べトナム料理のフォーやタイ料理のトムヤンクンなど…(2024年5月24日『毎日新聞』-「余録」)

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ナナホシキンカメムシ。美しいがにおいは強いという=沖縄県竹富町西表島で2024年5月14日、猪飼健史撮影
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日本でも農園で栽培されるようになったパクチー大阪府河南町で2023年10月4日、長谷川直亮撮影
 べトナム料理のフォーやタイ料理のトムヤンクンなど東南アジアのエスニック料理には付き物のパクチー。近年はファンが増えたそうだが、独特のにおいを嫌う人は少なくない
カメムシソウと呼ばれることもある。英名のコリアンダーも近い種の南京虫を指すギリシャ語が由来とされる。実際にパクチーの香りにはカメムシなどと同じ化学物質から発生するにおいが含まれているそうだ
パクチーが好きか嫌いかは遺伝するといわれる。最近の研究では日本人の過半数はその香りを苦手と感じる遺伝子を持っているらしい。大昔に渡来しながら料理に使われなかったのも無理はない
カメムシのにおいはより強い。雪国では越冬時に室内に侵入し、クサガメやヘッピリムシなどと呼ばれて嫌われてきた。国内で1000種以上という仲間には果実や野菜、稲などの害虫もいる
▲そのカメムシが例年以上に大発生し、多くの自治体が注意報を出している。温暖化の影響で越冬した成虫が増えたとみられ、さらに広がる恐れもある。薬剤散布や果実への袋がけを迫られる農家は大変だろう
▲「臭いとは思わないのかカメムシよ」。万能川柳もたびたび取り上げている悪臭に悩まされている人も少なくあるまい。だが、においを不快に思わない人もいるらしい。パクチーの場合と同様の遺伝子の働きなら羨ましい。カメムシ自身はどう感じているのか。密閉容器に入れると、本来身を守るはずの自分のにおいで死んでしまうというから哀れに思えてくる。