こどもの日 考える楽しさを知ろう 本はいつでも「友達」だ(2024年5月5日『産経新聞』-「主張」)

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『旅の絵本 IX』安野光雅
 
 おはようございます。今日は「こどもの日」です。祝日ですね。皆さんは何をして過ごしていますか。
 おでかけでしょうか、家でのんびりしているでしょうか。友達と遊ぶ約束があるかもしれません。
友達はいますか? いる、いないは人それぞれですが、いつでもすぐに会える「友達」を紹介したいと思います。それは、本です。
 「あ、そうか」と思ったあなたはすでに本の友人ですね。もっと仲間を増やしてください。
 「え、そうなの?」と思った人には、ぜひ、こんな話を聞いてもらいたいと思います。
 ふしぎな絵や絵本を描いて、子供にも大人にも人気だった安野光雅(あんの・みつまさ)さんという絵描きさんがいました。
 たくさん本を読んでたくさんの本を書きましたが、本を読むのが好きになったのは小学生のときだったそうです。ところが妙なことに、最初は、本の内容より「読む行為(こうい)」がおもしろかったというのです。どういうことでしょうか?
<書いてある文字が「りんご」なら、「り、ん、ご」と目と指でたどって、「りんごだ!」と思う。「り」と「ん」と「ご」だけが書いてあってもわからないのに、ある日、それが一緒だと「りんご」と書いてある! と、気づいて、うれしくなる>(『かんがえる子ども』福音館書店
 
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 わかりますか? 「目と指、目と文字が合っていくという感じ」だと安野さんはいいました。字をたどっていると、フッと頭にリンゴが浮かんだのかもしれません。そのとき本を読んで考え、理解することの楽しさを知ったのだと思います。
ここで大切なのは「自分で考える」ことです。自分で答えを見つけることが楽しいのです。自分で考えるくせがつけば、自分の考えを持てるようになります。
 実は、安野さんとこんな話をしたことがあります。「テレビやスマートフォンの手軽なおもしろさ」についてです。
 こども家庭庁の最近の調べでは、10歳・小学4~5年生の65%はスマホを持っているそうです。平日にインターネットを利用する時間は、10歳以上の小学生が3時間46分、中学生は4時間42分でした。目的は動画や音楽、ゲームが多いようです。
 それらはボタンを押すだけで積極的に人を「おもしろがらせ」てくれます。ところが本は自分から「読む」ことをしないとおもしろさがわかりません。ちょっと面倒ですね。けれど、自分で見つけたおもしろさは、与えられたおもしろさより何倍も楽しくまた心に残るものです。
 こどもの日を含めて12日まで「こどもの読書週間」です。近くの図書館や本屋さんをのぞいてみてはどうでしょう。愉快(ゆかい)な「友達」と出会えるかもしれません。
 読書はドラえもんの「どこでもドア」のようなものだと思います。
 表紙を開くとアフリカでも宇宙にでも行ける、恐竜にだって会えるのです。そこにはあなたの可能性が潜(ひそ)んでいます。まずは1冊、本を手に取ってみてください。きっとすてきな世界が待っています。