子が卒業後も居座り、不当に権力を振りかざすPTA元会長 PTA改革の壁に 学校や教委も口出せず(2024年7月8日『AERA dot.』)

キャプチャ
(写真:Getty Images)
 改革に取り組むPTAが増えている一方で、その改革を阻む人たちがいる。一例が、長年PTAに居座る元会長だ。経験と実績を武器に発言力を持つ。負担軽減をしようにも、元会長らが前例踏襲の重しになり、諦めが広がる。AERA 2024年7月8日号より。
キャプチャ
「PTAやーめた」と気軽に言えない! 非加入のデメリット
*  *  *
「うちのPTAは“顧問”と呼ばれる元保護者が仕切っていて、会長も含め誰も逆らえないんです。改革を提案しても必ずこの人につぶされてしまう。どうしたら追い出せるのか」
 PTAの取材を続けてきた筆者のもとに、こんな相談が寄せられた。似たような話はときどき聞く。特定の人物が同じ役職を長く続け、PTAやその連合組織を私物化してしまうことがあるのだ。最近は会則で役職任期に上限を設けるPTAが増え、現役保護者による“専制”は昔と比べると減った印象だ。だがOB・OGと呼ばれる元会長が何らかの役職を名乗りPTAに居座ると歯止めがかけられない。そのために現役保護者が悩むケースをあちこちで見かける。
 冒頭の相談は、ある公立小学校に子どもを通わせる母親から寄せられた。昨年度はPTAで保護者向け講演会を企画・実行する委員として活動していたが、毎年引き継がれてきたルールが保護者らの負担となっていることに気付いた。時間と労力をかけてイベントを実施しても、参加するのはいつも委員だけ。決められた講師謝礼はごく少なく、企画できる内容は限られてしまう。毎年市が主催する研修会に動員をかけられ、委員から何人参加したか報告するよう求められるのもおかしな話だった。
■経験と実績があるから
 そこで、仲間と相談し、活動の見直し案を取りまとめて役員会で提案したが、いくつかははっきりしない理由で却下されてしまった。決定を下したのは会長の横に座っていた、やや年長の女性だった。役員同士の話し合いは一切行われず、その女性が「ここは変えていい」「ここはダメ」と口頭で指示を出した形だ。元委員の母親はこう話す。
「PTA会長はその人から言われたことをただ伝えるだけ。私たちが『それはおかしい、理由が分からない』と訴えても、『私に言われても……』と逃げてしまう。話になりませんでした」
 会長に指示を出した女性は一体何者なのか──。
 周囲に尋ねると、女性は“顧問”と呼ばれる地域住民であることがわかった。十数年前にPTA会長をしていた元保護者で、子どもはとうに成人している。ところが今でもPTAの役員会には毎回顔を出し、あらゆることをほぼ一人で決めているという。昔からPTA活動に熱心で、皆が嫌がる面倒な仕事も進んで引き受けてきたため、発言力があるらしい。
「なにしろ経験と実績があるので、皆その人に『おんぶに抱っこ』でやってきたんです。『あの人に聞けば何でもわかる』というので、校長もPTA会長もその人の言うことに従ってきた。“顧問”を頂点にピラミッド形の構図ができあがっていました」(元委員の母親)
 だが、そもそも“顧問”はPTAの正式な役職ではない。会則に「顧問を置くことができる」という一文はあるものの、組織図に“顧問”の文字は見あたらない。つまり女性は、このPTAで何ら権限をもたないわけだ。そんな人物になぜ、PTAのことを好き勝手に決められてしまうのか? 納得できなかった。
■むちゃくちゃな理屈で
 こうなったらもう自分が本部役員になってPTAを内側から変えるしかない──。そう考えた母親は意を決し、仲間たちと共に今年度の役員に立候補した。だが、これもあっさり“顧問”に退けられてしまったという。
「役員決めの場で“顧問”が私たちに対し『役員を“免除”してあげます』って言い出したんです。『あなたたちは以前も役職をやったことがある。何度もやらせるのはかわいそうだから』って。一見親切そうですが、むちゃくちゃな理屈です。目の前で突然シャッターをバンとおろされた気分でした」(同)
 異議を唱える者はなかった。後にわかったが、このときはPTA会長すら立候補者の存在を知らされていなかったという。呆然(ぼうぜん)とする母親たちを尻目に“顧問”は一人で話を進めた。
「立候補したのは私たちだけでしたから、そのままでは役員が決まりません。そこで“顧問”は他の学年の保護者たちに『クジ引きで1人ずつ役員を出せ』って言い出したんです」(同)
 これには当然、他学年の保護者らが反発した。
「『どうして立候補した人にやらせないで、私たちから役員を出さなきゃならないのか』と詰め寄られて。すると“顧問”は『いいから、早くクジで決めて!』と逆ギレして、部屋から出て行ってしまいました」(同)
■話し合いすらも拒否
 最終的にはクジ引きが行われ、他学年の保護者たちが役員を押し付けられる結果となった。
「本当は私たちが本部役員になって、入会届の整備を進めたり、『6年間に必ず一度は役員をやる』というルールをなくしたりして、時代に合ったPTAに変えていきたかった。でも、あの“顧問”がいる限りはまずムリだろうなって……」(同)
 どうにかして“顧問”をPTAから追い出せないものか。伝え聞く話では、この女性はかつて近隣の幼稚園のPTAにも口出しを続けていた。だが10年ほど前に、他の保護者らが団結してこの女性の排除に成功。以来、口を出さなくなったという。そのやり方をまねできないものか。
「私たちもどうやったのか知りたいんですが、だいぶ前のことで当時の保護者が見つかりません。それに、今回はもう他に居場所がないので、テコでも動かないと思います。最近はあきらめ気味です……」
 母親は怒りの交じった表情で肩を落とす。
 元会長らが長く居座り、不当に権力をふりかざす例は、各校のPTAの集合体であるPTA連合会、いわゆる「P連」においてさらによく聞く話だ。関東地方のある市P連では事務局長が力を持ち、全てを取り仕切っている。この人物もやはり20年近く前にPTA会長をしていた。同市内のある小学校のPTA会長の男性は、市P連に対し運営方法や活動内容の見直しを求め、数年間にわたり根気強く働きかけを続けてきたが、最近ついにあきらめたと話す。
「僕が会議で話し合いを求めるたび、事務局長が『今日は時間がないから次の会議で議題にしよう』と言う。でも毎回その繰り返しで、いつになっても議題にしない。僕は別に『P連を変えてくれ』と言ったわけでなく、『変える必要があるかどうかを含め、みんなで話し合おう』と言ってきただけ。その話し合いすら拒否するのでは、もうどうしようもありませんよね」
 男性はこれ以上P連に所属する意味はないと考え、同じ小学校の他の会員や校長とも相談のうえ、同校PTAとしてP連から退会することを決めた。
■学校や教委も口出せず
 他方では、会長がP連を私物化する例もある。ある県P連では、会長に追い詰められた事務局長が離職を余儀なくされた。在籍年数は事務局長のほうが長かったため、就任当初は会長も事務局長の助言に従っていたが、年を重ねるうちに暴走を始めたという。
「たとえば、数十万円程度の支出は会長が一人でどんどん勝手に決めてしまいます。『そんな予算はない』『ちゃんと総会にかけてほしい』と訴えても、『これで処理して』の一点張り。もう手がつけられなくて……」(元事務局長)
 揚げ句、会長は資金繰りの悪化の責任を事務局長にすべて押し付けた。事務局長はうつ病を患い、離職した現在も治療を続けている。
 6月にはさいたま市PTA協議会でも元会長らが業務上横領の疑いで逮捕された。
 PTAや連合組織で権力を握った人物に対抗することは、かくも難しい。PTAは行政上“社会教育関係団体”と位置づけられているため、学校や教育委員会に助けを求めても「我々は口出しできない」と言われてしまう。さらに最近は地域住民が学校運営に参加する「コミュニティ・スクール」の推進で、元保護者の学校への関与は増している。「部外者だから」という理由では追い出しづらくなりそうだ。
 だが、泣き寝入りはよろしくない。相手が去らずとも、自分が去ることはできるだろう。不同意の表明が増えれば、いつかは状況も変わるはず──。もはやそう祈るしかない。
(ライター・大塚玲子)
AERA 2024年7月8日号