岸田自民党の政治資金規正法「抜本改正拒否」は、「パーティ券購入=贈賄」を示す明確な証拠である。(2024年5月21日『現代ビジネス』)

パーティ券購入規制の提案を悉(ことごと)く拒否する自民党
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 筆者が解説者として毎週登壇している朝日放送のテレビ番組『正義のミカタ』にて過日(5月18日)、自民党の「裏金問題」が取り上げられた。
 その中で、自民党がその解決策として政治資金規正法の「改正案」をとりまとめ、公明党との共同提案の形ではなく「独自案」として提出しようとしているが、その内容があまりにも“しょぼい”、という問題が話題となった。
 政治資金規正法については、政治資金パーティそれ自体を禁止せよという案(立憲民主党)や、外国人のパーティ券購入の禁止(国民民主党)、企業・団体のパーティ券購入を禁止せよという案(維新・共産)が野党側から出されている。
 しかし、そんな中で、自民党案はというと、
 「政治資金パーティを許可する」
「企業、団体のみならず、外国人によるパーティ券購入も許容する」
 というものとなっているのだ。
 しかも、与党である公明党からは、「パーティ券購入額が20万円未満の場合は公表不要」という現行の規制を強化し、20万円という基準額を(政治献金と同様の)5万円にまで引き下げるべし、という案が提案されているのだが、自民党はこの提案をも拒否し、
 「パーティー券購入額が5万円を超えていても(10万円を超えていなければ)、購入者名を秘匿・隠蔽できる」
 というルールを法的に確定させようとしている。
 つまり自民党は、自民党を除く全ての政党が「政治資金パーティ」について様々な規制を加えようとしている中で、必死になって「抵抗」し続けている状況にあるわけだ。
政治資金規正法の抜本改正を拒否する理由
 この自民党の態度に対して、現在、実に8割、9割の国民が不満を抱いているという世論調査が報道されているのだが、自民党はなぜ、これだけの批難や反発を受けてなお、誰の目から見ても驚く程に“しょぼい”法改正にとどめようとしているのだろうか? 
 それは勿論、「政治資金パーティ購入行為」について、外国人は買うなとか、企業・団体は買うなとか、パーティ券購入額が5万円を超えれば全て氏名を公開しろなぞという規制を加えれば、政治資金パーティを開いてもたいして儲からない、ということになってしまうからだ。
 つまり自民党は、パーティ収入を確保したいが故に、抜本的な法改正を拒否しているのだ。
 「自民党よ、そこまでして、カネが欲しいのか!?」と思わざるを得ないところであるが、この自民党の態度は、ただ単に「金が欲しい」という“セコい”心情を明示しているだけではなく、政治資金パーティによって、日本国家の国益を激しく毀損する極めて深刻な「贈収賄」が横行してしまっている状況がある、という実態を明らかに指し示しているのだ。
 すなわち、この一連の疑惑における最大の問題は、自民党のカネについての意地汚さというよりもむしろ、この「贈収賄」がパーティを使って合法的に行われる、という極めて深刻な腐敗が蔓延している点にこそあるのだ。
 この点について筆者は、今回、『正義のミカタ』にてまず、パーティ券購入者の氏名公開基準について、自民党が(公明党案の5万円でなく)10万円に固執している理由について、下記のように解説した。
 藤井:「わいろ性が無くて、純粋に応援したいなら、公開されても痛くない。ところが、公開したくないと、企業側も言っている。ということは、袖の下の下心がある事が前提で金を渡していることが100%確実。だから公開すればいいだけ」
 さらには、司会の東野幸治さんから、この10万円/5万円問題のみならず、パーティ券購入に関するあらゆる規制提案について自民党が拒否し続けているのはなぜなんですか? という質問に対して、次のように解説した。
 藤井:「理由は二つあって、一つは、自民党が、まぁ文字通り、ホンマにお金欲しいから。貰うお金を減らしたくないと。ただしもう一つ理由があって、それが払う方の意向なんですよ。それこそ、企業とか団体とかは、『公開されたら払われへんや無いか、もっと俺、払いたいねん』と言っているわけです。
 なんで払いたいと言っているかってことですが……彼らは『企業』です。で、(営利を追求することを旨とする)『企業』が『払いたい』と言ってるっていうことは、要するに『何かを買いたい』っていうこと。
 では、彼らが何を買いたいのかと言えば(政治権力を使った政治家による)『便宜』です。要するにそこに(政治家たちとの)癒着があることが前提で、企業側は『払いたい』って言ってるわけです。
 さらに言うなら外国人もね、日本のことを愛してるから払いたい人もいるのかもしれませんが、普通は、外国の方は日本のことをあんまり愛しててはいないから、日本から何かを『買いたい』わけですよ。
 特に岸田さんのパーティ、宏池会のパーティに中国人が一杯でてる動画とかいっぱい(ネット上でも)出回っているわけです。(じゃぁ、そんな大量の中国人が)なんで来てるかっていったら、岸田さんになんかやってもらうために、お金を渡したいんですよ。
 要するに事実上の賄賂が行われるんですよ。その賄賂が存在しなければ、払いたいと思う訳なんてないんだから…」
 東野:「そらそう…」
 *()は本記事において読者の利便のために便宜上追記
 無論、筆者は自民党議員や企業や中国人たちに対してインタビューをして「事実上の贈賄、収賄をしてますよね?」と確認し、彼らから「勿論してますよ」という言質を取っているわけではない。しかし、現下の自民党、ならびに岸田文雄総裁の態度に関わる様々な情報を総合的に解釈すれば、上記以外に合理的な解釈を形成することは不可能なのである。
賄賂リスクを排除するには「禁止」「公表」しかない
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 そもそも、パーティ券購入代も含む広義の「政治献金」は本来、「この立派な政治家(あるいは派閥)にがんばってもらって、日本をよくしてもらいたい。そのためにこのお金を役立ててほしい」という思いのみに基づいて支払われるべきものである。それが政治資金規正法の根本的理念だ。
 しかし、政治献金は「お金のやり取り」に過ぎぬものであり、かつ、そのやり取りの背後にある人の心を明らかにすることは原理的に不可能であることから、常に、「賄賂」のリスク(つまり、払った側が、受け取った側から何らかの“便宜”を図ってもらいたいという下心があって払い、かつ、受け取る側もそれを理解した上で受け取る、というリスク)をはらんでいる。
 したがって、そのパーティ券購入行為を含めた政治献金行為における「贈収賄リスク」を回避するには、「禁止」するか、最低でも「氏名公表」にする他ないのである。だから政治資金規正法では外国人の寄附は禁止されており、寄付額も5万円を超えれば全て公表せねばならなくなっているのだ。
 そしてもしも、企業・団体側にそういう贈賄の意図が皆無であるのなら、禁止についても公表についても何ら反発する筈などない、というのは先に紹介したTVでの発言で示唆した通りだ。
 したがって、今回の自民党の、現状を可能な限り変えたくないという意図が見え見えの中途半端な態度は、現状のパーティ券購入が「事実上の賄賂行為」として機能してしまっていることをあからさまに示すものであると解釈せざるを得ないのである。
 その意味において、自民党、とりわけ現在の岸田文雄政権による、庶民を軽視し大企業や諸外国の利益を重視してばかりの悪夢のような政治状況を幾ばくかなりとも改善するためには、国民民主党が主張する「外国人のパーティ券購入の全面禁止」を行い、その上で、公明党による「パーティ券5万円以上は氏名公表すべし」という案を採択することが極めて効果的なのである。
 今、岸田文雄自民党総裁に求められているのは、こうした議論に基づく誠実なる対応なのだが、果たして彼にそれだけの誠実さは残されているのだろうか。それこそが今、我が国において何よりも大切な問題なのだが……。
藤井 聡(京都大学大学院工学研究科教授)
 

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