアナウンサーが異例の命令口調で避難を呼びかけた。普段の落ち着いた調子を一変させたとして話題になった。受ける印象はさまざまだったようだが、人が語るからこそ伝わることもある
▼小欄の朗読は語り手が連日変わる。さて、今回はどう読まれるだろう。
 
INAC神戸/新体制のクラブに声援を(2024年4月21日『神戸新聞』-「社説」)
 
 サッカー女子WEリーグでINAC神戸レオネッサが首位争いを続けている。18日に今季初黒星を喫したが10勝4分け1敗の勝ち点34で2位と好位置に付けており、逆転でのリーグ制覇に期待がかかる。
 INAC神戸は2001年に設立された。エースとして日本の11年女子ワールドカップ(W杯)優勝に貢献した澤穂希(ほまれ)さんら多くの日本代表がプレーし、21年に始まったWEリーグでは初代女王の座に就いた。1月27日に決勝があった皇后杯全日本女子選手権で7度目の優勝を飾るなど、数々のタイトルを獲得してきた。
 驚かされたのは、2月に発表された運営会社の交代だ。創設時からの経営者が健康不安などを理由に挙げ、産業廃棄物処理やリサイクル事業などを手がける大栄環境(神戸市)に経営権を譲渡した。
 シーズン途中の交代は異例だが、チーム名も本拠地も変わらず、監督も選手も残留となったことで、サポーターは胸をなでおろしただろう。
 経営母体が変わってもクラブは引き継がれるJリーグと異なり、観客数が多くない女子サッカーでは、母体が変わればクラブが吸収されたり消滅したりする例が少なくない。
 今回の譲渡先探しでは「地域に根ざしたクラブ」を第一にし、最終的に地元のみなと銀行が仲介にあたったという。女子サッカーのプロチームが存続する道を描くとともに、中小企業の事業承継が地域に果たす役割を示した意味合いは大きい。
 昨年、創設29年目でJリーグ1部(J1)初優勝を果たしたヴィッセル神戸のように、地元のプロスポーツチームの躍進は地域の活力醸成につながる。新体制となったINACには競技の面白さを地域に根付かせる取り組みが求められる。
 サッカーの女子日本代表「なでしこジャパン」は、この夏に行われるパリオリンピックへの出場を決めており、女子サッカーへの注目度は今後、さらに高まるだろう。
 神戸のクラブとして新たに歴史を刻み始めたINACに力を与えるためにも、多くの市民に会場へ足を運んでもらい選手たちに熱い声援を送ってほしい。
 
保護司制度 持続へ踏み込んだ対策を(2024年4月21日『山陽新聞』-「社説」)
 
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 罪を犯した人の立ち直りを支援する保護司が減っていることを受け、なり手確保策を議論してきた法務省有識者検討会が中間取りまとめを公表した。新任を原則66歳以下に限るとしている年齢制限を2025年度にも撤廃することなどを盛り込んだ。今年10月にも報告書をまとめ、法務省が保護司法改正など必要な手続きを進める方針だ。
 保護司は、刑務所から仮釈放された人や保護観察中の少年らと定期的に面会し、生活や仕事の相談に乗ったり、地域社会に溶け込めるよう関係者との調整に当たったりするボランティアで、法相が委嘱する。罪を犯した人の更生を支援する大事な役割を担っており、再犯防止や安全な地域づくりに欠かせない。持続可能な制度を目指し、有識者検討会はさらに議論を深め、踏み込んだ対策を打ち出してもらいたい。
 法務省によると、全国の保護司は近年減少傾向で、23年1月時点では約4万5600人(特例で再任した70代後半を除く)=グラフ。全体の約8割が60歳以上と高齢化も進んでおり、制度の持続が難しいとの指摘がある。岡山県内では現在937人が活動。特例による再任を除けば減少傾向が続いている。
 年齢制限について、中間取りまとめは、企業などで定年延長や再雇用が広がっていることを踏まえ、現行の66歳以下の条件では「リタイアした後の地域貢献を望む人を取り込めない」として、年齢制限をなくすとした。
 適任者を探すため、現在は保護司個人の人脈に頼ったり、地域の各種団体から人材情報を集めたりすることで行われている。ただ、人間関係の希薄化などから、こうした形での人材確保は難しくなっている。中間取りまとめでは、24年度中に公募制を試行的に導入し、幅広い層の受け入れを目指すことにした。
 公募制により、保護司の活動に関心や意欲のある人を掘り起こし、門戸を広げる意義は大きいと言える。保護司の活動を体験するインターンシップや、活動を紹介するセミナーを活用しながら、なり手確保につなげてほしい。
 検討会では今後、報酬制導入の適否などについて協議を続ける。現在は無給で、交通費など活動にかかった実費だけが支払われている。これまでの議論では、報酬制は人材確保に有効との見方がある一方で「無報酬だからこそ、支援対象者や家族が心を許してくれている」といった慎重意見もある。報酬制を導入すれば活動にどんな影響が及ぶのか、十分に見極めながら検討することが求められる。
 
編さん続く自治体史(2024年4月21日『山陽新聞』-「滴一滴」)
 
 口が悪い人は「本棚の飾り」と言う。片手で持ちにくいほどの分厚さ。布張りの表紙に金色の背文字、箱入りという豪華さ。でも取り出して読まれることは少ない、と。県史や市町村史といった自治体史のことだ
▼刊行は平成の大合併を機にピークを迎えた。岡山県内でも2000年前後の10年間で20を超える市町村史が世に出た。奥津、牛窓成羽町など今は名が消えた自治体も多い
▼考古学、古代史から近現代史、地質や植物学まで多くの専門家を集め、歴史資料を掘り起こし、分類整理して、組み上げた歴史像を記述する。編さんの作業は今も続いている
▼内容にもトレンドがあるらしい。刊行されたばかりの「新修津山市史」通史編の初巻は原始・古代という史料が少ない時代なのに、あえて「災害」の章を設けてある。近年大規模な災害が相次ぐ中、同様の現象が過去にも起きていたことが知られてきたからだろう
弥生時代の集落跡を覆う厚さ2メートルもの洪水砂、飢饉(ききん)とともに繰り返された奈良時代の疫病。古代吉備の一角にあって山陰や近畿とも独自に交流して築いた繁栄だけでなく、苦難の歴史も書き記す
▼大冊にその土地で懸命に生きた先人たちの営みが詰まっている。現代の暮らしや地域づくりのヒントが見つかるかもしれない。自宅や図書館に飾っておくだけではもったいない。
 
火山本部の設置 観測の強化へ人材育成急げ(2024年4月21日『中国新聞』-「社説」)
 
 世界有数の火山大国として「火山防災力」の底上げにつなげなければならない。
 政府は今月、文部科学省に「火山調査研究推進本部(火山本部)」を新設した。観測や調査研究を一元的に進める司令塔の役割を担う。
 議員立法で昨年6月に成立させた改正活動火山対策特別措置法(活火山法)の柱である。富士山のある山梨や静岡など23都道県の連合組織の要望が後押しした。地震に比べて火山噴火への対策は遅れていただけに、意義深い。
 長野、岐阜両県にまたがる御嶽山で、死者・行方不明者が戦後最悪の63人に上った噴火災害から今年、10年になる。気象庁は住民の避難、登山者らの立ち入り規制の範囲を5段階で示す「噴火警戒レベル」の判定基準を公表するなど、災害情報の発信を強化してきた。しかし、基になる噴火予測の技術一つ取っても発展途上にある。
 火山本部には、政策立案を担う政策委員会と火山活動を評価する火山調査委員会を置き、ともに研究者が委員長に就いた。改正活火山法がうたう「住民や登山者の生命や安全を確保する」を肝に銘じ、気象庁、研究者や研究機関との連携体制を整えてほしい。
 御嶽山の噴火で指摘された数々の負の教訓は、積み残されたままである。
 何より観測体制が心もとない。111ある活火山のうち、24時間体制で空振計や監視カメラを使って観測する山は50にとどまる。設置場所や機器が不十分な山も少なくない。火山はそれぞれに特性が異なる。火山本部で危険性を中長期で評価するにしても、データがあってこそだ。優先順位をつけ、国の責任で観測網を整備すべきだ。
 火山研究者の不足は深刻だ。大学や研究機関が若手育成に取り組んで増やしつつあるが、100人程度に過ぎない。米国のように、溶岩が噴出した非常時に大勢の研究者を現地に送り込める状況にはない。また予測は精度がまだ低く、噴火メカニズムの解明など地道な研究を積み重ねるにはマンパワーが要る。長期的な育成と環境づくりの方針を早急に示してほしい。
 これらのためには政府予算の十分な確保が欠かせない。かつて国立大の法人化と運営費交付金の削減で、活火山の観測体制を縮小に追い込んだことを忘れてはならない。
 火山噴火は地震や豪雨と比べて頻度は高くない。だが、ひとたび大規模噴火が起きれば広範に火山灰が降り、交通や経済活動、社会への影響は甚大だ。鹿児島県の桜島や富士山に関わる研究者は、大規模噴火への警戒が要る時期に入ったと指摘しており、どこも人ごとではない。
 火山本部のモデルは、1995年の阪神大震災をきっかけに発足した文科省地震調査研究推進本部だ。観測網を整備し、活断層の調査を進めた。自治体や国民に首都直下や南海トラフなど巨大地震の被害想定を示し、備えを啓発してきた役割は大きい。
 備えがない不意打ちだと、より大きな被害を生む。警戒感を高める一歩にすべきだ。
 
冷泉家の家訓(2024年4月21日『中国新聞』-「天風録」)
 
 新しい1万円札の顔となる渋沢栄一は、家訓を残している。その一つが〈投機ノ業又(また)ハ道徳上賤(いや)シムヘキ務(つとめ)ニ従事スヘカラス〉。投機はともかくとして、続くくだりが判然としない
▲道徳上いかがわしい仕事に就いてはならぬ―。基準があるようで、ないようで。子孫にすれば、目の上のたんこぶだろう。のみ込めなくても決しておろそかにせず、思案を重ねる。色あせない家訓の本領かもしれない
新古今和歌集の編集にも当たった約800年前の歌人藤原定家の直筆が京都で見つかった。子孫にあたる冷泉(れいぜい)家で、家訓によって代々の当主が一生に一度しか開けることのできない「開かずの箱」に眠っていた
▲定家の日記で国宝「明月記」にある一節も家訓にしてきたと聞く。〈紅旗征戎(こうきせいじゅう)はわがことにあらず〉。権力争いや政治から距離を置く―。伝えるべき和歌の世界を伝える、宗主としての宣言に読めてくる。今回の発見は政治力でも経済力でもない。文化の力のたまものといえよう
▲女子教育の先駆者だった津田梅子と細菌学者の北里柴三郎。新紙幣トリオの残る2人は、くしくも津田塾大、北里大の学祖として仰がれる。したたかに、文化の力が息づいている。
 
物価高と円安 家計の苦慮 放置するな(2024年4月21日『山陰中央新報』-「論説」)
 
キャプチャ
2024年春闘の集中回答日を迎え、労使交渉の回答状況が書き込まれた金属労協事務所のホワイトボード。トヨタ自動車など大手が相次いで満額回答した=3月13日、東京都中央区
 
 家計の苦境を映して、景気の柱である個人消費が低迷している。物価高が続く一方で賃上げは部分的にとどまり、収入が実質的に目減りしているためだ。打開にはインフレを深刻にしている円安の是正へ向けた金融政策や、家計の所得増を図る企業と政府の取り組みが重要だ。事態の放置は一層の景気悪化につながりかねない。
 実質国内総生産(GDP)で見ると、全体の5割超を占める個人消費は昨年10~12月期まで3期連続の前期比マイナス。今年1~3月期も振るわなかったとみられ、家計調査では2月まで12カ月続けて実質消費支出が前年同月比で減少した。
 最大の原因はインフレの長期化だ。19日発表の3月の消費者物価(生鮮食品を除く)は、前年同月に比べ2・6%上昇。2年にわたり物価は2%以上と高騰したままだ。帝国データバンクによると、4月に値上げが見込まれる食品は約2800品目。ハムやソーセージなど身近な食品の値上げが依然続く。
 物価が上がってもそれを上回って収入が増えれば影響は抑えられる。しかし実態は逆だ。
 毎月勤労統計調査によると、物価を考慮した1人当たりの実質賃金は、2月まで23カ月連続で前年同月より減少。リーマン・ショック前後に並び過去最長となった。
 今春闘の賃上げ回答が5%超と高水準になったことで、実質賃金のプラスが遠からず実現するとの見方もある。だが楽観はできない。手厚い賃上げは、人手不足が深刻で離職されると困る若手に偏っているからだ。
 厚生労働省が昨年の春闘後の賃金を年齢層別に調べたところ、全体平均より増えたのは20代までで、30代以降は抑制が鮮明だった。今年も同様とみられ、子どもの教育費など支出のかさむ中高年層の家計は苦しいままと理解すべきだろう。賃上げとほぼ無縁な年金世帯も同じと言える。
 家計の窮状緩和へ急ぎたいのが物価の抑制であり、インフレを悪化させている円安の是正だ。
 米ワシントンでの先進7カ国(G7)などの国際会議では、円安ドル高など急速な為替変動に強い懸念が示された。足元の円下落は米国の金利高止まりが引き金だが、中東情勢の緊迫化で石油は値上がり傾向にあり、円安と相まって物価再燃の恐れがあるからだ。
 政府・日銀は現状を見過ごすのでなく、追加利上げや円買いの為替介入を検討する時だ。
 一方、家計の所得改善では企業の責任が重い。低金利に円安、インバウンド増などで企業収益は最高水準にある。賃金が長年抑えられてきた点を考えれば、若手だけでなく、中高年の働き手へも還元が当然だろう。
 岸田文雄首相は、6月から実施される1人4万円の定額減税によって「物価高を上回って可処分所得が増える状況を確実につくる」と強調する。
 減税で家計が潤うのは確かだが、一時しのぎは否めない。しかも財源は国債による借金であり、将来不安が広く国民を覆う中では多くが貯蓄へ回るとみられている。
 減税の半面、家計には新たに子育ての「支援金」負担が求められている。これでは財布のひもは固くなるばかりだ。負担を求めるべき税源はまだあり、株式配当などへの金融所得課税や大企業に対する法人課税などに首相は目を向けるべきだ。
 
時代の変わり目 株価高騰・賃上げ・利上げ(2024年4月21日『山陰中央新報』-「明窓」)
 
キャプチャ
大谷翔平選手が移籍したドジャースの本拠地ドジャースタジアム=3月28日、ロサンゼルス(共同)
 
 昨冬、大谷翔平選手の移籍先が決まった時、新たな本拠地となったドジャースタジアムの名物「ピーナツ投げ」を思い出した。袋詰めのピーナツを投げるのは売り子で、離れたところから見事「ストライク」。学生時代、貧乏旅で回った米国で体験してみたかったことの一つで、観客席で手を上げるのに勇気を振り絞った。
 30年前の1994年、初めて「1ドル=100円」を割った円高に背中を押され、異国で見聞きした経験には、その後の人生で折に触れて支えられた。米大リーグはその直後からストライキに突入。野茂英雄投手が「パイオニア」として海を渡る前年のこと。時の移ろいを感じる。
 今思えば、あの時「バブル」は既にはじけていた。その後、何度か1ドル70円台まで進んだ円高は、平成、令和をまたぐ低成長の要因の一つとされる。
 「失われた30年」。34年ぶりの日経平均株価の最高値更新、33年ぶりの高水準となった春闘の賃上げ、日銀のマイナス金利政策解除に伴う17年ぶりの利上げという、今春相次いだ歴史的なニュースで、しばしば引き合いに出た言葉だ。
 賃金も物価も上がらないのが当たり前の時代からの脱却。今がその変わり目とすれば、生活者としてはコロナ以降の物価高騰や供給制約で増しているように感じる暮らしにくさや先行き不安と、当面どう折り合いをつけていこうか。呪文のように「景気は気から」と唱えている。(吉)
 
イスラエル報復】地域紛争につなげるな(2024年4月21日『高知新聞』-「社説」)
 
 中東情勢が緊迫化している。地域紛争に拡大させてはならない。報復の連鎖を断ち切り、安定へ向けた取り組みの強化が求められる。
 イスラエルがイランに反撃した。中部イスファハン近郊の空軍基地を無人機で攻撃したようだ。被害は報告されていない。
 今回の応酬は、シリアにあるイラン大使館が攻撃を受けたことから始まった。イランは報復としてイスラエルに大規模攻撃を行い、イスラエルは報復の権利を主張していた。
 イスラエルは越境攻撃を仕掛けるレバノン民兵組織ヒズボラなどに、イランがシリア経由で武器を提供しているとみる。シリア領内を再三攻撃していたが、公館への攻撃でイランとの対決姿勢を強めたと受け止められ、緊張が高まった。
 一方、イランによるイスラエルへの直接攻撃は初めてだった。ただ、限定的な作戦であり、攻撃は抑制的だったとのメッセージを発するなど、対立の先鋭化を回避したい思惑もうかがわせた。
 イランの最高指導者ハメネイ師が報復を宣言し、保守強硬派の要求も無視できない。しかし、全面衝突となればイスラエルを支援する米国の参戦につながりかねない。体制の存続にも関わってくる。
 イスラエルにしても、本国への攻撃を何もせずに見過ごせば政権維持に響くのは同じだ。昨年10月にはパレスチナ自治区ガザ境界付近で開かれていたイベントにイスラム組織ハマスの奇襲を許し、人質を取られている。ネタニヤフ政権は批判を回避するため、ガザでの強硬姿勢を緩めていない。
 とはいえ、米国との亀裂が表面化する中、対イランでは同様の対応はとりにくいのが実情だ。反撃の決定が延期されてきたのは影響の度合いを見計らっていたのだろう。
 イラン、イスラエルともひとまずは限定的な軍事作戦に踏みとどまった。イランが再攻撃への言及を避けるなど、互いにこの程度にとどめたい本音がにじむ。
 だが、先行きは予断を許さず、紛争拡大の懸念が消え去るわけではない。各国は双方の自制を求めている。ガザでの即時停戦と人道支援を含め、中東の安定化への道を探る必要がある。
 核施設が標的となることへの懸念も拭えない。今回の攻撃でイランの核施設は無傷だったようだが、危険性は排除できない。
 イラン革命防衛隊幹部は、核施設が攻撃されたらイスラエルの核施設を攻撃すると警告している。イランは核兵器保有の意思を否定しているが、核政策の変更もにじませた。
 核施設を巡っては、ウクライナ南部でロシアが占拠する欧州最大のザポロジエ原発も危惧される。ロシアは無人機攻撃があったと主張し、ウクライナ側はロシアの自演と関与を否定する。実態は不明だが、原発の安全を脅かす深刻な事態だ。
 核施設周辺の軍事行動は慎まなければならない。偶発的な事態を招いては取り返しがつかなくなる。
 
 
朝夕2部制(2024年4月21日『高知新聞』-「小社会」)
 
 作詞家の故阿久悠さんは高校野球を愛した。昭和50年代以降、夏の甲子園を観戦して一日一詩を残した著書「甲子園の詩(うた)」。その序文に、大会期間は「そのために早起きし、9時間から10時間、テレビの前から動かない」とある。
 なぜ、そこまでひかれるのか。阿久さんは〈♪つかれを知らない子供のように〉と歌う小椋佳さんの曲の一節を引いてこう書く。「今の子供はつかれきっており、ただ一つ、つかれていないものに心を熱くするのだろう」
 50年近く前の一文だが、球児のひたむきな気持ちは今も変わりあるまい。ただし、夏の暑さは違う。気象庁によると、昨年6月から8月の平均気温は明治の統計開始から125年で最高。35度以上の猛暑日も珍しくなくなった。
 日本高野連が今夏の甲子園で、朝夕「2部制」を導入する。暑さがピークになる昼過ぎは試合を避ける。まずは試験的に3日間。決めた時間がくれば試合を中断し、翌日以降に再開する点などは課題もありそうだが。
 近年のスター選手は好意的に反応する。金足農高で活躍したオリックスの吉田輝星投手は「汗がすごかった。リスクが減るのはいいこと」。前橋育英高で優勝した西武の高橋光成投手も「異常な暑さ。対策は本当に大事」。やはり、疲れを知らない子供ではなかったようだ。
 球児を守る試行錯誤は続く。テレビ観戦の中座を余儀なくされる天国の阿久さんもうなずいているだろうか。
 
天神大牟田線100年 沿線の魅力高めて共栄を(2024年4月21日『西日本新聞』-「社説」)
 
 
 西日本鉄道(福岡市)の天神大牟田線が今月、開業から100年の節目を迎えた。
 福岡都市圏から福岡県南部に至る地域の大動脈として、沿線とともに発展を遂げた。次の100年も地域と手を携え、まちづくり、観光や経済の活性化に貢献してほしい。
 西鉄の前身の一つである九州鉄道が1924年、福岡市・天神から久留米まで開業したのが天神大牟田線の始まりだ。39年に炭鉱で栄えた大牟田まで延伸した。現在は福岡(天神)大牟田間を約1時間で結ぶ。
 西鉄によると、記録が残る45年度以降、延べ約72億人を運んだ。住宅開発で沿線の人口が増えるにつれ、輸送力を高めていった。
 近年は人口減少の影響もあり、利用客数は漸減傾向が続く。ピークは92年度の約1億2789万人で、2022年度は約8484万人だった。新型コロナウイルス禍前の9割程度まで回復したが、今後も減少が見込まれる。
 利用客は天神方面に向かう通勤・通学客に偏り、人口減が著しい久留米以南の収支は厳しい。新たな需要を喚起しなくてはならない。
 西鉄はさまざまな手を打ってきた。特に観光利用の増加に力を入れる。
 19年に運行を始めた観光列車「ザ・レールキッチン・チクゴ」は代表例だ。車内はレストラン仕様で、車窓の風景を眺めながら地元の食材を使った料理が味わえる。沿線以外でもPRに努める。
 太宰府をはじめ、観光拠点では駅舎を改装した。15年に一新した柳川駅では県や市と協力し、駅前に掘割を引き込み、観光名物・川下りの乗下船場や交流施設を設ける事業を進めている。
 新たに整備する列車や駅は外国人客も利用しやすい案内設備が必要だ。
 福岡都市圏で1960年代から段階的に進めてきた連続立体交差事業は、最後の雑餉隈(福岡市博多区)-下大利大野城市)間の工事がほぼ完了した。
 まちづくりへの波及効果は大きい。踏切待ちの渋滞が解消されるだけでなく、線路で分断されていた地域の一体性を高め、人の流れを創出するきっかけになるからだ。
 西鉄は高架下に商業施設やスポーツ施設、託児所などを設置する構想を描く。魅力ある空間を形成するためにも、地元住民や自治体と協調を欠いてはならない。
 駅の高架化に合わせ、バスやタクシーへの乗り継ぎのしやすさ、自転車やバイクの止めやすさも高めたい。
 天神大牟田線100年の歴史は天神の発展と軌を一にする。西鉄は天神のまちづくりに尽力してきた。これからもその役割に期待する。
 5月には福岡市東部と新宮町を走る西鉄貝塚線も開業100年になる。どちらも福岡の生活や経済を支える重要な鉄道だ。利便性と安全性の向上に一層努めてもらいたい。
 
災害貸付金滞納 問われる「寄り添う支援」(2024年4月21日『熊本日日新聞』-「社説」
 
 熊本地震の被災者の暮らしを立て直すため、県内の市町村が貸し付けた災害援護資金について、返済が滞っている人が約3割に上ることが明らかになった。
 
 
 10市町村の241人が、計1億2449万円を滞納しているという。主な理由は生活の困窮だ。滞納者の多くは年金暮らしの高齢者や低所得者で、新型コロナウイルス禍の影響によって収入が減った人もいる。
 地震発生から8年が経過し、道路や鉄道などのインフラの復旧はほぼ完了した。熊本県は創造的復興の重点項目にめどが立ったとして、進捗[しんちょく]状況を確認する復旧・復興本部会議を終了した。
 しかし、だからといって生活の再建が進んでいない人たちを取り残すようなことがあってはならない。長期的な視点に立ち、被災者に寄り添う支援をいかに続けるかが課題となる。制度の公平性をどう保つかも問われよう。
 災害援護資金制度は、災害弔慰金支給法に基づく。震災で家が壊れたり、世帯主が負傷したりした一定の所得未満の世帯に最大350万円を低利で貸し付ける。原資は国が3分の2、残りを都道府県や政令市が負担する。当初3年間は返済が猶予されるが、原則10年で返さなければならない。
 借りた人が高齢になるなどして収入を減らし、返済が滞るケースがあることは以前から指摘されてきた。阪神大震災の際も滞納が相次いだ。東日本大震災では、岩手、宮城、福島3県の資金を借りた人の約3分の1に当たる約9千人が約63億円を滞納している(昨年末時点)。
 県内では、今年2月末時点で16市町村が723人に計12億8651万円を貸し付けている。早い人は2026年に完済期限を迎える。しかし、期限内の返済を求めても十分な回収が難しいことは想像に難くない。物価高も続いている。
 阪神大震災では、全額回収が見込めない債権を自治体が一部放棄し、返済を免除した。だが、このやり方では完済した人との不公平が生じる。借りた人の倫理観の低下を招く恐れもある。
 資金の原資は税金である。滞納分を回収できない場合、肩代わりして返還する市町村に財政的負担がのしかかることになる。借りた人は着実に返済し、自治体も粘り強く回収に当たらなければならないことは言うまでもない。
 ただ、期日通りには返済困難だが少しずつなら返せそう、という人もいるだろう。それぞれの生活困窮度に応じた柔軟な対応も、いっそう進める必要がある。
 能登半島地震の被災地でも災害援護資金の利用申し込みが始まった。熊本県内では、20年の豪雨被害によって生活再建の途上にいる人も多い。公的資金を活用した支援制度はこれからも不可欠だ。
 大規模災害が相次ぐ中、被災者の生活再建に道筋を付けるという目的をどのようにして成し遂げるか。制度の在り方についての検討も急いでもらいたい。
 
長崎次郎書店(2024年4月21日『熊本日日新聞』-「新生面」)
 
 作家の村上春樹さんは、1980年代に書いたエッセーで活字離れについてこう述べていた
▼「(読書以外に)他にやることもいっぱいあるし、自己を表現することのできる場所や方法やメディアもいろんな種類のものが揃[そろ]っている。読書というものが突出した神話的メディアであった時代は急速に終息してしまったのである」(『村上朝日堂の逆襲』)
▼時代が進むにつれ、読書以外に時間やお金を注ぎたいと思うことは増えている。書店の経営環境は厳しくなるばかりで、村上さんも訪れた熊本市の長崎次郎書店は残念ながら6月30日で休業する。1874(明治7)年創業の、夏目漱石森鷗外も訪れたという老舗だ
▼1924(大正13)年に建てられた現在の建物は国登録有形文化財に指定されている。そのレトロな外観は、店の目の前を走る路面電車とともに古き良き城下町の雰囲気を醸し出している。「閉店」ではなくあくまで「休業」ということなので、どう活用されるのか注目したい
経済産業省は先月、書店の振興に専門的に取り組むプロジェクトチームを設置した。書店について斎藤健経産相は「日本人の教養を高める一つの基盤だと思っている」と述べ、先日はさっそく書店の経営者と意見交換をしている。どんな政策を打ち出すにしても、今現在苦しんでいる街の書店の助け舟となるにはスピード感が必要だ
▼23日は親しい人と本や花を贈り合う「サン・ジョルディの日」。本好きが増えるきっかけになればと期待したいところだ。
 
仮り末代(2024年4月21日『佐賀新聞』-「有明抄」)
 
 
 
 「ニッパチ」という言葉がある。2月と8月をひとくくりにして、景気のよくない時期を指す。正月と盆に散財し、財布のひもが固くなるからだという。作家の山口瞳さんは、そんな不振の月に「ヨンゴー」、つまり4月と5月を加える説を唱えている
◆働き盛りで大学や高校に上がる子どもがいたとする。〈三月に入学金を払う。入学祝いをする。四月、五月は父親はショックで意気沮そ喪そうしている。ショックどころか、借金の返済で頭が痛い。酒場なんかへ行っていられない。酒場が不景気になる〉
◆相次ぐ食料品の値上げで、家計の食費支出の割合を示す「エンゲル係数」が40年ぶりの高水準になったとか。「この数字が高いほど貧しいあかし」と、むかし学校で習い覚えたことを思い返す
◆物価高騰の波はこの春から、宅配便などサービス分野にも及び、電気・ガス代もまた値上がり。「ヨンゴー」を何とか乗り切ったら夏が来て、あぁ今度は8月のさびれ時…
◆いつか風向きは変わると気楽に構えていても、結局は思うに任せない。ままならぬ世を山口さんは「仮り末代」という言葉でたとえた。仮住まいのつもりが、何となく住み着いてしまう。〈私には、すべての人が、世の中全般が「仮り末代」に思われてくるのである〉。そのエッセー風に叫んでみたい。諸君!この人生、大変なんだ。(桑)
 
 
嘉手納で降下訓練 必要なら米本国で実施を(2024年4月21日『琉球新報』-「社説」)
 
 米軍は19日、5カ月連続となる嘉手納基地でのパラシュート降下訓練を強行した。日本政府は「例外的な場合」に該当するとして容認しているが、毎月定期的に繰り返される訓練を「例外」と言い張るのは、もはや通用しない。
 米側が伊江島補助飛行場の滑走路改修に「1年半程度」かかるという見通しを日本側に伝えていたことも判明した。それまでの間、嘉手納基地を使って訓練を維持していくとすれば、明らかに「例外」の範囲を超えている。常態化は許されない。
 改修に時間を要する以上、沖縄でのパラシュート降下訓練はそれまで一切停止とするのが当然だ。日本政府は、今の沖縄に降下訓練ができる場所がないことを米側に明確に示さなければならない。必要な訓練というのであれば、米本国で実施させることだ。
 1996年の日米特別行動委員会(SACO)で、パラシュート降下訓練は伊江島補助飛行場で実施することになった。だが、米軍は伊江島補助飛行場の滑走路の状態が悪いことを理由に、昨年12月から連続して嘉手納基地で訓練を実施している。
 5カ月連続となった19日の降下訓練を実施したのは、アラスカ州の空軍基地所属の外来機だった。昨年12月以降の訓練で外来機が使用されるのは初めてだ。嘉手納での降下訓練には県や周辺自治体が再三、中止を申し入れている。なのになぜ米本国の所属機がわざわざ沖縄に来て、本来の場所ではない「例外的」な施設で訓練するのか。
 沖縄の基地負担軽減というSACO合意の原点がほごにされている。にもかかわらず日本政府は米軍の行為を追認し、「例外的」という限定条件の解釈さえもずるずると後退させている。周辺自治体への背信行為だ。
 嘉手納町議会は3月、沖縄防衛局や外務省沖縄事務所に全議員で出向き、繰り返されるパラシュート降下訓練に抗議した。通常の要請は議長と基地対策特別委員会の委員のみだが、全員で行動することで強い反対姿勢を示すという異例の意思表示だ。
 嘉手納基地では、外来機の飛来増や武器搭載可能な無人機の配備、元駐機場に防錆(ぼうせい)整備格納庫を新たに建設する計画など基地機能が強化されている。住民の声をないがしろにして、危険と負担を強いることが続いてはいけない。
 本来は伊江島であってもパラシュート降下訓練は容認できるものではない。伊江島では基地外の民間地に降下する事故を繰り返している。伊江島補助飛行場ではF35Bステルス戦闘機などの飛来や訓練が増加し、騒音がひどくなっている。滑走路の改修後はさらに運用が激化し、危険が増す恐れがある。
 空から兵士や物資を投下するパラシュート訓練は、狭い沖縄のどこにも実施の余地はない。この際、訓練の国外移転を図るべきだ。
 
「作者のメッセージ」(2024年4月21日『琉球新報』-「金口木舌」)
 
 山崎貴監督の「ゴジラ―1・0(マイナスワン)」がアカデミー賞で視覚効果賞に輝いた。現実に起こっているように編集するVFXの技術力と低予算化が高く評価された
第五福竜丸事件に着想を得た第1作から70年。ゴジラは怪獣映画の枠を超え、原爆や核問題と合わせて語られてきた。普遍的な問いを投げ掛け、色あせない
▼日本文化を代表する漫画のヒット作にも人権問題を考えさせる要素がある。世界で人気の「ワンピース」は権力や差別を問う場面が出てくる
▼県立博物館・美術館で原画展が開催中の「キングダム」もその一つ。中国の初代始皇帝を題材に戦争を描いている。物語の背後に、人が人を傷つけない世をつくるという理想をしのばせている。作者の原泰久さんは複雑な思いで現在の国際情勢を見つめていることが、インタビューでも感じられた
▼デジタル製作に進んだゴジラと同様に、漫画もデジタル化が進む。それだけに原さん直筆の原画展は一見の価値がある。描線の向こうにある作者のメッセージにも触れてほしい。
 
嘉手納で降下訓練 日米合意は崩壊寸前だ(2024年4月21日『沖縄タイムス』-「社説」)
 
 「例外」は解釈次第で緩くなり、運用次第で「常態化」する。その結果、県や地元自治体の切実な声は軽くあしらわれ、ないがしろにされる。
 嘉手納基地での米軍のパラシュート降下訓練は、19日でついに5カ月連続となった。 不可解なのは日米双方の対応である。
 読谷補助飛行場で実施していたパラシュート降下訓練は、1996年の日米特別行動委員会(SACO)最終報告で、伊江島補助飛行場に移すことが合意された。
 2007年に追加合意が交わされた際「あくまでも例外的な場合」に限って、嘉手納基地での訓練が許されることを確認した。
 伊江島補助飛行場の滑走路は修復の必要があり、工事の完了までに数カ月から1年半かかるという。
 防衛省は「例外に該当する」と判断、5カ月連続の訓練であるにもかかわらず、これを認めている。
 「例外」と見なす根拠について(1)定期的でなく(2)小規模で(3)緊急の必要性に基づき(4)伊江島の滑走路の不具合が継続している-ことを挙げる。
 伊江島でのパラシュート降下訓練が練度維持のために必要だというなら、優先して滑走路の修復工事を急ぐべきではないのか。
 滑走路の不具合が長期にわたって継続すると知りながら、米軍はなぜ、工事を急がないのか。
 なぜ、県外・国外の基地を利用しないのか。
 嘉手納があるさ、という安易な姿勢が見え隠れする。
■    ■
 嘉手納基地などの騒音規制措置は「運用上の所要のために必要」な場合には、午後10時を超えて飛行できることになっている。
 その結果、何が起きているか。例外の常態化によって騒音規制措置が有名無実化しているのである。
 この構図はパラシュート降下訓練も変わらない。例外の常態化によって例外という言葉は本来の意味を失い、形骸化する。
 政府は普天間飛行場について、「世界一危険な飛行場」だと言い、「一日も早い危険性除去」を強調する。
 だが軟弱地盤の改良工事によって、返還は、はるかかなたに遠ざかった。
 その時期を明示することさえできないのに、政府は壊れた蓄音機のように「一日も早い危険性除去」と「辺野古が唯一の選択肢」を繰り返すだけである。
 無理が通れば道理引っ込む。基地問題はその典型だ。
■    ■
 米軍の存在が安全保障上重要だというのなら、全国がその負担を負わなければならない。それが嫌なら地位協定を改め、米軍の行動にも国内法を適用し、実質的な負担軽減を図ることだ。
 結局、沖縄に我慢してもらうしかないという基地押し付けの論理を、沖縄現代史研究者の故新崎盛暉氏は「構造的差別」と呼んだ。
 米軍は記者会見を開いて県民に直接、事情を説明すべきである。米軍、防衛省双方に説明責任があり、防衛省経由の説明だけで終わらせてはならない。
 
国立大法人化20年(2024年4月21日『しんぶん赤旗』-「社説」
 
失敗を検証し抜本的な転換を
 「教育研究の土台を壊す」―多くの大学関係者の反対を押し切って、自公政権が国立大学を法人化してから20年がたちました。懸念は現実のものとなり、「法人化は失敗した」という評価はメディアでも一致しています。失敗を検証し、大学政策を抜本的に転換することは急務です。
 法人化は、小泉政権による「大学の構造改革」(2001年)の梃子(てこ)として打ち出されました。「経済再生のため…世界で勝てる大学をつくる」として、大企業などにより短期的に実用化できる研究成果を生み出す大学を重点的に育て、それ以外は切り捨てる「選択と集中」を推進しました。
■研究の環境を破壊
 国立大学は、人件費や光熱費などにあてる運営費交付金が20年間で1631億円(13%)削減され、大学外から調達する競争的資金に依存せざるを得なくなりました。資金獲得の書類作成に忙殺され、教育や研究のための時間は減っています。地方の国立大学は存続さえ危ぶまれる経営困難に直面し、最低限の研究費すら確保できない状況です。
 国立大学だけで約2万人の常勤教員が任期付きに置き換わり、腰を据えて挑戦的な研究を行う環境がなくなってきています。そのため注目される質の高い研究論文数は、20年前の世界4位から13位に転落しました。法人化は大学の活力を弱めただけでした。それが、研究力の低下という現実となって表れています。
 法人化の問題点は、大学の設置者を国から法人に移し、国の財政責任を後退させるとともに、国の大学への統制を強めるコストカット型の「選択と集中」を可能にしたことです。
 「選択と集中」は、国公私立大学にわたって及んでいます。定員割れの私立大学に対する経常費助成を減額するペナルティーを強化し、地方や中小の大学をつぶそうとしています。
■予算増やす諸外国
 日本は大学予算を抑制していますが、諸外国は大幅に増やしています。2000年を1として各国通貨による大学部門の研究開発費の名目額を見ると、日本は1・0で伸びていません。一方、米国2・8、ドイツ2・5、フランス1・9、中国19・0、韓国6・0と大きく伸ばしています。
 国立だけでなく公立私立大学に対する国の財政責任を強化し、大学予算を増額に転じる改革が急務です。
 国立大学運営費交付金には人事院勧告に準拠して人件費を増やす仕組みがありません。かつて国立大学は「積算校費」の単価増額で物価高などに対応し、教職員給与を増やしてきました。
 岸田政権は「賃金が持続的に上がる好循環」「コストカット型経済からの脱却」をうたっています。ならば、国立大学交付金や私大助成を増額し、学費値上げに頼らず正規雇用の教員を増やせるようにして研究力の回復をはかるべきです。
 日本はGDP(国内総生産)が世界4位なのに、高等教育予算はOECD経済協力開発機構)加盟38カ国で最下位クラスです。これが高学費の原因であり、少子化の要因です。少子化を理由に大学の再編・統合を迫るのではなく、経済力にふさわしく大学予算を拡充することこそ求められています。
 
(2024年4月21日『しんぶん赤旗』-「社説」)
 
 心地よい風に新緑が揺れる季節。色鮮やかなツツジ咲く公園に子どもたちの歓声がひびきます。穏やかな日常の光景がいつまでも。つよく思わせる日々です
▼芝生に座って絵本をひろげる親子の姿がありました。どんな物語が想像の世界にいざなっているのか。希望や喜びをとどける本の力は万国共通です。第2次大戦後の疲弊したドイツ。そこで生きる子どもたちの心をふるい立たせたい。それが国際児童図書評議会(IBBY)の始まりでした
▼子どもの本を通して異国の窓を開く活動には現在84の国と地域が加盟。日本支部JBBYは今年50周年をむかえ、いま東京・神保町の出版クラブビルで「世界の子どもの本展」が開かれています
▼夢見る少女が鳥のように羽ばたき、彩られたきれいな街で遊ぶ『ナザレの蝶』。パレスチナの絵本です。雨の中でも歌ったり踊ったり、子どもの生命力あふれる『なんていいひ』。国際アンデルセン賞画家賞をうけた韓国のスージー・リーさんが描く美しい一日です
▼「世界ではいまだ子どもたちが犠牲となる紛争が絶えません。そんな時だからこそ、それぞれの国や地域で生み出される本を通して国際理解を深めることが、広い視野と寛容の心を育み、世界の平和な未来をつくる一助となるように」。JBBYの宇野和美会長は、そう願いを込めます
▼さまざまな地域の、多様な子どもの本。それは国境や文化、言語の壁をこえて心を弾ませてくれます。物語をつばさに、想像を力に、世界をつないで。