警告されていた大阪万博会場の「メタンガス爆発」が現実に、甘すぎる防災計画に不安しかない(2024年5月14日『JBpress』)

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大阪・関西万博をPRするイベントで、開幕まで「365日」をしめすカウントダウン時計とポーズをとる公式キャラクター「ミャクミャク」=4月13日、大阪市(写真:共同通信社
 
 一歩間違えていたら大惨事だった。
 
 3月28日午前11時頃、大阪市此花区の大阪・関西万博会場予定地の夢洲(ゆめしま)で作業員が屋外イベント広場にあるトイレで溶接作業をしていたところ爆発が起きた。地下にたまっていた可燃性ガスに火花から引火したとみられる。
 
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【写真】報道陣に公開された木造巨大屋根「リング」=4月8日
 
 コンクリートの床など約100平方メートルを破損したが、けが人が出なかったのがせめてもの幸いだった。
■ 信じられなくなった「万博の開催時に危険はない」の大臣答弁
 可燃性ガスは地下のメタンガスとみられるが、この万博会場地下のメタンガスをめぐっては、以前から問題視されていた。
 23年11月29日の参院予算委員会社民党福島みずほ参議院議員は、万博会場となっている現場の土壌改良の必要性について次のように質問している。
 「何で万博会場は土壌改良をやらないんですか。有害物質の上でやるんですか。今、ここ、現場でメタンガスが出ていますよね。どういう状況ですか」
 これに対し、自見英子万博担当相は「御質問いただきましたメタンガスは、2014年に大阪市等が設置をいたしました大阪広域環境施設組合が会場を含めた夢洲の一部において発生を確認し、管理を行ってきたと聞いてございます」と発生を認めている。
 だが続けてこう述べている。
 「大阪市廃棄物の処理及び清掃に関する法律に関連する省令に基づき配管施設を設置し、また発生しているガスを大気放散していると聞いてございまして、万博の開催時に危険はないと考えているところでございます」
 なんとも楽観的な見解ではないか。福島氏は「メタンガスに火が付いたら爆発をします」と迫ったが、実際に福島氏が懸念したような事態が起きてしまったわけだ。
 今回はケガ人がでなかったが、現在もメタンガスは発生していると考えてよい。このような危ない土地の上で万博が開催されようとしていることを、われわれは強く認識しなければならないだろう。
 
想定が甘すぎる防災基本計画
 昨年暮れに25年春に開幕予定の大阪・関西万博の「防災基本計画(初版)」が万博協会から発表されているが、一部の関係者からは「甘すぎる防災計画に呆れてしまった」という声が漏れている。
 
 計画は万博のホームページで誰でも閲覧できるので、ぜひとも読者にもざっと目を通して欲しいのだが、そこには地震、火事、落雷、台風、豪雨、熱中症など項目ごと対策が記されている。
 最大の問題は避難路だ。
 会場となる夢洲は大阪湾の海に浮かぶ人工島で、ここへのアクセス道路は北側に位置する舞洲(まいしま)とを結ぶ「夢舞大橋」と、南側の咲洲(さきしま)とを結ぶ「夢咲トンネル」の2カ所しかない。鉄道については咲洲にある地下鉄大阪メトロのコスモスクエア駅から延伸されて会場内に夢洲駅(仮称)が出来る予定になっている。
 つまり災害が起きた場合に会場から避難できるのは夢舞大橋夢咲トンネル、そして地下鉄の3つであり、これが通行不可となれば夢洲は孤立してしまう。
 それなのに、この防災計画では孤立した場合のことに一切触れていない。
「公表されている防災基本計画は、万博開催に向けてなんとかムードを盛り上げたいと思っている協会がマイナスイメージを極力排除した計画書であることは明らかです。だからでしょう、一番大事なアクセス道路や線路が通行不能になった場合にどのようにするのかについて触れられていないのは。一目見て唖然としました。
 協会は開幕後には1日10万~20万人の入場者を想定しているようですが、まず不測の事態になった場合の想定を記すべきであり、それができていない防災計画は“欠陥”と指摘されてもしょうがない。今回は初版ということで改定されていくのだと思いますが、基本のアクセス道路などを使った避難について記すことができなければ万博は開催すべきではないとも思っています」(大手新聞・大阪府庁担当デスク)
「地盤は大丈夫」は本当か?
 またこの防災基本計画では南海トラフ地震級の最大震度6弱が会場内で起きた場合の想定で作られているが、能登半島地震では震度6強から7という想定外の地震が起きているので「想定が甘いのではないか」との指摘も出ている。
「地盤はしっかりしていますから大丈夫です」
オール電化のはずが事実上のプロパンガス使用許可
 また筆者は昨年からJBpressで万博開催に向けての疑問点を指摘してきた。その中で、オール電化で開催する予定の万博会場の電力量が足りないことも指摘している。
 この問題は各国から協会側に対して関西電力との契約電力量を引き上げるべきだという要望書も出されているが、協会側はこの事実を明らかにもしていない。パビリオンにはレストランなどを併設する計画があり、どうしても電力が足りないことは机上の計算でも明らかなのに協会は電力量を増やすことをしなかった。契約した量を増やすのがそれほど難しいことだとは思われないが、計画が杜撰だったと指摘されるのが嫌なのだとしか思えない。
 筆者は以前の記事の中で、電力不足を訴える国や企業・団体の関係者に対し、協会側の職員が「電力が不足しているのなら、プロパンガスもありますし」と言っている実態も明らかにしている。
「プロパンガスを使ってはいけない、とは内規で書かれていませんから」などと述べたというが、オール電化を謳いながらこのような「抜け道」をこっそり示唆するという姑息なやり口には唖然とするしかなかった。
 ところが前出の防災基本計画では、会場内での「ガスボンベ」使用についてもシレっと書かれている。いうなれば、パビリオンでのプロパンガスの使用は協会のお墨付きを得た格好になっているのだ。これでは何のためのオール電化での開催予定だったのか理解不能である。
 無論、オール電化は火災予防のためである。避難路も限られている。地下からはメタンガスが発生している恐れもある。そんな会場で、お昼時に大地震が起きたらどうなるか。
 地震でパビリオンが倒壊するような事態になっても、オール電化なら飲食施設では直火がないので延焼する可能性は低い。だがプロパンガスの場合にはすぐ火災に直結してしまう。消防車が常時スタンバイしている体制にしていても、複数個所から火の手が上がれば手に負えなくなるのは明らかだ。そして前述のように、来場者やスタッフたちの避難経路については防災基本計画では全く指摘されていないのだ。
 あるパビリオン運営担当者が言う。
「一昨年も前から電力については協会側に対して変更を要望してきましたが、結局、電力に不安を残したまま進んでいるのは非常に残念です。しかし、だからといってプロパンガスを使うのは危ないので、ウチでは大型発電機を入れることにしました。すでに発電機は契約をしていますので、ウチのパビリオンはオール電化で運営できますが、他のパビリオンにはプロパンガス使用のところもあると思います。
 パビリオンの建設にあたって協会側は『非常口の表示をはっきりするように』と強く行ってきましたが、パビリオンに非常口を作っても会場内から脱出するのはどのように考えているのか。全く理解ができません」
避難ルート、増やすのは当然
 大地震が起きれば火災の心配だけでなく、津波に襲われる危険もある。津波の危険に対し、協会の防災基本計画では、
夢洲は下記(ウ)のとおり津波・高潮対策のため嵩上げされており、夢洲への浸水被害は夢洲周辺部に限られる想定となっている」
 としている。
夢洲の地盤高はO.P.(編集部註:大阪湾最低潮位)+11mであり、満潮時の津波予想高さO.P.+5.4mに対して5m以上の嵩上げを行っている」
 だが、もしも会場内に想定以上の津波が押し寄せてきた場合には逃げ場がないのがこの会場の特徴である。小高い山があるわけでもなく、逃げ場となる高い建物もない。となれば“運を天に任す”という神頼みしかないのだ。
 それだけに避難路の確保は絶対条件だと思うのだが…。
 万博を開催するに当たって、万博協会は国際万博協会に対して安全・安心な開催をアピールしていた。夢洲とアクセスできる夢舞大橋が4車線なのを6車線にするとの計画書もあったが、それも実現はしていない。
 また、会場内には小型船の桟橋や中型船の桟橋が整えられる予定であることも記されていたが、今回の計画書ではこの計画はすっぱりと削られてなかったことになっている。
「以前は、夢洲近くの南港やUSJ近くの岸壁などから定期船を往復させる計画がありましたし、神戸空港関西空港と結んだりする計画もあったんです。実現すれば災害時に観客の避難にも利用できます。
 しかし、この防災基本計画ではその件に全く触れられていません。道路が通行止めになり、鉄道も運行停止になってしまったら夢洲は孤立してしまいます。10万人の来場者が取り残されたまま火災が起きたらどうなりますか? 一応会場内にはヘリポートもありますが、到底避難させられる数ではないのですから当てになりません。関東大震災では東京の下町で火災による10万人規模の犠牲者が出てしまいましたが、そのような懸念が残ったままなのです」(前述・府政担当デスク)
 これだけリスクがあるのに開催に突き進むのは「無謀」と指摘されても致し方ないのではないか。