かけがえのない自分を認める、「こどもの日」(2024年5月5日『産経新聞』-「産経抄」)

キャプチャ
 大型クレーンでつり上げられ、空を泳ぐ「ジャンボこいのぼり」=3日午後、埼玉県加須市利根川河川敷
 
 自分が自分である喜びを素直につづる。今年で没後10年となる詩人のまど・みちおさんには、そんな作品が多い。<おはなが ながいのね>と容姿を冷やかされた子ゾウが<そうよ/かあさんも>と誇らしげに言う『ぞうさん』。
▼やや堅苦しい表現を使うならば、「自己肯定感」に満ちた詩と言えるかもしれない。自分という存在を気取らずに詠んだ『ぼくが ここに』の一節も味わい深い。<ぼくが ここに いるとき/ほかの どんなものも/ぼくに かさなって/ここに いることは できない>
▼モノも人も生き物も「そこにあるだけ、いるだけで祝福されるべき」だと、まどさんは語っていた(集英社『いわずにおれない』)。詩につづった言葉は子供に語り掛けるようにやさしく、そして〝元子供〟である大人をはっとさせる響きがある。
総務省によれば、15歳未満の子供の数は約1401万人(4月1日時点)で43年連続の減少という。総人口に占める割合は11・3%となった。人数、比率ともに、比較可能な昭和25年以降では最も低い。出生数の落ち込みを思えば仕方ないとはいえ、寂しい数字には違いない。
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▼まどさんの先の詩は、この世に二つとない自分という存在について、どこまでも肯定的に書いている。こう続く。<ああ このちきゅうの うえでは/こんなに だいじに/まもられているのだ/どんなものが どんなところに/いるときにも>
▼自分という存在の価値を認めるのは、他でもない自分―。一人でも多くの子供に、詩人の思いに触れてほしいものである。きょうは「こどもの日」。かつて子供だった大人にとっても、自分を見つめ直す日だろう。まどさんの詩を口ずさんでみるのも悪くない。