男性の子育てを後押しする職場改革を(2024年5月5日『日本経済新聞』-「社説」)

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子どもの健やかな成長を支えたい
 
 「育児をしない男を、父とは呼ばない」。インパクトのある標語で、政府が男性の育児をうながしたのは1999年だ。四半世紀たった今も、女性に家事・育児の負担が偏る状況は変わらず、少子化の要因となっている。男女がともに子育てを担い、日々の子どもの成長を支えていけるよう、阻む壁をなくさねばならない。
 カギを握るのは、職場の古い労働慣行の見直しだ。家族のケアを負わないことを前提にした長時間労働などが根強く残り、両立の大きな壁になっている。
 長時間労働を見直し、働く場所や時間を柔軟にする。時間ではなく成果で評価する。無駄な業務を棚卸しし、生産性向上を図る。こうした職場全体の取り組みでキャリアや収入への不安が軽減されれば、男女ともに子育ての時間を確保しやすくなる。
 私生活と両立しやすい職場づくりは、企業の人材確保面でもプラスのはずだ。最近は転勤制度を見直す企業も目立つ。転勤の有無や勤務地を選べる仕組みなどだ。これらの動きも一助となるだろう。
 もう一つ、育児=女性という思い込みも、職場はもちろん社会全体で変えねばならない。育児休業などの両立支援制度は男女ともに使えるが、育休取得率は女性80.2%に対し男性は17.13%にとどまる。取得期間の差も大きい。短時間勤務制度の利用も、女性が中心だ。
 政府は「共働き・共育て」を掲げ、両立支援制度を充実させる改正法案などを国会に提出、審議中だ。男性の育休取得率を2030年までに85%にする目標も掲げる。ただ、意識改革を伴わなければ、せっかくの男性育休も短期の「取るだけ育休」になりかねない。
 父親の育児は、さまざまな効果が期待できる。母親だけが担う「ワンオペ育児」を解消し、ともに子育ての喜びを分かち合える。夫の家事・育児時間が長いほど、妻が出産後も同じ仕事を続ける割合が高く、第2子以降の出生割合も高い傾向にあるといったデータもある。
 経済協力開発機構OECD)によると、日本で家事・育児など無償労働の時間は男女で5.5倍の格差がある。先進国で飛び抜けて大きい。一方、総務省の推計では15歳未満の子どもの数(4月1日現在)は前年より33万人減の1401万人で、43年連続で減少した。今こそ、流れを変えたい。