ガザ休戦交渉の中断 ラファ侵攻は許されない(2024年5月11日『毎日新聞』-「社説」)

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イスラエルの避難勧告を受け、パレスチナ自治区ガザ地区最南部ラファから退避した住民たち=同地区南部ハンユニスで2024年5月6日、ロイター
 
 罪のない市民の命が奪われ、飢えた子どもが爆音におびえる。この「地獄」を終わらせることはできなかった。
 パレスチナ自治区ガザ地区の戦闘で、イスラエルイスラム組織ハマスの休戦交渉は、合意に至らないまま一時中断された。
 仲介役のエジプト、カタールなどは、ハマスが捕らえている人質を段階的に解放し、戦闘を終結させる休戦案を示した。ハマスが受け入れを表明する一方、イスラエルは「恒久的な停戦」には応じられないと拒否した。
 ハマスイスラエルを奇襲攻撃して始まった戦闘は7カ月を超えた。ガザでの死者は約3万5000人に上り、7割が女性や子どもとみられている。
 ハマス壊滅と人質解放を急ぐイスラエルは、ガザ地区最南部ラファへの侵攻を計画する。エジプトとの境界に軍部隊を展開しており、人口密集地へ投入する構えだ。
 ラファには、北部や中部からの避難民を含む約150万人が身を寄せる。本格侵攻があれば、犠牲者が急増するのは確実だ。
 そのためアラブ諸国は「重大な人道危機を伴う」と警告し、日本や欧米も反対している。
 住民は攻撃を恐れ、すでに大移動を始めている。イスラエルの避難勧告を受けての行動だが、勧告は市民の強制移住を禁じたジュネーブ条約に反する可能性も指摘されている。
 国際司法裁判所(ICJ)は1月、イスラエルにジェノサイド(集団虐殺)を防ぐあらゆる措置を取るよう命じた。これ以上犠牲を出すことは許されない。
 国連などによると、多くの住民が栄養不足や飢餓の状態にあり、大半の医療機関は機能不全だ。
 世界では、イスラエル政府の強硬姿勢に批判が広がっている。最大の支援国・米国でも、若者たちが大学で抗議活動を続ける。
 バイデン米大統領はラファが本格侵攻された場合、「兵器の供給をやめる」と表明した。これに対し、イスラエルのネタニヤフ首相は「単独でも戦う」と反論した。
 侵攻はイスラエルの孤立をさらに深め、安全保障環境を悪化させるだけだ。ネタニヤフ氏は国際社会の警告を重く受け止めなければならない。