教員の確保策 学校の疲弊解消せねば(2024年4月10日『東京新聞』-「社説」)

 文部科学省が、教員志願者の確保と質の向上に向け、教職に就く大学院生に貸与された奨学金の返済を免除する制度導入の検討を始めた。
 教員不足への対応を検討していた中教審部会の提言に基づくもので、2025年春の新卒採用教員からの適用を目指す。
 ただ、他職種や地域間で公平性をどう保つかなど課題も多い。慎重な制度設計に加えて、学校現場の疲弊を根本的に解消する取り組みも欠かせない。
 同省によると、多様な人材を確保するため、返済免除対象は教職大学院生に加え、教職以外を専門に学ぶ大学院生も想定する。
 当面は大学院で無利子奨学金の貸与を受けた院生を対象とし、優れた業績を上げた人を対象とした現行の奨学金返済免除制度も活用する考えだ。
 教職に就く人の奨学金返済免除はかつて、奨学金事業を運営する日本学生支援機構の前身、日本育英会が行っていた時期がある。
 戦後の教員不足の中で新設された教育大学への入学に誘導するためで、教職に一定期間就いた人の奨学金返済を減免していた。
 しかし、教員志望者が増えたことなどから、公平性の確保などを理由に1998年4月入学以降は廃止された。
 今回の大学院生らを対象にした返済免除も、教員を高度専門職にするとの目的があるにせよ、教員不足対策がもともとある。奨学金の返済が免除されたとしても、学校現場が疲弊したままでは、魅力的な職場と映るはずがない。
 景気低迷の長期化で、学生時代に借りた奨学金が「ローン地獄」として残り、返済に苦しむ問題も度々指摘されてきた。奨学金の返済免除に充てる財源は本来、苦境にある学生への経済支援の充実に向けるべきではないか。
 現在、学校現場で起きている教員不足と職場の疲弊は、正規教員の採用を絞り込み、産休育休などの代替要員を非正規職員に依存してきた構造が要因だ。
 大学院生に限らず、優れた教員人材を確保して教員不足を解消するには、学校を魅力的な職場にすることが先決だろう。
 奨学金の返済免除だけでなく、教員の長時間労働の解消や処遇改善、教員定数を増やすなど、教員の離職や休職を防ぐための抜本的な取り組みが不可欠である。