玄海町も文献調査 核廃棄物の処分へ前進だ(2024年5月11日『産経新聞』-「主張」)

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佐賀県玄海町議会の全員協議会に臨む脇山伸太郎町長=10日午前
 
 日本が抱える未解決のエネルギー問題へ国民の関心を向けるのに貢献する対応だ。
 佐賀県玄海町の脇山伸太郎町長が、原子力発電で生じる高レベル放射性廃棄物(HLW)の最終処分場選定に向けた第1段階「文献調査」の受け入れを表明した。
 経済産業省からの申し入れを脇山氏が受諾した。令和2年11月から文献調査が始まった北海道の寿都町神恵内村に続く第3の自治体の出現である。
 深地底の最終処分場建設で先行するフィンランドなど海外の事例に照らすと、理想的な地質条件を備えた地点選定には10前後の自治体での文献調査から始めるのが望ましいとされる。
 寿都町神恵内村では文献調査結果がほぼまとまり、ボーリングなどで地下の構造を調べる「概要調査」移行が焦点となっている。そうした状況で4月下旬、玄海町の商工3団体が文献調査を受諾するよう求めた請願が町議会で採択された。
 あとは脇山氏の決断のみとなり、経産省が調査を受け入れるよう申し入れていた。これが、当初の反対姿勢を転換するかどうかで迷っていた脇山氏の受諾判断を後押しした面はあろう。何よりも民意を尊重した脇山氏の見識を高く評価したい。
 玄海町が受諾したことで、HLWの問題が北海道だけのものとなりかねない事態は避けられた。この意義も大きい。
 寿都町の片岡春雄町長は、第3の文献調査自治体の出現を条件に、概要調査への住民投票を行う考えを示していたので、北海道ではさらに議論が活発化するだろう。
 「核のごみ」とも言われるHLWは万年単位の長期間、放射能を持ち続ける。これを人間の生活圏から隔離するには地下300メートル以深の岩盤中にトンネル網状の施設を建設し、そこに埋設するのが最も確実な方法だ。これは世界の共通認識だ。
 だが、原子力に関する世論調査でもこの問題の国民理解は進んでいない。一方、玄海町には九州電力玄海原子力発電所が立地している関係で、原子力エネルギーの利用とその後始末であるHLW問題の重要性を知悉(ちしつ)する町民が多いという。
 玄海町の前向きの対応はHLW問題の解決に向けての心強い動きだ。第4、第5の文献調査地が現れるよう期待する。