【後期高齢者のハードル越えよ 有名人の死を考える】 昨年から今年にかけて、75歳のハードルを越えられず、亡くなる有名人が多いことに驚きます。八代亜紀さん(73歳、膠原病・急速進行性間質肺炎)、坂本龍一さん(71歳、直腸がん・肺転移)、谷村新司さん(74歳、急性腸炎)…みな、後期高齢者となることなく、この世を去っています。
そこで思うのは、やはり「健康寿命」(男性72・68歳、女性75・38歳 2019年厚生労働省調査)です。これが、ほぼ75歳前後というのは、ここに大きな壁があると思わざるを得ません。 現在、65歳になると高齢者と定義されます。「人生100年時代」に、誰も65歳の人間を老人とは見ないでしょう。体力も気力もまだまだ若い、十分働けるとして、定年延長や、年金支給年齢引き上げの動きがあります。しかし、私に言わせてもらうと、この見方が間違っているのです。 なぜなら、老化はずっと早くから始まっているからです。早くて20代半ば、30代半ばからは明らかに身体機能が低下していきます。
最近、発表されたスタンフォード大学の研究では、34歳、60歳、78歳の3つのポイントで老化は急激に起こるとされています。 ということは、さすがに65歳になったら、老化と死を意識して生きなければなりません。生活習慣を変える必要があります。私が診てきた高齢者でも健康を維持している人は、たいていそうしていました。 各種の調査によると、人が自分の老化と死を最初に意識するのは50歳を超えてからといいます。
60代になって、ようやく死を恐ろしいと思うようになります。ただ、60代では半数以上が恐ろしいとは思っておらず、本当に恐ろしいと思うのは75歳を過ぎてからだそうです。つまり、少なくとも75歳まで、自分の死を意識していないわけです。これではいけません。 メディアの「若いことは素晴らしい」という論調に乗せられてはいけません。
たとえば、自分は若いと思っていると、心が急激な老化を受け入れらなくなります。そして、生活に変調をきたします。有名人の死でいうと、渡辺裕之さんが66歳で、上島竜兵さんが61歳で、相次いで自宅で急死したことがありました。これは推測ですが、お二人とも老化を受け入れられなかったのかもしれません。 渡辺さんの妻で女優の原日出子さんは、次のようなコメントを発表していました。
「(夫は)『眠れない』と体調の変化を訴えるようになり、自律神経失調症と診断され、一時はお薬を服用していましたが、またお仕事が忙しくなって、元気を取り戻したようでもありました。しかし、少しずつじわじわと、心の病は夫を蝕(むしば)み、大きな不安から抜け出せなくなりました」
実際、日本の自殺者の4割が高齢者で、男性では50代から60代にかけてが一番多いのです。厚生労働省の「令和4(2022)年中における自殺の状況」によると、1年間に自殺した人は2万1881人。これを年代別に見ると、50代が4093人と最も多く、60代は2765人、70代は2994人、80代以上は2430人となっています。
現役を続けている有名人は、年を取っても忙しく、若いときと同じ生活をしています。これでは、死期は早まります。気持ちは若く持つべきですが、それとともに食生活、日常運動、睡眠を改善すべきでしょう。
「バランスのいい食事」「適度な運動」「十分な睡眠」の3つがポイントです。私は、65歳からの「10、8、6ルール」を提唱しています。「睡眠十分、腹八分、運動六分」ということです。
【あすは「最も大切なのは睡眠」です】
■富家孝(ふけ・たかし) 医師、ジャーナリスト。1972年東京慈恵会医科大学卒業。病院経営、日本女子体育大学助教授、新日本プロレスリングドクターなど経験。著書計68冊。最新刊『それでもあなたは長生きしたいですか? 終末期医療の真実を語ろう』(ベストブック)が話題に。