韓国総選挙で与党大敗 外交の安定維持望みたい(2024年4月16日『毎日新聞』-「社説」)

韓国総選挙での大敗を受け、ソウルでの記者会見で頭を下げる与党・国民の力の韓東勲(ハン・ドンフン)氏。事実上の与党トップとして選挙戦を指揮した=2024年4月11日、ロイター
韓国総選挙での大敗を受け、ソウルでの記者会見で頭を下げる与党・国民の力の韓東勲(ハン・ドンフン)氏。事実上の与党トップとして選挙戦を指揮した=2024年4月11日、ロイター

 韓国総選挙で保守系与党が大敗した。来月で就任2年となる尹錫悦(ユンソンニョル)大統領への厳しい「中間評価」となった。

 敗因は、異論に耳を傾けることなく強引に政策を進める尹氏の政治手法にあると指摘される。

 冷戦期をほうふつとさせるようなイデオロギー対立をあおる言動も問題視された。北朝鮮に融和的な野党勢力を「共産全体主義勢力」と敵視する発言もあった。

 尹氏は「国民の意思を謙虚に受け止める」と述べた。だが、圧勝した野党側は対決姿勢を強めるとみられており、困難な政権運営が予想される。

 与党内で3年後の大統領選をにらんだ駆け引きが始まれば、憲法の規定で再選出馬できない尹氏の求心力低下は避けられない。

 東アジアの国際情勢が厳しさを増す中、気がかりなのは外交政策への影響だ。

 尹氏は米中対立の激化や北朝鮮の脅威増大を理由に日米との連携を強め、北朝鮮のミサイル発射情報の即時共有を始めた。韓国として初のインド太平洋戦略をまとめ、地域の安定に寄与する方針を表明した。

 日韓関係の立て直しにも積極的に取り組んだ。

 懸案だった徴用工問題の解決策を打ち出し、関係修復への機運を高めた。首脳の相互往来を重ねるシャトル外交を12年ぶりに実現させ、中断されていた政府間協議も再開させた。

 韓国では外交や安全保障政策に関して大統領の権限が強く、選挙結果の直接的な影響は限定的だとみられる。

 ただ対日関係の改善を急ぐ尹氏の取り組みには、野党が強く反発している。

 徴用工問題の解決策は思うように進んでいない。最高裁が日本企業に命じた賠償を巡り、支払いを肩代わりする財団への韓国企業などからの寄付も低調だ。

 日本が関係改善へ向けて踏み込んだ措置を取っていないことに対する不満は、尹政権内にもくすぶっている。

 中国との向き合い方や北朝鮮情勢への対応など、日韓には共通する課題が多い。両国政府は大局的見地に立ち、さらなる協力の道を模索すべきだ。