経済機密守る新制度は透明性高い運用を(2024年5月14日『日本経済新聞』-「社説」)

 10日の参院本会議では、賛成多数で重要経済安保情報保護・活用法が成立した
 経済安全保障にかかわる機密情報を扱う資格制度が、日本でもようやく動き出す。政府は国際的に通用する仕組みにするとともに、運用にあたってはプライバシー保護の面などで国民の不安を払拭しなければならない。
 重要な経済情報の漏洩防止と活用をめざす新法が成立した。政府が持つ機微情報にアクセスする人を審査し、資格を与える「セキュリティー・クリアランス(適格性評価)」制度の創設が柱だ。
 防衛や外交など伝統的な安保領域の機密に関しては、2014年に施行した特定秘密保護法ですでに同様の仕組みができている。新法は今までカバーしていなかった経済や技術といった分野にも、適格性評価の対象を広げる。
 サイバーや宇宙、人工知能(AI)、量子といった最先端の技術開発を担うのは民間だ。新たな制度の下で適格性評価を受けるのは公務員だけでなく、かなりの部分は民間人になる見通しだ。
 新制度の導入を求める声は、民間からも上がっていた。
 主要7カ国(G7)で適格性評価の仕組みがないのは日本だけだ。海外ではこの資格がないと、軍事転用も可能な技術を扱う国際会議や協力案件に参加できない場合が多い。新法の成立が遅れれば、日本企業の国際競争力に響くおそれがあった。
 その意味で自民、公明の与党だけでなく、立憲民主や日本維新の会、国民民主の野党も新法案の採決で賛成に回ったことは評価したい。与野党の対立で日本企業の競争力がそがれる事態だけは、何としても避けなければならない。
 国民の間に、新制度への懸念が根強くあるのも事実だ。
 適格性評価では、犯罪歴や薬物の使用歴、配偶者の国籍からスパイ活動との関連まで洗いざらい調べる。調査はあくまで本人の同意が前提となるが、断ったり、不適格になったりした場合に仕事で不利な扱いを受けるのではないかとの不安は残る。
 政府は従業員を不当に扱った企業との契約を打ち切るなど具体的な対応策を示し、最先端の技術を扱う人たちが安心して制度を利用できるようにすべきだ。
 経済安保にかかわる重要な機密とそうでない情報の線引きもまだはっきりしない。政府は新たに有識者会議を設置し、詳細を詰める。透明性の高い運用ルールを示すのは、政府の責任である。