韓国与党が惨敗 日韓改善の歩み止めるな(2024年4月12日『西日本新聞』-「社説」)

 韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領は、今後さらに困難な政権運営を強いられる。日韓関係に影響が及ばないように、日本からも手だてを尽くしたい。

 韓国で4年に1度の総選挙(国会議員選、定数300)が投開票された。2027年5月まで大統領任期を残す尹氏への中間評価である。

 革新系最大野党「共に民主党」が系列政党を含めて175議席を獲得したのに対し、尹政権の保守系与党「国民の力」と系列政党は108議席と惨敗した。

 反政権の「祖国革新党」も12議席を得て、野党側は法案を単独で迅速に採決できる180議席を超えた。

 政権と国会の多数派が異なる「ねじれ」を解消したい尹氏だったが、逆に議席を減らす厳しい結果となった。

 尹政権の支持率はおおむね30%台に低迷し、選挙戦当初から苦戦が予想されていた。

 不人気の最大の要因は、独断的な政治手法にある。最近は大学医学部の大幅な定員増を巡り、医療界と激しく対立した。物価高対策への不満も大きかった。

 尹氏は選挙結果を「国民からの厳しい声」と謙虚に受け止めなければなるまい。国民とのコミュニケーションに努めることが肝要だ。

 与党惨敗で懸念されるのが日本との関係への影響だ。

 尹政権は発足以来ぶれることなく、日本との関係改善を推進してきた。元徴用工問題の解決策を示し、首脳同士のシャトル外交を再開した。その外交方針に変わりはないとみられる。

 一方、次期大統領選に向けて求心力を高めたい李在明(イジェミョン)氏が率いる共に民主党は、尹政権の対日政策に批判的だ。総選挙では「日本寄り」と見なす候補の落選を呼びかけた。

 野党側は対日政策を絡めて尹政権に圧力をかけてくる可能性があり、これまでのように融和的な対日政策ができなくなるとの見方もある。

 東アジアの平和と安定の維持は、日韓両国に共通する利益だ。核・ミサイル開発を加速する北朝鮮覇権主義的な動きを強める中国やロシアに対し、日韓は協調して向き合わなくてはならない。

 関係改善の歩みを後退させないために、日本も働きかけを強めたい。

 岸田文雄首相は尹大統領とのシャトル外交をさらに活発にし、サプライチェーン(供給網)の強化など未来志向の連携がもたらす成果を具体的に示す必要があろう。

 良好な日韓関係の基盤には韓国国会の理解と協力も欠かせない。日本の国会議員は日韓議員連盟などを通じ、韓国国会議員との意思疎通を図ってもらいたい。

 前任の文在寅(ムンジェイン)大統領時代の日韓関係は「戦後最悪」とまでいわれた。隣国との関係が政権交代のたびに浮き沈みするのは、両国民にとって不幸である。地方や民間を含め、重層で揺るぎない関係を築いていきたい。