安定的な皇位継承 先送りせず本質的な議論を(2024年5月9日『河北新報』-「社説」)

 天皇陛下の即位から5年が経過した。新型コロナウイルス禍にあった約3年間を経て、ことし3月と4月には能登半島地震の被災地を見舞うなど「象徴としての務め」を果たされてきた。

 即位5年に合わせて共同通信が実施した皇室に関する世論調査では、皇位継承の安定性について「危機感を感じる」が「ある程度」を含め、72%に上る。

 皇位の安定継承を巡り、国民の関心は高まっている。皇位が支障なく継承されるよう、現実的な皇室典範の改正が必要ではないか。

 憲法2条は「皇位は、世襲のものであって、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する」と規定している。皇位継承皇室典範のルールに従う事案だ。そこに安定継承への問題があるのならば、政府と与野党は国民の幅広い支持が得られる制度改正の道筋を示すべきだろう。

 皇室典範は、皇位は父方が天皇の血筋を引く男系の男子が継承するとし、皇族女子が結婚した場合は皇族の身分を離れると定めている。

 天皇陛下より若い次世代の皇族は長女愛子さまら6人いるが、皇位継承資格を持つ男子は秋篠宮さまの長男悠仁さまに限られる。

 現行制度のままなら将来、公務を担う皇族が減るだけでなく、「皇統の維持」そのものが懸念される。

 政府の有識者会議は2021年12月、皇族確保のための二つの方策を報告書にまとめた。皇族女子が結婚後も皇族の身分を保持する案と、皇族の養子縁組を可能とし、戦後に皇室を離れた旧宮家の男系男子を皇族復帰させる案を盛り込んだ。

 しかし、女性天皇や母方が天皇の血筋を引く女系天皇の是非など具体的な皇位継承策には触れていない。あくまで皇族数を増やす、いわばその場しのぎの方策に過ぎず、皇位の安定継承につながる抜本策とは言えない。

 憲法上の課題も指摘されている。過去の家柄を理由に、特定の民間人を皇族に復帰させる養子縁組案は、憲法が禁じた「門地(家柄・家格)による差別」に触れる恐れがある。「男子」に限定すれば「性別による差別」にも当たるだろう。

 そもそも、70年以上も前に皇室を離れた旧宮家の子孫の民間人が皇族に戻ることに国民の理解が得られるのかどうか、疑問視する声は当然だ。

 自民党は4月下旬、この報告書を「妥当」と評価し、報告書に沿った党見解を示した。これで各党の意見が出そろった。衆参正副議長の下、与野党代表者による協議が始まる。

 共同通信世論調査では、女性天皇は90%、女系天皇は84%が賛意を示す時代だ。皇族確保策にとどまらず、皇位継承についても踏み込んだ本質的な議論を期待したい。