どうすれば「冤罪(えんざい)」を防ぐことができるのか。弁護士の西愛礼(よしゆき)さん(32)は、過去に冤罪となったケースを分析し、原因と再発防止を学ぶ取り組みを続けている。裁判官としても、弁護士としても刑事裁判の無罪判決にかかわり、冤罪に対する問題意識を強めたのをきっかけに昨年、冤罪を客観的、体系的に学ぶための書籍「冤罪学 冤罪に学ぶ原因と再発防止」(日本評論社)を出版した。(山田祐一郎)
「冤罪は最大の不条理」と語り、原因究明と再発防止の必要性を訴える西愛礼弁護士=東京都千代田区で
◆6人に無罪判決「知っているのは法廷の自分たちだけ」という不安
「同じことが起きるのでないか」。2016年に千葉地裁判事補となり、合議体の左陪席として3年間で計6人に無罪判決を言い渡した。裁判員裁判対象事件もあったが、傍聴人が被害者や被告の関係者しかいない事件もあった。「マスコミもおらず、判例集にも載らない。逮捕した警察も知らないかもしれない。無罪を知っているのはこの場にいる自分たちだけではないか」との思いを抱いた。
「原因を検証しなければ、被告が味わった苦痛が繰り返される」と思う半面、「自分一人では何もできない」という無力感もあった。6人の無罪判決は、中立的に判断した結果だったが、このときの経験が今の活動につながっているという。
◆無罪主張するほど保釈されない「人質司法」問題
冤罪を強く意識するようになったのは、大阪地検特捜部が捜査した業務上横領事件で逮捕、起訴された不動産会社「プレサンスコーポレーション」元社長の冤罪事件だ。
21年に弁護士として活動を始めた西さんは、事件の弁護団に加わった。同年10月、元社長は大阪地裁で無罪判決を受け、検察側が控訴を断念して確定した。
事件で元社長が逮捕から保釈まで身体拘束された日数は248日。裁判で無罪を主張するほど保釈されない人質司法の問題を目の当たりにした。「努力して得た地位や財産、人間関係が勾留の理由とされてしまった。こんな理不尽なことがあるのか」
◆教訓を知識化「学問として客観的・体系的に学べる書籍に」
事件を機に、冤罪をなくすため、まずは過去の冤罪事件の研究を始めた。「個別の冤罪事件についての論評は多くあるが、それを集積したものがなく、想像していた以上に大変だった」。冤罪が時代を経ても再生産される構造を変えるには、過去の事件から得られる教訓の知識化が必要と感じた。「主観的、体験的ではなく、学問として客観的、体系的に学べる書籍を目指した」と約2年かけて「冤罪学」を書き上げた。
冤罪は捜査機関が出発点となり、原因の比重は大きいが、弁護士や裁判官が問題となる事案もあるとし、著書ではそれぞれの立場で冤罪を生み出すメカニズムを中立的に解説する。「誰しも先入観や偏見があり、人は誰でも間違えるという前提に立たないといけない。一つの機関だけでなく、すべての機関が危機意識を持つ必要がある」
◆法曹三者に期待「冤罪を学び、冤罪から学んで」
強盗殺人事件で死刑が確定した袴田巌さん(88)の再審公判が始まったほか、生物兵器製造に転用可能な装置を無許可で輸出したとして、警視庁が外為法違反容疑で「大川原化工機」(横浜市)の社長らを逮捕後、起訴が取り消されるなど、近年も冤罪を巡る動きは絶えない。「いずれの事件もこのまま検証されないのではという懸念がある。また、検証しても個人のミスや一部の部署の内部不正として矮小(わいしょう)化されては再発防止につながらない」と強調する。
「冤罪は最大の不条理だ。持っていたものを失う一方で、何もしていないのに疑いを晴らすためには、とてもエネルギーがいる」と冤罪防止の重要性を訴える。対立構造だけでなく、捜査機関と弁護側、裁判所が協力し合える部分があるとし、法曹三者が「冤罪を学び、冤罪から学ぶ」ことを期待する。
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【内容紹介】
これまでに明らかになった冤罪の原因、司法の構造的分析とその解決、救済を丹念に解析した『冤罪』構造を知るために必読の書。
【目次】
序 章 冤罪を学び、冤罪に学ぶ
___________________________
第1章 冤罪基礎論
___________________________
第1 冤罪の定義
第2 誤判の定義
第3 冤罪の恐怖
第4 刑事裁判における冤罪の位置づけ
第5 冤罪防止と真犯人の不処罰
第6 冤罪の件数
第7 冤罪の類型
第8 冤罪の研究
___________________________
第2章 冤罪原因論
___________________________
第1 捜査機関による冤罪創出のメカニズム
第2 弁護人による弁護不奏功のメカニズム
第3 裁判所による誤判のメカニズム
第4 冤罪の構図
第5 四大冤罪証拠
第6 虚偽自白
第7 共犯者の虚偽供述
第8 目撃供述の誤り
第9 科学的証拠の誤り
第10 その他の誤導証拠
第11 社会構造による冤罪の再生産
第12 冤罪の構造
___________________________
第3章 冤罪予防論
___________________________
第1 冤罪の予防における3つのポイント
第2 冤罪予防に関する基本的な考え方
第3 リスクマネジメント・クライシスマネジメントによる冤罪予防
第4 組織的・集団的な冤罪予防
第5 個人的・個別的な冤罪予防
第6 虚偽自白に関する冤罪予防
第7 共犯者の虚偽供述に関する冤罪予防
第8 目撃供述の誤りに関する冤罪予防
第9 科学的証拠の誤りに関する冤罪予防
第10 小括
___________________________
第4章 冤罪救済論
___________________________
第1 冤罪の回復不可能性と回復可能性
第2 弁護人による無罪弁護
第3 検察官による不起訴処分・無罪論告・公訴取消
第4 裁判所による無罪判決
第5 再審
第6 冤罪救済支援機関
第7 刑事補償・費用補償
第8 国家賠償請求訴訟
第9 その他の救済手段
第10 残された冤罪救済に関する課題
終 章 冤罪を防ぐということ
これまでに明らかになった冤罪の原因、司法の構造的分析とその解決、救済を丹念に解析した『冤罪』構造を知るために必読の書。
【目次】
序 章 冤罪を学び、冤罪に学ぶ
___________________________
第1章 冤罪基礎論
___________________________
第1 冤罪の定義
第2 誤判の定義
第3 冤罪の恐怖
第4 刑事裁判における冤罪の位置づけ
第5 冤罪防止と真犯人の不処罰
第6 冤罪の件数
第7 冤罪の類型
第8 冤罪の研究
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第2章 冤罪原因論
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第1 捜査機関による冤罪創出のメカニズム
第2 弁護人による弁護不奏功のメカニズム
第3 裁判所による誤判のメカニズム
第4 冤罪の構図
第5 四大冤罪証拠
第6 虚偽自白
第7 共犯者の虚偽供述
第8 目撃供述の誤り
第9 科学的証拠の誤り
第10 その他の誤導証拠
第11 社会構造による冤罪の再生産
第12 冤罪の構造
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第3章 冤罪予防論
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第1 冤罪の予防における3つのポイント
第2 冤罪予防に関する基本的な考え方
第3 リスクマネジメント・クライシスマネジメントによる冤罪予防
第4 組織的・集団的な冤罪予防
第5 個人的・個別的な冤罪予防
第6 虚偽自白に関する冤罪予防
第7 共犯者の虚偽供述に関する冤罪予防
第8 目撃供述の誤りに関する冤罪予防
第9 科学的証拠の誤りに関する冤罪予防
第10 小括
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第4章 冤罪救済論
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第1 冤罪の回復不可能性と回復可能性
第2 弁護人による無罪弁護
第3 検察官による不起訴処分・無罪論告・公訴取消
第4 裁判所による無罪判決
第5 再審
第6 冤罪救済支援機関
第7 刑事補償・費用補償
第8 国家賠償請求訴訟
第9 その他の救済手段
第10 残された冤罪救済に関する課題
終 章 冤罪を防ぐということ