障害者差別解消 理解し合い合理的配慮を(2024年5月25日『熊本日日新聞』-「社説」)

 障害の有無で差別せず、誰もが暮らしやすい社会-。2016年施行の障害者差別解消法を解きほぐすと、こんな社会の姿が浮かび上がる。暮らしやすさをどう具体化するか。ポイントの一つが障害者の希望に沿って困りごとに応じる「合理的配慮」の実行である。
 国や自治体に義務付けられてきたが、4月施行の改正法は、努力義務にとどめていた民間事業者も合理的配慮を義務付ける対象とした。あらゆる立場で互いに理解し合い、望ましい配慮を具体化することは当然の要請である。
 障害者を取り巻く現実は、今も厳しいと言わざるを得ない。例えば、車いす利用者がレストランの人気メニューを味わいたくても、出入り口に段差があること理由に入店を断られる、といった事例は残念ながら少なくない。障害者への差別は、意識的かどうかにかかわらず厳然として存在している。
 しかし、「以前から入店は断ってきた」「特別扱いはできない」と取り付く島もない店は、法改正によって合理的配慮の義務違反が問われることとなった。
 必要な配慮に「合理的」と付されているのは、対立を抑え、互いに理解し合った上で差別の解消を図ろうという理念があるからだ。
 入店拒否の事例の場合、店側も車いす利用者を受け入れたいものの、スロープの施工費や設置スペースの確保が難しく、簡単に応じられないこともある。
 互いの事情や要望を理解し、設置が簡単な携帯スロープを用意するといった実現可能な策を見いだすことが合理的配慮の意図である。このため、義務に違反しても直接的な罰則はなく、事業者側の自発的な協力を頼みとしている。
 改正法は21年に成立しており、3年の準備期間を置いた上で施行に至った。この間、障害者団体などは早期施行を求めたが、人手不足や新型コロナウイルス禍による経営難に苦しんだ企業側は慎重だった。
 悪質な義務違反への厳しい是正指導は当然として、それ以外ではできる限り対立を和らげたい。過重な負担にならない範囲で障害者本人とその都度対話し、合意点を探ることが肝要だ。
 合理的配慮は違反か否かの線引きが曖昧であり、運用に際してはトラブルの発生も想定される。調整に当たる自治体や関係省庁には慎重かつ丁寧な対応を求めたい。
 一方、社会全体でデジタル移行(DX)が進む中、人工知能(AI)を活用した音声入力・表示、高度センサーによる画像認識など先端技術を使えば、障害者の自由が広がる可能性もある。
 半面、スマートフォンの画面やスーパーのセルフレジなどに普及するタッチパネルには凹凸がなく、視覚障害者には扱いにくいという難題もある。個々の障害に応じた仕組みづくりが欠かせない。
 障害者と共生する社会は、あらゆる人にとって優しい社会であるはずだ。他国に先駆けて取り組みを進め、目指すべき社会の姿を世界に示したい。