介護保険料改定 福祉の自治、考える機会に(2024年5月19日『信濃毎日新聞』-「社説」)

 介護保険で65歳以上の高齢者が支払う保険料の額は、保険者の市町村などが3年に1度見直している。

 厚生労働省は今春の改定で、2024~26年度の全国平均の月額が6225円となり、前期(21~23年度)より211円上昇したと発表した。

 長野県の平均は前期から24円増の5647円。県内全63保険者の内訳は引き上げが18、据え置きが33、引き下げが12となった。

 介護保険料は、保険者が今後の介護の需要の見通しなどを勘案して決める。つまり地域の介護サービスの近い未来を映す鏡である。

 都道府県別や市町村別の保険料の一覧が出ると、金額の高低に目がいきがちだ。でも大事なのは、なぜこの額になったのか。自治体は丁寧に説明し、住民と介護福祉を考える機会をつくってほしい。

 保険料が上がる主な要因は、要介護の高齢者の増加だ。全国最高額(9249円)の大阪市は、増加する独居高齢者のサービス利用が保険料を押し上げた。

 特別養護老人ホームなどの施設サービスは、在宅サービスに比べて介護報酬が高くなる傾向があり、保険料にも反映される。

 保険料が高い自治体は、裏を返せばそれだけサービスを利用できる状況にあるとも言える。地域のサービスの供給量と、在宅と施設のバランスにも目を向けたい。

 小規模の自治体では、サービス利用の状況がもろに保険料に響く。例えば天龍村は、前期の1・5倍の7500円になった。

 保険料が下がる要因もさまざまだ。要支援や要介護の人が想定よりも少ないと、かかる費用も下方修正される。長野県平均は都道府県別で3番目に低かった。県は、健康増進の取り組みの成果が一定程度表れたとみている。

 一方で、介護需要が増えても基金の取り崩しなどで上昇を抑えた保険者が多い点にも注意が要る。

 この先も保険料の上昇は避けられない。高齢者は増え続け、介護給付は自然増の流れにある。現在の介護報酬の水準は、介護職の待遇改善にはほど遠い。負担増をどう分かち合っていくのか、議論を深める必要がある。

 介護保険には、運営主体である市町村が地域の実情に合わせた事業を独自に行える仕組みがある。制度の対象外のサービスを、住民になくてはならないメニューとして加えている市町村もある。

 地域に根差した包括ケアは、東京の霞が関では築けない。福祉の自治を重んじる介護保険の原点を自治体は忘れないでほしい。