72歳が85歳を「あの老いぼれ」と罵る世界…老人クラブで起きた「超高齢化社会の忌まわしすぎる闇」(2024年5月23日『FORZA STYLE』)

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国内最高齢だった女性が116歳でお亡くなりになった。危機管理コンサルタントの平塚俊樹氏はこう話す。
「1907年のお生まれだったので、明治、大正、昭和、平成、令和と5つの時代を生きたことになります。これにはあっぱれです。総務省の統計によると我が国は、総人口が減少する中、高齢者人口は2022年9月の時点で3627万人と過去最高を記録しています。人口に占める割合は、29.1%。今後もこの割合は上昇を続けると見込まれています」。
65歳以上の割合が、2040年には35.3%にもなると予想されている。国民の1/3以上が高齢者ということになる。
「自身の親が長生きをしているなど、高齢化をリアルに感じている人も少なくないはずです。厚生労働省によると日本の平均寿命は男性で81. 05年、女性で87. 09年です。ここまで長生きするとなると人生プランも一転。70歳で働く人やクラブ活動など、精力的に活動する人も珍しくありません」。
今回はそんな70オーバーの高齢者たちが集うある場所でちょっと困った出来事を体験した女性に話を聞いた。
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©︎GettyImages
 
小岩井和美さん(仮名・48歳)は、高齢者で賑わうとある場所でパートをしている。
「区民体育館で働いています。さまざまな定期教室がありますが、最近は高齢者に向けた教室が増えているように感じますね。健康な高齢者はデイケアなどにも通えないため、こういうところを利用するんでしょう。何もせずにいれば、筋力は衰えるだけ。少しでも動かして健康的に過ごしたい!そんな風に考えてらっしゃる、ある意味意識の高いご高齢のみなさんがいらしている印象です」。
和美さんはインストラクターではないものの。サポートという形でボールなどの機材を運んだり、客を誘導したり、細かなことを手伝うことがあるらしい。和美さんがそんななか、気になるのが高齢者の健康体操の教室だ。
「ご婦人達のやりとりを見ていると年齢を重ねても変わらないんだなーって。色恋沙汰とかがあって、かなり面白いんですよ。韓国ドラマ、見ているみたい。ただ、彼女達を見ていると自分の行く末が心配になると言うか…」。
そのクラスの定員は15名あまり。毎週、ほとんど変わらない顔ぶれが集まるんだという。
「下は60代から上は90代、女性が9割男性1割という感じです。ここでボス的な存在感を放っているのが、初江さんという75歳のご婦人。なんていうのか、いわゆる70代といった感じのいたって普通のご婦人ですが、いつも多くのご婦人達を引き連れて歩いているような雰囲気です」。
実はこのクラスには、初江さん率いるマジョリティチームから疎まれている女性がいる。それが高子さんだ。
「高子さんは85歳とは思えないほど、若々しい人。数名しかいない男性の参加者の隣にいつも腰掛けて、ニコニコしている姿が印象的で、すぐに覚えました。そんな高子さんのことを、初江さん達は色目を使っているとか若作りだとかこそこそなじっているんです。そうとも言えますが、私は逆に尊敬してますね。だって、年齢を重ねてもモテたいっていう気持ちがあるなんて素敵じゃないですか」。
しかし、初江さんたちからは非難の嵐らしい。
「あの男好きがさ~とか言って、よく悪口言われていますよ。もちろん初江さん達も直接はおっしゃいません。でもロビーでおしゃべりしている声が聞こえるんですよ」。
それでも高子さんはおかまいなし。基本は男性メンバーとのみ絡んで、女性メンバーに目もくれない。
「実際のところ、初江さんは羨ましいんじゃないのかな。高子さんには夫もいます。しかも、15歳年下!驚きじゃないですか?長男との方が年齢が近いといつか話していました。初江さんが42歳のときに再婚して、今もラブラブ。いつも年下の旦那さんがお迎えにいらっしゃるんです。そんな人、あんまりいないでしょう?」。
そんなある日のことだった。教室終わりに初江さんを中心とした面々がロビーの椅子を占領して、話に花をさかせていたという。
「その日は別の会場でベビー体操の会も開かれていて、ロビーが混雑していました」。
あいにくの雨で赤ちゃん連れのお母さん達はロビーの端で初江さん達の邪魔にならぬよう、ベビーカーにカバーをつけていたという。
「あまりにも狭そうだったので、私が少しずれてもらえるよう初江さんに言おうと立ち上がったときのことです。颯爽と現れた高子さんが一言、ちょっと邪魔になってるんじゃない?と声をかけたんです」。
自分たちに声をかけられたのかと思ったお母さんが小さな声で「すみません」と言っている声が聞こえた。
「すかさず、高子さんはあなた達じゃないわと優しく微笑んで、初江さん達の方を見ていました。初江さん達は驚いたような顔で高子さんを見ていました」。
赤ちゃん連れのお母さん達が窮屈そうにカバーをつけている姿に気がついた数人は席をたち、場所を空けた。それに釣られるように立ち上がった初江さんだったが、明らかに納得がいっていない様子だったという。
「ムッとした顔をしていました。そして捨て台詞のようにこう言ったんです」。
ーご老人もおすわりになりたかったのかしら?
78歳が85歳をご老人と呼ぶ世界線…。【後編】では、ご婦人同士の恐ろしいバトルについてさらに詳しく話を聞いていきたい。
悠木 律