再審の法整備 無実の人 罰しないため(2024年3月19日『東京新聞』-「社説」

 再審制度の改正を目指す超党派の国会議員が議員連盟を発足させた。冤罪(えんざい)事件が相次ぎ、静岡一家4人殺害事件で犯人とされた袴田巌さんのやり直し裁判も進む。無実の人を罰するのは究極の国家犯罪だ。立法府が主導して法整備に全力で取り組んでほしい。
 袴田さんの再審請求審では、検察側が無罪方向の証拠を提出するまで、死刑確定から31年もかかった。証拠開示の手続きが何らルール化されていないためだ。
 2014年に静岡地裁が再審開始を決定したが、検察が不服を申し立てたため、やり直し裁判が実際に始まるまで9年も要した。
 再審は、認められることが極めて困難で「開かずの扉」ともいわれる。その扉を開ける法整備を急ぐべきだと考える。
 再審請求の段階でも、証拠開示ルールの明確化、検察による抗告の禁止を規定することが必要である。そうしなければ冤罪被害者の迅速な救済はできないからだ。
 そもそも、刑事訴訟法には500条以上の条文があるが、再審規定(再審法)はわずか19条しかない。再審の審理手続きを具体的に定めた規定はないに等しい。
 現行法は100年前にできた旧刑訴法をほぼ踏襲し、戦後、新刑訴法になってからも75年間、一度も改正されていない。規定の未整備自体が誤りなのである。
 超党派議連の呼びかけ人には、自民党麻生太郎副総裁や公明党山口那津男代表、立憲民主党泉健太代表ら与野党の首相経験者や代表を含む25人が名を連ねた。議連会長には自民党柴山昌彦衆院議員が就いた。既に百数十人が参加している。
 本来、法務省が自ら取り組むべき課題だが、消極的と聞く。ならば、立法府こそが積極的に取り組まねばならない。議連設立を歓迎し、期待したい。
 1980年代には免田事件をはじめ4人の死刑囚が再審無罪となった。そのときにこそ再審手続きを明確化する法整備が行われるべきだったが、結局放置され、今なお冤罪事件が続く。
 袴田さんに再審無罪が言い渡されれば、戦後5件目の死刑台からの生還となる。
 刑事手続きは人権保障が土台にないと、無実の叫びも公権力にかき消されてしまう。再審制度の整備に向け芽生えた立法府の動きを、国民的な運動に高めたい。