こどもの日 五感を高める体験を大切に(2024年5月5日『読売新聞』-「社説」)

 デジタル技術の進展で社会は大きく変化している。そんな時代を生き抜くためには、子どもたちにどのような力が必要なのか。「こどもの日」のきょう、みんなで考えたい。
 こども家庭庁が10~17歳を対象に昨年実施したインターネット利用の実態調査では、1日の平均利用時間は約5時間で、2年前に比べ約30分延びた。コロナ禍の自粛生活を経て、スマートフォンへの依存がより強まったのだろう。
 夜中まで動画を見ていて睡眠不足になり、学習意欲の低下や心身の疾患を招くこともある。自分のスマホを持っている小学生も珍しくない。家族で使用時のルールを決めておくことが大切だ。
 現代の子どもたちにとって、スマホは友人との連絡や娯楽に欠かせない存在である。ただ、頼りすぎて、日常生活の中で「なぜ?」という疑問が浮かんでも、自分の頭で考えず、すぐにスマホで答えを探そうとしてはいないか。
 自分の部屋にこもり、仮想空間に長時間浸るのは健全とは言えない。五感を通して得られる現実の体験を大切にしたい。時にはスマホを置いて、外でのびのびと活動できる機会を増やしてほしい。
 登山や川遊び、キャンプなどで自然と触れ合う体験は、子どもの自己肯定感を高めるとの調査結果もある。ボランティアや農作業などの社会体験も有効だという。
 身近な公園は、子どもたちが外遊びを楽しめる大切な場所だ。しかし、都市部では近年、ボール遊びや大きな声を出すことを禁止するケースが増えた。遊具の代わりに、高齢者向けの健康器具を設置している公園もある。
 結局、子どもたちは公園に集まっても、駆け回るわけでもなく、友達と車座になってゲームに興じるケースが多い。もっと自由に遊び回れる場所が必要だ。
 火おこしや木登りなど、子どもたちがやりたいことを楽しめる遊び場「プレーパーク」を増やしていくことも一案だろう。
 東京都は昨年度から、こうした場の拡充を進めている。自治体が子どもたちから、やってみたい遊びや必要な設備などを聞き取り、計画に生かす仕組みだという。
 昨年施行された「こども基本法」では、国や自治体が施策に子どもの声を反映させるよう求めている。遊び場の確保についても、子どもたちが自ら関わることで、より楽しめるものになるはずだ。
 人口減と少子化が進んでいる。子ども一人ひとりの成長を、社会全体で支える意識を持ちたい。