胃潰瘍で療養していた夏目漱石がある飲み物について書いている…(2024年4月25日『東京新聞』-「筆洗」)

 胃潰瘍で療養していた夏目漱石がある飲み物について書いている。「平野水が(中略)食道から胃へ落ちて行く時の心持は痛快であった」(『思い出す事など』
 
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▼今の時代に「ひらのすい」と正しく読むのは難しいか。現在の兵庫県川西市平野で見つかった炭酸水なので平野水。これが今もおなじみ「三ツ矢サイダー」となる。作家の山口瞳さんは「平野水」を長い間、勘違いしていたそうだ。地名とは知らず、英語の「プレイン(=平野、味を付けていないの意)ソーダ」の日本語訳だと信じていた
▼地名と結びついた食品名の勘違いと聞いて「平野水」を思い出したが、話は和牛である。ブランド牛肉の「常陸牛」を売り出す茨城県。思ってもみなかった理由で苦労していると聞いた。「常陸」が読めない人がかなりいるという
▼あくまでも念のためだが、「ひたち」。県のアンケートによると20代の6割近く、30代でも約4割が「じょうりく」「ときわ」などと読み間違えていたそうだ。正しく読んでもらえなければ、ブランド名の浸透は難しかろう
▼約40年前、小欄の初任地の愛知県東三河地方も難読地名の多いところで「宝飯(ほい)」「作手(つくで)」「御津(みと)」などにあわてた記憶がある
▼誤読はどなたにもあるが、歴史ある「常陸」までも読めない時代が心配ではある。「常陸牛」の健闘を祈るとしよう。正しい読み方のためでもある。
 
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