小池都知事の経歴詐称疑惑が選挙戦に与える影響と気になる萩生田氏の求心力 衆院補選15区(2024年4月16日)

 自民党乙武氏の推薦を断念した日の夕方、それを待っていたかのように国民民主党乙武氏の推薦を決定した。しかし国民民主党の推薦があるからといって、乙武氏の当選の可能性が広がるわけではない。実際に2022年の参院選東京選挙区では、小池百合子東京都知事の分身ともいえる荒木千陽前都民ファーストの会代表が国民民主党の推薦を得て出馬したが、東京15区では24万6424人の有権者が投票した中で、荒木氏は1万367票しか獲得できず落選した。

 しかも国民民主党は当初、フリーアナウンサーの高橋茉莉氏を東京15区で擁立しようとしたが、「法令違反に該当する可能性がある」と公認内定を取り消した過去がある。よって国民民主党の推薦が乙武氏にもたらす恩恵は、さほど大きくはないはずだ。

■消えた小池百合子待望論

 一方で国民民主党にとっても、乙武氏を推薦するメリットは少ない。それでもあえてメリットを見いだすなら「東京都知事小池百合子」という存在になるが、小池知事の経歴詐称疑惑が再燃しているため、黄信号が点滅している状況だ。

 昨年来の「政治とカネ」問題で自民党が逼迫(ひっぱく)する中、「初の女性首相としての小池百合子待望論」が一部でささやかれた。ところが東京15区補選への出馬説が具体化しようとした3月下旬、それまで国政への転出に積極的だった小池知事の動きが止まってしまった。折しも小池知事が頼りとする二階俊博自民党幹事長が3月25日、次期衆院選に出馬しないことを表明した。

 そして4月10日には文藝春秋5月号が発売され、かねて噂された小池知事の「カイロ大学卒業疑惑」について、かつての側近の小島敏郎都民ファーストの会東京都議団政務調査会事務総長と、カイロ時代のルームメートだった北原百代氏からの告発が公表された。小島氏は4年前の都知事選での疑惑隠蔽(いんぺい)工作の始終を暴露し、北原氏は小池知事が「カイロ大学卒業」を捏造(ねつぞう)した事実を証言している。

■小池知事の人生最大の危機

 1992年に政界に入って以来、小池知事は数々の危難をくぐり抜けてきた。とりわけ2005年の郵政選挙で兵庫6区から東京10区へのくら替えや、2016年の東京都知事選へのチャレンジは、大きなリスクを覚悟した上での判断として衆目を集めた。

 いずれも「チャンス」と考えて、自分から飛び込んでいったものだった。しかし今回の経歴詐称疑惑はこれらとは異なる。しかも4年前の都知事選での「経歴詐称疑惑」のように、コロナ禍を理由にその姿を隠すことはできない。小池知事の人生最大の危機に違いない。

 そんな小池氏との連携をかろうじて避けることができた自民党公明党は、ある意味で運が良い。だが江東区長選や八王子市長選で小池知事の力を借りた都連会長の萩生田氏にとっては、次の“寄る辺”を見つけなければならないことになる。萩生田氏には前述した2728万円の裏金問題がある他、昨年には次期衆院選で新設される東京28区をめぐって公明党と対立。かろうじて都連会長の地位は維持できたものの、その求心力は低下している。

 小池知事しか頼る相手のいない国民民主党の迷走も、止まらないだろう。もはや小池知事はジャンヌ・ダルクではなく、日本を惑わしてきた存在に他ならない。様々なものを引き込んで、その悪運は間もなく尽きるのか――。

(政治ジャーナリスト・安積明子)

【関連記事】