2024年4月24日のブロック紙・地方紙等に関する社説・コラム

海自ヘリ墜落 原因究明し態勢検証を(2024年4月24日『北海道新聞』-「社説」)
 
 海上自衛隊の哨戒ヘリコプター2機が伊豆諸島の鳥島東方海域で訓練中に墜落し、1人が死亡、7人が行方不明になった。
 2機は衝突した可能性が高いという。人為的なミスなのか、機体やシステムの問題か。海自は行方不明者の捜索に全力を挙げるとともに、再発防止のため事故原因を早急に究明しなければならない。
 気がかりなのは近年、自衛隊ヘリの事故が頻発していることだ。そのたびに対策を講じているはずだが、それが生かされていないのであれば、問題の根は深い。
 政府は、中国による台湾有事などを想定し、急激に防衛力を増強している。自衛隊の訓練や態勢に無理が掛かり、ひずみが生じているのではないか。
 防衛省自衛隊は、そうした構造的な問題にも目を配り、徹底的に検証すべきだ。
 海自は2機のフライトレコーダー(飛行記録装置)からデータを取り出した。同時に飛行していて無事だったヘリ1機の搭乗員などからの聞き取りも行っている。
 これまでに、2機が機体の位置情報を共有できる「僚機間リンク」システムに接続していなかったことなどが分かっているが、事故当時何があったのか、調べを尽くして情報開示してほしい。
 ヘリの事故は、直近では昨年4月に沖縄県宮古島付近で陸自のUH60JAが墜落し、陸自で過去最悪の10人が死亡している。
 2021年に鹿児島県奄美大島沖で海自ヘリ2機が接触した事故の後には、複数機が近接する現場では高度に差をつけて飛ぶなどの再発防止策を打ち出したはずだ。
 重大事故が続けば、貴い人命が奪われるだけでなく、国民の自衛隊への信頼も揺らぐ。防衛省は事態を重く受け止めるべきだ。
 一昨年末に決まった安全保障関連3文書は、5年間で43兆円という膨大な税金を投入し、装備面を強化している。訓練の回数や内容が拡充され、米軍をはじめ他国の軍との共同訓練も増えた。
 北朝鮮によるミサイル発射や、中国の海洋進出などで出動機会が増える中、高度化、複雑化した訓練を頻繁にこなさねばならない現場は負担が増している。
 加えて、自衛隊は要員不足が常態化している。その補充だけでなく、隊員の育成が追いついていないとの指摘もある。
 日本の防衛力が、身の丈以上に膨らんでいるのは間違いない。政府は安保関連3文書を根底から見直す必要がある。
 
ヒグマの管理 生息数を把握し適切に(2024年4月24日『北海道新聞』-「社説」)
 
 環境省は鳥獣保護管理法の施行規則を改正し、ヒグマを含むクマ類を指定管理鳥獣に追加した。
 捕獲計画を策定した都道府県に交付金を支給して支援する。
 クマ類を巡る国の政策は保護から管理へ転換することになる。
 道内のヒグマは増加傾向にある。道の推計によると、2022年度末時点の生息数は1万2175頭(暫定値)となった。
 人身被害を防ぐには捕獲は欠かせない。道は、人とのあつれきが顕在化していなかった01~10年ごろの推定約7500~1万頭にまで抑えたい方針だ。
 過剰な捕獲とならぬよう、生息数をモニタリングしながら、適切に実施してもらいたい。
 捕獲を担う猟友会のメンバーは高齢化している。道は狩猟免許の取得者を増やそうと、試験回数を増やすなどしているが、効果は限られるだろう。
 職務として捕獲を担う公務員「ガバメントハンター」を任用するなど、行政が前面に出る体制を考えるべきではないか。
 捕獲計画策定の基礎となる生息数は、体毛を採取する「ヘアトラップ」の調査などを基に推計しているが、データ不足は否めない。
 自動撮影するカメラや衛星利用測位システム(GPS)発信器などを利用する高度な調査には人手も資金も必要だ。国による後押しがカギとなる。
 猟銃「ハーフライフル銃」の所持規制も焦点だ。散弾銃より命中精度が高く、ライフル銃を所持できない初心者がヒグマなど大型動物を捕獲するのに欠かせない。
 警察庁は今国会に銃刀法改正案を提出し、ライフル銃並みに規制を強化する一方、クマやシカの狩猟・駆除に使う場合は初心者でも持てる特例措置を講じるとする。
 規制と駆除の両立を図る視点を忘れないでもらいたい。
 市街地に出没する個体も目立っている。札幌市は25年度から箱わなによる駆除を行う方針だ。
 市街地での銃による駆除は法で禁じられているものの、国は改正を視野に入れる。住民の安全を大前提に、現場の実情に合った規制のあり方を追求してほしい。
 ヒグマは環境省レッドリストで「絶滅の恐れがある地域個体群」に指定されているが、25年度にも除外される見通しだ。
 クマ類は繁殖力が弱い。かつて行われた「春グマ駆除」では生息数が激減した。同じ轍(てつ)を踏んではならない。ヒグマは貴重な野生動物であることに変わりはない。
 
DV排除へ議論を深めよ/共同親権法案(2024年4月24日『東奥日報』-「時論」)
 
 離婚後も父母が共に子どもの養育に関われるよう共同親権を導入する民法改正案が衆院で可決されて参院に送られ、今国会で成立する見通しとなった。離婚後はどちらか一方による単独親権と定める今の民法を改め、離婚の際に双方の話し合いで共同か単独を選べるようにする。折り合えないときは、家庭裁判所が判断する仕組みにする。
 共同親権にすると、ドメスティックバイオレンス(DV)や児童虐待などの恐れがあり、子の利益を害するとみられる場合、家裁は単独親権にしなくてはならないとも明記する。しかしDV被害から逃れるため、子を連れて家を出た経験を持つ母親たちを中心に不安の声は尽きない。
 衆院審議で野党は、父母の十分な合意を共同親権の条件とするよう与党に修正を迫った。DVなどで父母の力関係に差があり、対等に話し合えないことも考えられるからだ。付則に「真意を確認する措置を検討する」との文言が盛り込まれることになったが、課題を先送りしたに過ぎず、実際に何らかの対策が講じられるかは見通せない。
 共同親権からDVを排除できるかが問われている。さらに子の医療や教育を巡り、どこまでなら父母双方の同意は必要なく、一方の親だけで決められるかという線引きも曖昧なままだ。混乱を招かないよう、参院で議論を深め、詰めなくてはならない点が多々ある。
 改正案が成立すれば2026年までに施行され、それ以前に離婚した父母も共同親権への変更を申し立てることができる。共同親権の下では子の進学や長期的治療など重要事項は父母が話し合って決める。それが元夫のDVに苦しめられ、別居して子と暮らす母親に重くのしかかる。
 住所を秘して生活する人もいる中で「DVが継続しかねない」「元夫に共同親権への変更を申し立てられないか」と悲痛な声が後を絶たない。
 DVの恐れがあるなら家裁は共同親権を認めないとはいえ、そもそも密室の出来事で証拠が残りにくい。精神的DVなどをどう証明すればいいのかと戸惑いも広がる。
 また子のために一方の親が単独で決められるのは身の回りの世話など「日常の行為」か「急迫の事情」がある場合に限られる。両者の意見が対立した場合、どちらが決めるか家裁が判断する。
 野党は緊急手術など具体例をいくつか挙げ、日常か急迫かをただしたが、政府側は「適切な手続きを定める」と曖昧な答弁に終始した。政府はできるだけ早く、具体的に日常と急迫のケースを例示する必要がある。
 保護者の収入で受給資格が決まる高等学校等就学支援金にも影響する。文部科学省は「共同親権なら、親権者2人分の所得で判定する」と説明した。ひとり親家庭が養育費をまともに受け取れていないのに収入が基準額を上回って支援金を受けられず、困窮する事態も懸念されている。
 改正案に「法定養育費」が盛り込まれ、法令で定める最低限の支払いを相手に義務付けるが、手続きに時間がかかるのは避けられそうにない。
 父母が離婚した未成年の子は近年、年間20万人近くに上る。共同親権が導入されれば、多くの争いが家裁に持ち込まれることになるだろう。それをさばき、信頼を得るのに十分な体制を早急に整えなくてはならない。
 
(2024年4月24日『東奥日報』-「天地人」)
 
 NHK連続テレビ小説「虎に翼」が好評だ。主人公・猪爪寅子(ともこ)は日本初の女性弁護士の一人で、裁判官、裁判所長を務めた三淵嘉子さんがモデル。実話に基づく昭和初期が舞台のオリジナルストーリーで理不尽なこと、納得できないことに「はて」と首をかしげ、物おじせず事態を打開する寅子に共感する人も少なくないだろう。
 11日朝、チャンネルを合わせると、裁判官役の松山ケンイチさん(むつ市出身)、法服を着た弁護士役で本紙エッセー連載中のシソンヌじろうさん(弘前市出身)、寅子の先輩役の佐々木史帆さん(青森市出身)と県人3人の顔が確認できて、何だかうれしくなった。
 佐々木さんに連絡を取ってみると「松山さんとはごあいさつだけですが、じろうさんとは青森の話をさせていただきました。初めましてだったので自己紹介しましたが、同じ津軽弁だったのでホッとしました」と裏話を教えてくれた。
 佐々木さんは駒井蓮さん(平川市出身)主演で弘前市が舞台の映画「いとみち」や、現在放送中の大河ドラマ「光る君へ」にも出演するなど、活躍の幅を着々と広げている。
 全国的に見られるドラマの製作現場で、地元の言葉が飛び交う様を想像すると頬が緩む。近年、バラエティー番組も含めて県人の勢いを感じる。県人が出てないドラマに「はて」と首をかしげる将来を想像し、またにやける。
 
政府基金11事業廃止 運用の透明性高めてこそ(2024年4月24日『河北新報』-「社説」)
 
 野放図な歳出の膨張に歯止めをかけるのは当然だ。
 使途や政策効果を十分に詰めないまま「規模ありき」で進めてきた新型コロナウイルス対策を省みるとともに、大規模金融緩和で弛緩(しかん)した財政規律を回復させる契機としなくてはなるまい。
 中長期的な政策を推進するために積み立てている基金について、政府は22日、休眠状態になっている11の基金事業を廃止する一方、基金全体で使う見込みがなくなった5466億円を国庫に返納すると発表した。
 国が所管する基金は180を超え、全体の残高は2022年度末で約16兆6000億円に上る。19年度までは2兆円台で推移していたが、コロナ対策として基金を乱立させた結果、3年間で7倍以上に膨らんだ。
 国の予算は通常、年度内に使い切る「単年度主義」が原則だが、特定の事業向けに資金を積んだ基金は複数年度にわたり支出できるため、貿易協定や気候変動など中長期的な対応が必要となる施策に活用される例が多い。
 ただ、無駄な支出が継続しやすいとの指摘は以前から絶えなかった。
 複数年度分がまとめて計上され、過去の予算が見直されにくい上、事業の進行管理も甘くなりやすいためだ。
 廃止される基金事業には、電気自動車(EV)充電設備の設置を促す「省エネルギー設備導入促進基金」や、農林漁業者が発電事業を支援する「地域還元型再生可能エネルギーモデル早期確立基金」などが含まれる。
 多くは既に補助金助成金の交付を終えたのに、管理業務に関する支出を続け、維持されてきたという。
 岸田文雄首相は行財政改革の一環として昨年12月に基金の点検を指示。既に役目を終えたものに加え、事業の終了時期や成果の数値目標が定められていないケースも多く見られた。
 国際通貨基金IMF)は2月に行った対日経済審査で国の基金について「3分の1は終了年度が特定されていない」と指摘した。
 政府債務が1200兆円を超える中、日本の非効率な財政運営には、国際社会から厳しい目を向けられていることも忘れてはなるまい。
 残る基金事業については、成果の数値目標と終了時期を定めることを条件に存続を認め、予算をまとめて計上できる期間も3年程度とした。
 岸田政権としては、防衛力強化や少子化対策の財源を巡る議論を前に節約姿勢をアピールする狙いもあるだろう。
 だが、真に問われるべきは国会が税金の使途を十分に議論、監視できる財政民主主義の確保に他ならない。
 所管する各省庁の裁量で使えるため、不透明になりがちだった運用状況を随時、分かりやすく開示していく仕組みづくりが不可欠だ。
 
子どもの自殺 危険なサイン見逃すな(2024年4月24日『秋田魁新報』-「社説」)
 
 子どもの自殺に歯止めがかからない。昨年1年間に自殺した小中高生は全国で513人に上り、統計のある1980年以降で最多だった前年(514人)に次ぐ多さとなった。
 日本は先進7カ国で唯一、10代の死因で自殺が最も多い。「危機的な状況」(厚生労働省自殺対策推進室)が半ば固定化している現状を異常と捉え、社会全体で子どもの自殺を防ぐ手だてを講じなければならない。
 近年、増加基調にあった小中高生の自殺はコロナ禍に入った2020年に前年比100人増の499人に達し、一層顕著になった。日常生活の制限からくるストレスが、子どもの心にも暗い影を落としたといわれる。
 ただ、子どもの自殺はコロナ禍が収束しつつある今も高止まりしたままだ。悩みを抱える子が少なくない現実を見過ごすことなく、一人一人に親身に対応したい。
 警察庁の統計によると、10代の自殺の動機・原因で最も多いのは学校問題で、健康問題、家庭問題が続いた。大人同様、子どもの自殺も複数の要因が複合的に絡み合って起こるとされる。子どもに関わる大人たちの連携が欠かせない。
 鍵を握るのは、子どもに最も近い家庭と学校だ。子どもに限らず強いストレスにさらされている時は、自分が何に悩んでいるのか自覚するのが難しいものだ。まして子どもの場合、上手に伝えられないことが多い。
 だからこそ心身や行動に現れる言葉以外のサインを見逃したくない。頭痛や腹痛、目まい、耳鳴り…。いらいらや気分の落ち込みなども典型的なストレス反応だ。
 不登校は自分を守ろうとする反応といわれる。親や教師には子どもの異変を察知する感度を高めてもらいたい。相談を受けた時、どういう態度でどんな言葉をかけ、どうやって話を聴いたらいいのか。専門家による研修機会を増やす必要がある。
 一方、子どもに対しては、悩んだ時に誰にどう助けを求めればいいかを教える「SOSの出し方教育」を推進したい。昨年度策定された県の第2期自殺対策計画にも明記された。計画では出し方教育の実施率を27年度までに高校50%超、小中学校40%超とする目標を掲げるが、これで十分か。教材の効果的な活用など、あらゆる手段を講じ、より広く浸透させてほしい。
 進学やクラス替えなど環境の変化に適応しようと頑張り過ぎ、その反動で心身に不調を来すことはこの時期によくある。いわゆる五月病の症状は大型連休を挟んで現れることが多いとされる。
 ほとんどの場合、一過性といわれるが、注意が必要なのは不調の背景に複雑な家庭問題や心の病などが潜んでいるケースである。福祉や医療に適切につなげるためにもスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの役割が重要だ。
 
 
(2024年4月24日『秋田魁新報』-「北斗星」)
 
 休日、散歩を装って飼い犬を連れ出した。犬の様子をうかがうと弾んでいた足取りは目的地が近づくにつれ重くなっていく。あと少しで到着、というところでぴたりと止まった。どうやら気付いたらしい。狂犬病予防接種の会場に向かっていることに
▼犬の飼い主にとって4月に始まる狂犬病の予防接種は毎年の恒例行事だ。嫌がる犬をなだめすかして接種会場に連れて行く人も多いだろう。今年も6月までに終えねばならない
狂犬病は人と動物に共通する感染症で、人は主に犬にかまれて感染する。かまれても適切なワクチンを打つことで発症を抑えられるが、発症すれば致死率はほぼ100%。世界保健機関(WHO)が根絶すべき疾患の一つとしているものの、いまだ多くの国や地域で発生し、年間数万人が死亡している
▼日本は飼い犬への予防接種を義務づけており、60年以上発生していない。ところが最近、犬が人をかむ事故が相次ぎ、そのたびに予防接種を受けているかが取り沙汰されるようになった
▼30年ほど前までほぼ100%だった予防接種率は年々低下し、2022年度は全国平均で70・9%。本県も同様で、近年は80%を割り込んでいる。長年発生していないことで、狂犬病への油断が生じているのかもしれない
▼愛犬の予防接種は今年も大変だった。鳴き声を上げたり、逃げようとしたり。病気の怖さを説こうにも犬に論語。せめて飼い主は正しく恐れて対処しよう。コロナ禍で学んだことだ。
 
米国のウクライナ支援 専横ロシアに屈しない(2024年4月24日『山形新聞』-「社説」)
 
 米下院は、ロシアの侵攻を受けているウクライナに対して約600億ドル(約9兆3千億円)に上る緊急支援予算案を可決した。バイデン大統領は歓迎と署名の意思を表明しており、予算案は、上院審議を得て成立する見通しだ。緊急予算案は昨年10月、バイデン氏が議会に求めたが、共和党保守強硬派の強い反発で審議の停滞が続いていた。
 当事国同士の交渉や国際社会の圧力によって、戦闘の停止とロシア軍のウクライナ撤退を実現するのが理想だ。しかし当面それが達成できそうもないならば、ウクライナ国民の祖国防衛への意志を尊重し、支援の要請に応じるのが米国を含む国際社会に残された現実的な選択だろう。ロシアの横暴には屈しないというメッセージを団結して示し続けるべきだ。
 バイデン政権は超党派で予算案を可決したことで「米国の指導力」を世界に示したと自賛したが、議会審議は内向きの政治的な思惑で一時暗礁に乗り上げていた。保守強硬派は、ウクライナ支援より不法移民対策や国境管理強化に財政の重きを置くべきだと主張、反対してきた。
 問題は、議論が優先すべき政策の検討に向かわずに政争の具と化したことだ。11月の大統領選挙で共和党の候補となるのが確実なトランプ前大統領は、共和党議員に予算案を拒否するよう圧力をかけた。移民対策とウクライナ支援を同時に組み込んだ予算が、民主党のバイデン政権の功績になることを嫌ったためだ。
 まだ正式候補でもない人物が議会審議をかく乱するのは、米国の政治と外交の劣化を象徴している。ロシアのプーチン大統領専制主義の指導者は、今後も偽情報の流布などで米国の弱点につけ込もうとするだろう。
 優先されるべきは政争での勝利ではない。非道な戦争を速やかに終わらせ、二度と侵略を起こさせないようロシアに教訓を突き付けることだ。侵攻開始から2年以上、苛烈な爆撃や砲撃にさらされ続けるウクライナの市民の恐怖を思えば、政治の分断に振り回されている余裕はないと米国民に訴えたい。
 そもそも支援はウクライナのためだけではない。北大西洋条約機構NATO)に対しては言うに及ばず、ロシアは地域を越えて脅威を拡散している。一例が北朝鮮問題だ。ロシアは北朝鮮に接近し弾薬類の提供を受ける見返りに、北朝鮮にミサイル技術を与えると分析されている。またウクライナ攻撃用にイラン製無人機「シャヘド」を、偵察用には中国製を使用。米国は中国が軍事転用可能な物資を輸出し、ロシアの防衛産業再建を支援していると指摘する。
 ウクライナ情勢が、専制国家群の協力ネットワークを強化する動機となっている現実は警戒が必要だ。ウクライナから地理的には遠いものの、北朝鮮や中国、ロシアと向き合う日本も積極的な対応が求められる。
 政府はこれまで、防弾チョッキや小型ドローンなど非殺傷性装備をウクライナに送っている。市民らの越冬支援のために資金協力も行っており、ウクライナは日本の貢献を高く評価、戦後の復興をにらんでも貢献できる分野は多い。引き続き抑制的で責任ある関与を続けたい。
 
(2024年4月24日『山形新聞』-「談話室」)
 
▼▽1人だけ別世界を走っていた。3年前の東京五輪。男子マラソンで2連覇を果たした、ケニアのエリウド・キプチョゲ選手だ。レース中に隣の選手に言葉をかけ、微笑(ほほえ)んだ。余裕だったのだ。史上最強と称されている。
▼▽自らを厳しく律し、40歳を前に衰えを知らない。夢は、走ることを通し、健康で平和な世をつくること。その佇(たたず)まいと数々の名言から「走る哲学者」との異名を持つ。この偉大なランナーと同じケニア代表として、本県ゆかりの選手がパリ五輪を走る日が来るかもしれない。
▼▽NDソフトアスリートクラブ(南陽市)のアレクサンダー・ムティソ選手である。駅伝や国際大会で実績は残してきたが、先日のレース結果に仰天した。メジャー大会の一つ、ロンドン・マラソンを制した。ケニア代表となれば、本県の陸上界にも大きな刺激となるだろう。
▼▽所属クラブによると、「自制心・規律を持つ」が座右の銘。走る大義は「平和を感じ、幸せな気持ちになる」ことという。キプチョゲ選手を思わせる心のありようだ。本県から遠く離れたケニアだが、今回の代表選考は“人ごと”ではない。本番で2人が競う場面を見たい。
 
相続登記/管理促す狙いに沿う施策を(2024年4月24日『福島民友新聞』-「社説」
 
 相続登記の申請が義務化された。不動産を相続したことを知った日から3年以内に登記を行う必要がある。正当な理由なく申請をしないと10万円以下の過料を科される。義務化の背景にあるのが、所有者不明の土地の増加だ。九州の面積と同程度の土地が所有者不明となっている。
 所有者不明の土地は、誰にも管理されないため、周辺の環境や治安の悪化を招くとの指摘がある。東日本大震災で集団移転などを行う際に、多くの土地の所有者が分からず事業が停滞したケースが各地であった。所有者を明確にすることは、さまざまなリスクの低減につながることが期待される。
 管理されていない土地をできる限り減らすには、財産の整理を行う相続の際に所有者を明確にするのが最も簡便な方法だろう。
 これまで登記が進まなかった理由の一つに、使っていない土地についてさまざまな書類をそろえて登記するのは、手間がかかることが挙げられる。その上、固定資産税を払ったり、管理の必要が生じたりすることになるため、任意であれば登記しないという場合が多かったとみられる。
 長い間、相続されないままとなっている土地は、相続の権利がある人が増え、協議に時間がかかることが見込まれる。このため自らが相続人であることを申し出ることで、登記義務を果たしたことにできる制度が作られた。
 登記が任意でなくなった以上、誰が土地を相続するのかを明確にする必要がある。義務化を機に、自分が相続の権利を持つ土地などを確認するようにしたい。
 相続人が不要な土地を国に引き渡すことができる制度も昨年スタートした。10年分の土地管理費に相当する金額を国に納付することで土地を手放すことができる。相続人が高齢だったり、相続した土地から遠い所に住んでいたりして、土地の管理を十分に行うことが難しい場合は、この制度の利用を検討してほしい。
 ただ、土地に空き家などが立っている場合は、この制度を利用できない。手放そうとする土地の建物を撤去しようとすると、行政の助成があったとしても多額の費用がかかる。
 所有者を明確にしても、管理が不十分な土地や建物が残るのは、新制度の狙いに沿うものではあるまい。これまで国が何ら対策を取ってこなかったことについて、相続人に新たな義務を負わせる形となるのを考慮すれば、期間を区切るなどの形で、建物撤去に対する支援拡充を検討すべきだ。
 
宝の森(2024年4月24日『福島民友新聞』-「編集日記」)
 
 出版前のハリー・ポッターの新作を入手して―。一流ファッション誌のカリスマ編集長の無理難題に振り回されながら、成長する新米アシスタントの姿を描いた映画「プラダを着た悪魔」に、こんなシーンが出てくる
▼仕事はできるが、とにかく厳しい鬼編集長。私生活では、双子の娘を愛する優しい母親の一面をのぞかせる。本来ならば業務外の理不尽な指示は、その娘たちのため。ともあれ、アン・ハサウェイ扮(ふん)するアシスタントが奔走することになる
▼シリーズものの物語だと、話がどう展開していくのかが気になり発売日が待ち遠しくなる。人気作家の新作になると、愛読者が書店に列をなす。売れ筋ばかりでもなく、長く読み継がれている古典や絵本など品ぞろえにも個性があり、街の書店は宝の森といっていい
▼ところが、最近の書店事情は厳しい。経済産業省が省内横断のプロジェクトチームを設置し、書店の振興に向けて施策の検討に入るほど、経営難や後継者不足でその数が減っている
▼こどもの読書週間が始まった。鬼編集長のような溺愛はいかがなものかと思うが、興味を引き出し学びの芽を伸ばすきっかけづくりに、まずは書店へ一緒に出かけてみてはどうだろう。
 
【いわきの休園基準】実効性のある運用を(2024年4月24日『福島民報』-「論説」)
 
 いわき市は、大雨や地震などが発生した際、保育所や幼稚園などが休園を判断するための基準を独自に設けた。災害が拡大する前に保護者らに引き渡し、被災を防ぐとしている。基準の周知と保護者への連絡体制の確立に努め、実効性のある運用を求めたい。
 公立、私立の保育所、幼稚園、認可外保育施設、放課後児童クラブなど計244施設が対象となる。内郷地区を中心に4100人が被災した昨年9月の台風13号を踏まえ、逃げ遅れをなくす目的で策定した。災害はいつ、どこで起きるか分からない中、県内13市で初となる取り組みはモデルにもなり得る。
 大雨は、高齢者らに避難を求める水準に当たる警戒レベル3の避難情報が出された場合に臨時休園とする。警戒レベル3は全市が範囲となる。市は基準の円滑な運用に加え、地域の状況に応じた柔軟な対応も検討してほしい。
 気象状況などを分析し、洪水浸水想定区域に立地する施設に対しては、基準に満たない段階での休園なども判断すべきだ。大雨が局所的かどうかを調べ、安全が確認できるような地域は休園を一時留保するといった弾力的な運用も考慮したい。
 個々の事情で保護者が迎えに来られなかったり、道路の冠水や渋滞などで遠回りを余儀なくされたりする事態も想定される。警戒レベル4など危険度が増すと予測される際は、施設職員が残された子どもと一緒に避難したり、滞在場所の変更を保護者と随時共有したりする必要がある。保護者も参加しての避難訓練の実施や避難場所の理解醸成、連絡手段の確保も重要だ。
 地震震度5弱以上で、被災により施設運営が困難になった場合を対象とする。開園前は午前5時の段階で判断する。開園中は速やかに閉園する計画だが、子どもの引き渡しまでに時間を要するなどの懸念がある。施設が避難情報などを確実に入手し、迅速に保護者に伝える仕組みが欠かせない。
 未就学児だけではなく、小中学校の児童生徒、高齢者施設の通所者らも同様の危険にさらされる。庁内の災害担当、各施設の担当部署が連携して独自基準の有効性を検証し、施設に適した子どもや高齢者の命を守る方策も練ってもらいたい。(円谷真路)
 
宝を次代へ(2024年4月24日『福島民報』-「あぶくま抄」)
 
 果樹畑にもうすぐ大粒の「青いダイヤ」が実る。カリっとした食感、程よい塩味と甘味。丁寧な手仕事が「赤いルビー」へ姿を変える。会津美里町の特産品「高田梅漬け」は、艶やかな色が食欲をそそる
▼栽培の起源は室町時代にさかのぼる。先人が保存食として梅漬けを考えた。天日干しはしない。肉厚の特徴が保たれ、独特の歯応えが生まれる。伝統の味には、心配もある。梅の生産・加工者は高齢化や後継者不足で減り、梅漬けを作る家庭も少なくなりつつある。古里の「伝統食」に興味を持つ若い世代が増えてほしいと、関係者は願う
▼地域の誇りを次代にどうつないでいくか。悩みは食に限らない。町観光協会は、地元ゆかりの偉人を紹介する子ども向けリーフレットを作った。国の史跡・向羽黒山城[むかいはぐろやまじょう]を築いた蘆名盛氏[あしなもりうじ]、天台宗の高僧・天海大僧正[てんかいだいそうじょう]らの似顔絵が並ぶ。都会に移る若者が増えている。古里を知り、愛着を持つきっかけになれば―。そんな思いがにじむ
▼伝来の梅漬けは、砂糖を加えるなどアイデアを重ねて今がある。郷土愛を育む事業が次々と展開されている。人々の創意工夫によって、地域の宝は輝きを深めていく。かむほどに味わいが増すように。
 
共同親権法案 DV排除へ議論深めよ(2024年4月24日『茨城新聞』-「論説」)
 
 離婚後も父母が共に子どもの養育に関われるよう共同親権を導入する民法改正案が衆院で可決されて参院に送られ、今国会で成立する見通しとなった。離婚後はどちらか一方による単独親権と定める今の民法を改め、離婚の際に双方の話し合いで共同か単独を選べるようにする。折り合えないときは、家庭裁判所が判断する仕組みにする。
 共同親権にすると、ドメスティックバイオレンス(DV)や児童虐待などの恐れがあり、子の利益を害するとみられる場合、家裁は単独親権にしなくてはならないとも明記する。しかしDV被害から逃れるため、子を連れて家を出た経験を持つ母親たちを中心に懸念と不安の声は尽きない。
 衆院審議で野党は、父母の十分な合意を共同親権の条件とするよう与党に修正を迫った。DVなどで父母の力関係に差があり、対等に話し合えないことも考えられるからだ。付則に「真意を確認する措置を検討する」との文言が盛り込まれることになったが、課題を先送りしたに過ぎず、実際に何らかの対策が講じられるかは見通せない。
 共同親権からDVを排除できるかが問われている。さらに子の医療や教育を巡り、どこまでなら父母双方の同意は必要なく、一方の親だけで決められるかという線引きも曖昧なままだ。
 改正案が成立すれば2026年までに施行され、それ以前に離婚した父母も共同親権への変更を申し立てることができる。共同親権の下では子の進学や長期的治療など重要事項は父母が話し合って決める。それが元夫のDVに苦しめられ、別居して子と一緒に暮らす母親に重くのしかかる。
 住所を秘して生活する人もいる中で「DVが継続しかねない」「元夫に共同親権への変更を申し立てられないか」と悲痛な声が後を絶たない。
 DVの恐れがあるなら家裁は共同親権を認めないとはいえ、そもそも密室の出来事で証拠が残りにくい。精神的DVなどをどう証明すればいいのか戸惑いも広がる。
 また子のために一方の親が単独で決められるのは身の回りの世話など「日常の行為」か「急迫の事情」がある場合に限られる。両者の意見が対立した場合、どちらが決めるか家裁が判断する。
 野党は緊急手術など具体例をいくつか挙げ、日常か急迫かをただしたが、政府側は「適切な手続きを定める」と曖昧な答弁に終始した。政府はできるだけ早く、具体的に日常と急迫のケースを例示する必要がある。
 保護者の収入で受給資格が決まる高等学校等就学支援金にも影響してくる。文部科学省は「共同親権なら、親権者2人分の所得で判定する」と説明した。ひとり親家庭が養育費をまともに受け取れていないのに収入が基準額を上回って支援金を受けられず、困窮する事態も懸念されている。
 改正案に「法定養育費」が盛り込まれ、法令で定める最低限の支払いを相手に義務付けるが、手続きに時間がかかるのは避けられそうにない。
 父母が離婚した未成年の子は近年、年間20万人近くに上る。共同親権が導入されれば、多くの争いが家裁に持ち込まれることになるだろう。それをさばき、信頼を得るのに十分な体制を早急に整えなくてはならない。
 
 
米国のウクライナ支援 国際社会は再度の結束を(2024年4月24日『福井新聞』-「論説」)
 
 米下院はロシアの侵攻を受けるウクライナに対して約608億ドル(約9兆3千億円)の緊急支援予算案を可決した。上院通過とバイデン大統領の署名を経て近く成立する見通しだ。緊急予算案は昨年10月にバイデン氏が求めたが、共和党保守強硬派の強い反発で審議の停滞が続いていた。
 この間、ウクライナ軍は弾薬が枯渇し、ロシア軍に対して劣勢に立たされてきた。都市部では迎撃用のミサイルが底をつき、これまでの防空態勢を維持できなくなったため、インフラや市民の被害が拡大していただけに、ウクライナのゼレンスキー大統領は予算案可決に謝意を示し「戦争拡大を防ぎ、大勢の命を救う」と述べたのも当然だろう。
 バイデン氏は超党派で可決したことで「米国の指導力」を世界に示したと自賛したものの、予算案が政争の具と化していたのが実情だ。共和党の保守強硬派はウクライナ支援より不法移民対策や国境管理強化に予算を割くべきだと主張し、反対してきた。そう仕向けたのはトランプ前大統領だ。11月の大統領選で共和党の候補となるのが確実視される中、予算案を拒否するよう圧力をかけた。
 移民政策とウクライナ支援を同時に組み込んだ予算案が可決すれば、民主党のバイデン氏の手柄になることを嫌ったためだという。正式な候補でもない人物が議会審議をかき乱すのは米国の政治の分断と外交の劣化を象徴していないか。ロシアのプーチン大統領専制主義の指導者らは、偽情報などでこうした米国の弱点につけ込もうと狙っているのは間違いないだろう。
 米国の支援再開はそもそもウクライナのためだけではないことを世界は再認識する必要がある。北大西洋条約機構NATO)に対しては言うに及ばず、ロシアが地域を越えて脅威を拡散している現実を直視しなければならない。ロシアが弾薬の提供を受ける見返りに、ミサイル技術を供与しているとみられる北朝鮮無人機を提供するイランや軍事転用可能な物資を輸出する中国しかり。
 ウクライナ情勢が専制国家同士のネットワークを強化する動機にもなっているとの現状に、日米欧などの国際社会は警戒を強める必要があろう。ウクライナ国民の祖国防衛への意志を尊重し、支援の要請に応じるのが国際社会に与えられた選択だろう。ロシアの暴挙には屈しないとのメッセージを再度、一致結束して発信し続けるべきだ。
 日本は軍事支援に制約があるため、市民らの越冬支援に向けた資金協力や発電機の供与、地雷除去関連の支援などを積極的に行ってもらいたい。戦後の復興をにらんでも貢献できる分野は多く、関与を続けたい。
 
知床事故2年 教訓胸に再発防止の徹底を(2024年4月24日『新潟日報』-「社説」)
 
 ずさんな運航が招いた大惨事を教訓に、全国の交通事業者が再発防止と安全運航に努めねばならない。責任の所在を明らかにし、事故の風化を防ぎたい。
 北海道知床半島沖で観光船「KAZU 1(カズワン)」が沈没し、乗客乗員26人のうち20人が死亡、6人が行方不明になった事故は23日で発生から2年となった。
 出港地の斜里町ウトロ地区では、多くの人々が献花し、祈りをささげた。「私たちは、忘れません。」と掲げた追悼式で、事故を風化させないことを誓った。
 運輸安全委員会が昨年9月に公表した報告書によると、観光船は船首付近のハッチが確実に閉鎖されないまま出航し、悪天候でふたが開いて浸水したことが原因で、沈没した。
 運航会社は安全運航に必要な人材をそろえておらず、船体や通信設備の保守整備も不十分だった。
 強風・波浪注意報が発令される中での出航判断や利益優先の姿勢といった問題が次々浮上した。
 第1管区海上保安本部などは運航会社の社長を業務上過失致死の疑いで捜査しており、事故は今なお終わっていない。
 多くの人命を奪った事故の責任を明らかにするのは当然だ。
 ただ当時の状況を知る船長は事故で亡くなり、事実特定は難しく、立件のハードルは高いという。
 報告書の内容は推論だと指摘する捜査関係者もいる。そもそも船の安全管理に一義的な責任を負うのは船長で、陸にいた社長の過失を問えるのかが焦点とみられる。
 一部の乗客家族は損害賠償を求め、5月にも運航会社と社長を相手取り提訴する方針だ。
 事故から2年がたつというのに、誰も責任を問われていない現状に対する憤りや無念さは想像するにあまりある。
 事故を巡っては、日本小型船舶検査機構(JCI)が、事故3日前の船体検査でハッチの不具合を見抜けなかったことも明らかになり、国などの監査や検査の実効性不足が問題になった。
 亡くなった甲板員の遺族は国などの責任を問い、提訴している。
 事故後、国は小型旅客船の事業許可を更新制にするなど制度を見直している。
 交通事業者への対応で、国は今後も実効性のある対策を考え、進めていく必要がある。
 事故では運航会社が、大規模事故が起きた際に被害者支援にどう対応するかを定める「被害者等支援計画」を策定しておらず、被害者家族への対応も問題視された。
 国土交通省によると、本県の事業者で計画を策定しているのは130事業者のうち7事業者と、5%にとどまる。計画は任意のため中小事業者の策定遅れが目立つ。
 国には、関係機関への周知や、経営体力に乏しい事業者への支援にも努めてもらいたい。
 
(2024年4月24日『新潟日報』-「日報抄」)
 
 マイカー社会の本県でも、通勤や通学に公共交通を利用する人は多い。ラッシュ時は座席を確保するのも一苦労する。インターネットで検索すると、満員の車両で座るコツがいくつも紹介されている
 
 
▼基本中の基本は、間もなく席を立ちそうな人を探すことのようだ。手にしていたスマートフォンや本をしまう。窓の外をきょろきょろ眺める。こうしたしぐさをする人は近々降車する確率が高い
▼高校の制服や校章などから降りる駅を予測することもできる。いずれも周囲をよく観察することが大切だという。日常の一コマでも、仕事をする上でも、しっかりした観察眼は己を助けてくれる
▼だが、こうした観察眼を悪用する不心得者もいる。郵便受けに封書やチラシがたまっていたり、庭の雑草が伸び放題になっていたりする。そんな家には普段人の出入りがないと分かる。このような空き家に置かれたままの金品を狙った窃盗が県内で相次いでいる
▼県警によると、昨年の認知件数は197件と前年の23件から急増した。住人が亡くなり、貴重品や家財の処分が済んでいない家などが狙われるのだろう。所有者が離れた場所に住んでいて、なかなか管理が行き届かない家もある
▼満員電車の座席確保策を解説するサイトの一つは、腰を上げたかと思うと座り直す乗客がいて、降りる人の特定に失敗したケースも紹介していた。ちょっとした目くらましに遭ったようだ。空き家も、管理を業者に依頼するなどして不心得者の目をくらませたい。
 
海自ヘリ墜落 事故が連続する理由探れ(2024年4月24日『信濃毎日新聞』-「社説」)
 
 伊豆諸島の鳥島東方の海域で、訓練中の海上自衛隊ヘリコプター2機が墜落した。衝突した可能性が高いとみられており、搭乗していた1人が死亡し、7人の行方が分かっていない。
 海自によると、墜落したのはSH60K哨戒ヘリ2機だ。ヘリ計6機と艦艇8隻、海自潜水艦1隻で大規模な訓練中だった。
 事故原因はフライトレコーダー(飛行記録装置)を回収して調査中だ。木原稔防衛相は「飛行中の機体に異常を示すデータはなかった」としている。
 自衛隊ではヘリの事故が相次いでいる。昨年4月には陸自の多用途ヘリが沖縄県宮古島付近で墜落し、搭乗員10人全員が死亡したばかりだ。それから約1年で再び大きな事故が起きた。自衛隊は重く受け止める必要がある。
 今回の直接的な原因だけでなく、事故が連続している理由や背景を解明しなければならない。
 事故は20日深夜に起きた。海自によると、墜落した2機ともう1機の計3機で、対潜水艦戦の訓練をしていたという。
 海自潜水艦を敵の潜水艦に見立て、音や電波を探知する。通常は機体からつり下げたソナーを海中に投入して位置を絞り込み、ヘリ同士で囲むように追尾する。その際、互いの位置をレーダーなどで把握し、飛行中の高度は互いに異なるようにするという。
 ただし、今回の事故では墜落した2機が、無線を通じて機体の位置情報などを共有できる「僚機間リンク」に接続していなかったことが判明した。接続した機体同士の間隔が狭まると警報を鳴らす機能が備えられている。
 未接続の理由など事故との因果関係を調べなければならない。2機がそれぞれ別の任務を担っていた可能性もあるという。
 海自は、冷戦期には旧ソ連の南下を警戒し、中国の台頭とともに東シナ海から太平洋を幅広く警戒するようになった。沖縄県尖閣諸島周辺や鹿児島県・奄美大島周辺では近年、中国とみられる潜水艦が相次いで確認されている。
 現場の部隊は中国への対処に追われ、基礎的な訓練が不足しているとの指摘もある。任務の激化が隊員の心身に影響を及ぼしている懸念も拭えない。
 また、事故当時は海自護衛艦隊部隊トップの司令官が、定期的に部隊の作戦遂行能力を確認して評価する「訓練査閲」中だった。隊員に対する過度な圧力になっていなかったか。訓練の内容も検証する必要があるだろう。
 
リニアトップ会議 県は住民の先頭に立って(2024年4月24日『信濃毎日新聞』-「社説」)
 
 リニア中央新幹線の建設事業を巡って、阿部守一知事とJR東海の丹羽俊介社長によるトップ会談が県庁で開かれた。
 JRは今年3月、目標とした2027年開業の断念を表明。トップ会談は17年から定例化しているが、9回目の今回、県の要請によって初めて報道陣に全面公開された。
 開業時期が見通せなくなったことで、沿線のまちづくりは軌道修正を迫られている。工事が長引いて住環境などへの影響が深刻化することも予想され、住民の間に不安が高まっている。
 こうした状況を受け、県にはJRに注文する姿勢を県民にアピールする狙いがあったのだろう。
 知事は会談で、開業時期の早期の明確化や、工事に伴う地域の負担について地元と十分に協議することなどを求めた。重要なやりとりを隠さず伝える対応は、無用な疑念を排し、事業の問題点を共有することにもつながる。今後も公開を大前提とすべきだ。
 今回の会談で、丹羽社長は問題解決に向けた具体的な対応はほとんど示さなかった。
 代わりに目立ったのが「地域の皆さまとのコミュニケーションを大切にする」との表現だ。トンネル工事の残土の行方やダンプカーの往来など、住民の不安が話題になるたびに繰り返した。
 JRはこれまでも「地元理解を十分に得る」と強調してきた。だが現場で実際に展開されたのは、不安を置き去りにしたままの既成事実の積み重ねだった。
 会談終了後、成果を問われた知事は「地域の問題意識をトップに直接伝えることができた」と述べた。言いっぱなしで終えるようでは改善は期待できまい。
 地域住民からは、今回の会談内容に「県は人ごとのようだ」と厳しい意見も出ている。求められているのは、もっと住民の不安に近づき、その先頭に立ってJRと向き合う姿勢だろう。
 残土の処分場所に土砂災害の危険はないか、建設工事で労災が多発してはいないか―。懸念の数々を踏まえてJRに情報公開や改善を迫る対応は十分だったか。開業が延期となったこの機会に問い直してはどうか。
 問題に直面する飯田下伊那は小規模な自治体が多い。巨大組織のJRと渡り合っていくには、県の存在が欠かせない。
 会談後半、知事は、開業後の振興策の話題に力点を置いた。住民の苦悩が「未来志向」の影に隠れないよう、注意が要る。
 
ボランティア/息長い活動へ環境整備を(2024年4月24日『神戸新聞』-「社説」)
 
 能登半島地震の発生から間もなく4カ月となる。被害が集中した石川県では、被災家屋の片付けなどの人手が圧倒的に不足している地域がある。多くの人が避難所に身を寄せ、避難生活の長期化が心身に与える影響も懸念される。このままでは復旧、復興に遅れが生じかねない。ボランティアの力がさらに必要だ。
 阪神・淡路大震災が起きた1995年は「ボランティア元年」と呼ばれ、延べ約140万人が支援に駆けつけた。大災害があればボランティアが被災地で汗を流す。今や災害支援に欠かせない存在といえる。
 ただ、今回は被災地での活動がなかなか広がらない。
 石川県に事前登録したボランティアは3万7千人を超える。被災市町から要請があった人数を、県が取りまとめて派遣しているが、実際に活動できる人数はまだ多くない。
 奥能登では断水で宿泊施設の確保が難しいうえ、道路が復旧途上で金沢市を拠点にバスで日帰りするケースが多い。実際の活動は4時間程度で効率は良くない。受け入れ側も態勢が十分とは言えず、社会福祉協議会が設置する災害ボランティアセンターの運営にNPOなど専門ボランティアをもっと活用してはどうか。
 初期対応がいまだに尾を引いているとの指摘もある。石川県は発生直後、被災地の寸断された道路状況などを理由に、個別に能登地方に入ることを控えるよう呼びかけた。このため、現地入りした人を非難する動きがみられた。気になるのが、3カ月以上たった今も個人単位での活動を控えるよう求めている点だ。
 過去の災害でも、行政側は受け入れ態勢の問題などでボランティアを敬遠する傾向がみられた。だが、経験を積み重ねたボランティアは増えている。被災者にとって何が必要かという視点で捉えるべきだろう。
 ボランティアが活動しやすい環境整備も考えていきたい。能登地震を受け、兵庫県は災害ボランティアへの支援制度を拡充した。県内に拠点を置く10~20人のグループや団体に交通費、宿泊費など最大85万円を助成するが、期間や活動地域が限られるなど課題もある。実態に応じた工夫で「役に立ちたい」と集う人たちの善意を生かしてほしい。
 ひと足早く4月中旬に石川県珠洲(すず)市に入り、災害廃棄物の撤去などをした神戸市の任意団体「全国災害ボランティア支援機構」代表理事の高橋守雄さん(75)は「仮設住宅への転居や農作業の手伝いなど、長く支援の手を届け続けたい」と話す。
 能登だけでなく、今後の災害に生かすためにも「支援する側を支える」仕組みを整え、息の長い活動につなげなくてはならない。
 
ボランティア/息長い活動へ環境整備を(2024年4月24日『山陽新聞』-「社説」)
 
 能登半島地震の発生から間もなく4カ月となる。被害が集中した石川県では、被災家屋の片付けなどの人手が圧倒的に不足している地域がある。多くの人が避難所に身を寄せ、避難生活の長期化が心身に与える影響も懸念される。このままでは復旧、復興に遅れが生じかねない。ボランティアの力がさらに必要だ。
 阪神・淡路大震災が起きた1995年は「ボランティア元年」と呼ばれ、延べ約140万人が支援に駆けつけた。大災害があればボランティアが被災地で汗を流す。今や災害支援に欠かせない存在といえる。
 ただ、今回は被災地での活動がなかなか広がらない。
 石川県に事前登録したボランティアは3万7千人を超える。被災市町から要請があった人数を、県が取りまとめて派遣しているが、実際に活動できる人数はまだ多くない。
 奥能登では断水で宿泊施設の確保が難しいうえ、道路が復旧途上で金沢市を拠点にバスで日帰りするケースが多い。実際の活動は4時間程度で効率は良くない。受け入れ側も態勢が十分とは言えず、社会福祉協議会が設置する災害ボランティアセンターの運営にNPOなど専門ボランティアをもっと活用してはどうか。
 初期対応がいまだに尾を引いているとの指摘もある。石川県は発生直後、被災地の寸断された道路状況などを理由に、個別に能登地方に入ることを控えるよう呼びかけた。このため、現地入りした人を非難する動きがみられた。気になるのが、3カ月以上たった今も個人単位での活動を控えるよう求めている点だ。
 過去の災害でも、行政側は受け入れ態勢の問題などでボランティアを敬遠する傾向がみられた。だが、経験を積み重ねたボランティアは増えている。被災者にとって何が必要かという視点で捉えるべきだろう。
 ボランティアが活動しやすい環境整備も考えていきたい。能登地震を受け、兵庫県は災害ボランティアへの支援制度を拡充した。県内に拠点を置く10~20人のグループや団体に交通費、宿泊費など最大85万円を助成するが、期間や活動地域が限られるなど課題もある。実態に応じた工夫で「役に立ちたい」と集う人たちの善意を生かしてほしい。
 ひと足早く4月中旬に石川県珠洲(すず)市に入り、災害廃棄物の撤去などをした神戸市の任意団体「全国災害ボランティア支援機構」代表理事の高橋守雄さん(75)は「仮設住宅への転居や農作業の手伝いなど、長く支援の手を届け続けたい」と話す。
 能登だけでなく、今後の災害に生かすためにも「支援する側を支える」仕組みを整え、息の長い活動につなげなくてはならない。
 
春の「デニムデー」(2024年4月24日『山陽新聞』-「滴一滴」)
 
 デニムの語源はフランス語なのだそうだ。ニーム地方産の綾織物を意味する「セルジュ・ドゥ・ニーム」が「デ・ニーム」と略され今に至るとか
ニームと備中や備後には温暖で海に近い共通点がある。デニム生地製造などが盛んな岡山県では10月26日が「デニムの日」と定められ、代表格のジーンズをはじめ県産製品の魅力が10年あまりで随分知られるようになった
▼岡山が秋なら、米国発祥のこちらは春と覚えておきたい。4月最終水曜日の「デニムデー」だ。25周年の今年は今日がその日。性暴力の被害者と連帯し、いわれのない非難と闘う象徴として身に着ける
▼きっかけはイタリアの最高裁判断という。10代の少女が運転教習初日に教官から暴行された事件で、彼女がピタッとしたジーンズをはいていたことから「本人の協力なしには脱げない」すなわち「同意があった」とみなされ、下級審の有罪判決が覆ったのだ
▼翌日、女性国会議員たちがジーンズ姿で強い憤りを表明した。怒りは国を超え、特にデニム文化を発展させてきた米国で支持を得ていく。何を着ていたにせよ、被害に遭った側に落ち度があったかのように責めるのは理にかなわない、と
▼啓発活動は欧州、中南米、環太平洋地域へと年を追うごとに広がっている。ここは日本の一大産地。輪に加わる日はくるのだろうか。
 
食料安全保障 農業の基盤強化こそ急げ(2024年4月24日『中国新聞』-「社説」)
 
 ロシアによるウクライナ侵攻や、気候変動の影響による凶作の頻発などで、世界の食料事情は逼迫(ひっぱく)している。大半を輸入に依存する日本にとっては極めて厳しい状況だ。
 政府は、食料安全保障の確保を基本理念にしようと、食料・農業・農村基本法の改正を目指している。改正案は既に衆院を通過した。
 輸入が途絶えた場合を想定した、食料供給困難事態対策法案も国会に提出している。万一への備えは当然だ。ただ実効性を高めるには、農業従事者はもちろん、国民の幅広い理解と協力が欠かせない。
 食料供給が不安定になった要因の一つは世界の人口だ。この四半世紀で20億人増え80億人に達した。国連の推計によると2050年には97億人にまで膨らむ。穀物需要が急増するのも無理はなかろう。
 干害や冷害に加え、戦火も障壁となる。ウクライナを見れば明らかだ。穀物の輸出が停滞し、中東や北アフリカなどで食料不足が起きた。
 日本はさらに、歴史的な円安に苦しんでいる。20年ほど前は、農林水産物の純輸入額の国別シェアで40%を占めていたが、今は18%になった。購買力が低下し、思うようには買えなくなっている。
 対策法案で政府は、段階的対応を想定している。まず、コメ、小麦、大豆といった特定食料が不足しかねない「困難兆候」の場合、コメの生産促進などを要請する。コメの大幅不足など「困難事態」になれば、農家に増産計画の届け出を指示し、従わない場合は20万円以下の罰金を科す。
 さらに悪化して、最低限必要な食料供給が確保できなくなれば、カロリーの高いサツマイモへの生産転換などを政府が要請・指示する。国民への配給を含め、戦時中を思わせる内容となっている。
 自然相手だけに、農作物は収穫までに月日が必要だ。緊急時に政府の思い描くようなスピードで生産が転換できるのか、不安は拭えない。
 むしろ、平時からの備えに力を入れるべきである。22年度の食料自給率はカロリーベースで38%と、先進国では最低レベルだった。政府が立てた30年度に45%という目標は遠のくばかりだ。
 自営農業を主な仕事とする基幹的農業従事者は年々減少し、高齢化も進んでいる。こうした課題は長年、解決の見通しが立たないままだ。
 予算を見ると、政府は近年、農政を軽んじているようだ。農林水産関係は1982年度の3兆7010億円をピークに減少。近年は2兆2千億円程度で推移している。
 農地の集約や大規模化といった構造改革を重視し過ぎている。北海道などでは理にかなっているが、平地が乏しく傾斜地の多い中国地方の中山間地域では無理筋だろう。
 農地は、治水などの国土保全や景観維持、水源と生物多様性の維持といった多面的な機能を持っている。いったん失われれば、おいそれとは取り戻せない。国費を思い切って投じ、各地域の特色を踏まえた農業基盤の強化策こそが今、求められている。食料安保にもつながるはずだ。
 
勝者総取り(2024年4月24日『中国新聞』-「天風録」)
 
 目の前の人とじゃんけんをする。負けたら勝者の後ろに回り、その肩に両手を置いて、付いていく。先頭がじゃんけんをするたび、列は延びる。最後は1匹の長いムカデのように数百人が連なった。小学生の頃、全校集会で遊んだ
▲「勝者総取り」という言葉を聞き、この体験を思い出した。ITビジネスのことわりらしい。ある企業が突出した技術で国際標準を握ると逆転は難しい。ムカデの先頭のように勝ち続けた企業だけが膨大な利益を得る
▲その世界で圧倒的な勝者の米グーグルを、公正取引委員会が初めて行政処分した。インターネットで検索された言葉を広告に連動させる事業が独禁法の問題になり得るという
▲生活も仕事も、いつの間にかネットサービスを抜きにしては回らない時代になった。今や電気や水道と同じ公益事業ともいえる。勝者が相応のチェックや規制を受けるのは、当然だろう
▲冒頭の遊びは、意外な結末を迎えた。ムカデの先頭が、最後尾にじゃんけんを挑んだ。勝ったのは最後尾。先頭が最後尾の後ろに付くと、全員が一つの輪になった。それまでの勝敗は意味をなくした。舌を出して笑う「元先頭」の、なんと格好良かったことか。
 
米国のウクライナ支援 「政争の具」にするな(2024年4月24日『山陰中央新報』-「論説」)
 
 米下院は、ロシアの侵攻を受けているウクライナに対して約600億ドル(約9兆3千億円)に上る緊急支援予算案を可決した。バイデン大統領は歓迎と署名の意思を表明しており、予算案は、上院審議を得て成立する見通しだ。緊急予算案は昨年10月、バイデン氏が議会に求めたが、共和党保守強硬派の強い反発で審議の停滞が続いていた。
 本来は当事国同士の交渉や国際社会の圧力によって、戦闘の停止とロシア軍のウクライナ撤退を実現するのが理想だ。しかし当面それが達成できる見通しがない以上、ウクライナ国民の祖国防衛への意志を尊重し、支援の要請に応じるのが米国を含む国際社会に残された現実的な選択だろう。ロシアの横暴には屈しないというメッセージを団結して示し続けるべきだ。
 バイデン政権は超党派で予算案を可決したことで「米国の指導力」を世界に示したと自賛したが、議会審議は内向きの政治的な思惑で一時暗礁に乗り上げていた。
 保守強硬派は、ウクライナ支援より不法移民対策や国境管理強化に財政の重きを置くべきだと主張、反対してきた。国内問題を優先すること自体は選択肢として理解できる。
 問題は議論が政争の具と化したことだ。11月の大統領選挙で共和党の候補となるのが確実なトランプ前大統領は、共和党議員に予算案を拒否するよう圧力をかけた。移民対策とウクライナ支援を同時に組み込んだ予算が、民主党のバイデン政権の功績になることを嫌ったためだ。
 まだ正式候補でもない人物が議会審議をかく乱するのは、米国の政治と外交の劣化を象徴している。ロシアのプーチン大統領専制主義の指導者は、今後も偽情報の流布などで米国の弱点につけ込もうとするだろう。
 優先されるべきは政争での勝利ではない。非道な戦争を速やかに終わらせ、二度と侵略を起こさせないようロシアに教訓を突き付けることだ。
 侵攻開始から2年以上、苛烈な爆撃や砲撃にさらされ続けるウクライナの市民の恐怖を思えば、政治の分断に振り回されている余裕はないと米国民に訴えたい。
 そもそも支援はウクライナのためだけではない。北大西洋条約機構NATO)に対しては言うに及ばず、ロシアは地域を越えて脅威を拡散している。一例が北朝鮮問題だ。ロシアは北朝鮮に接近し弾薬類の提供を受ける見返りに、北朝鮮にミサイル技術を与えると分析されている。
 またウクライナ攻撃用にイラン製無人機「シャヘド」を、偵察用には中国製を使用。米国は中国が軍事転用可能な物資を輸出し、ロシアの防衛産業再建を支援していると指摘する。
 ウクライナ情勢が、専制国家群の協力ネットワークを強化する動機となっている現実は警戒が必要だ。ウクライナから地理的には遠いものの、北朝鮮や中国、ロシアと向き合う日本も積極的な対応が求められる。
 政府は2022年、ウクライナからミサイルや弾薬の提供を求められたが、「防衛装備移転三原則」などに照らして、防弾チョッキや小型ドローンなど非殺傷性装備を送った。市民らの越冬支援のために資金協力も行っており、ウクライナは日本の貢献を高く評価、戦後の復興をにらんでも貢献できる分野は多い。引き続き抑制的で責任ある関与を続けたい。
 
「めた・メタ・滅多」(2024年4月24日『山陰中央新報』-「明窓」)
 
 
 中世になると「めた」という言葉が広まったという。度を越えて甚だしいさまを指し、とりわけ「めたと酔った」など泥酔する様子に使われた。現代語の「めちゃくちゃ」と意味が似ている
▼こちらの「Meta(メタ)」の度を越えた対応が批判を浴びている。フェイスブックやインスタグラムを運営する米IT大手メタである。著名人に成り済ます詐欺広告が自社SNS上で広がっている問題を巡り「社会全体でのアプローチが必要」と木で鼻をくくった声明を発表した。成り済まし被害を受けた事業家の前沢友作氏や堀江貴文氏らから「まるで人ごとだ」と「めった打ち」を受けている
▼新聞社に広告の内容を審査する部署があるように、日本では料金を受け取る側に詐欺を防ぐ道義的責任があると考えるが、どうも巨大ITには通じないらしい。監視担当者の増員など必要な所にコストをかけず、詐欺広告もお客さまと受け入れて肥大化したのではと勘繰ってしまう
▼そろそろEUのように政府によるプラットフォーム規制が必要だろう。問題は法整備までのスピード感だ。新たなサービスが日進月歩で広がり、連動して詐欺被害の拡大が見込まれる中で、従来型の行政手法では追い付かない現状がある
▼ところで「めた」に漢字を当てれば「滅多(めった)」となり、思慮の浅いさまを指す。平仮名でも英語でも漢字でも偶然、同じような意味になるから面白い。(玉)
 
【外国人育成就労】人権守る視点は十分か(2024年4月24日『高知新聞』-「社説」)
 
 外国人材の受け入れを巡り、従来の技能実習制度の代わりに「育成就労制度」を導入する関連法改正案が国会で審議入りした。
 技能実習制度は、技能移転による国際貢献を掲げたにもかかわらず、実際は安価な労働力の確保に利用され、人権侵害も多数指摘された。
 育成就労制度は外国人材の「育成・確保」を目的とし、置き去りにされてきた人権対策も強化する。国内の労働力不足が進む中、働きやすい環境づくりを通じて「外国人材に選ばれる国」を目指すとする。
 だが、受け入れの枠組み自体は大きく変わらず、「看板の掛け替え」にとどまる懸念も指摘される。新制度の理念が具体化されるよう、より踏み込んだ議論が求められる。
 新制度は、一定の技能があり最長5年働ける特定技能1号水準の人材を3年間で育てる。より熟練した特定技能2号に移行すれば永住もできるようになり、外国人が日本で長期的に活躍するための道筋を明確にしたと言える。
 ただ、人権、働きやすさという視点での取り組みは十分だろうか。
 技能実習制度では、受け入れ先の賃金未払いやハラスメントが問題になるケースが相次ぎ、転籍(転職)できないため失踪者も続出した。その反省から、新制度は転籍を認めているが、賃金の高い都市部に人材が集中するとの懸念などから「分野ごとに最長2年まで転籍を制限できる」と規定した。
 これに対し、転職の自由という基本的な権利の制限に踏み込みすぎであり、また、技能習得や転籍手続きなど実務面でもハードルが高すぎるとの指摘が出る。なお議論の余地があるのではないか。
 高知県のような地方の受け入れ先にとっては、賃金面を理由にした早期転籍は確かに痛手になるが、処遇面も含めて魅力ある職場づくりなどの経営努力で対応したい。必要なら公的支援策も検討されるべきだ。
 技能実習制度では、外国人の受け入れ仲介や企業の監督など担う監理団体があり、制度の適正運用のために「外国人技能実習機構」も設置されている。しかし実習生の保護で役割を果たさないケースもあった。
 新制度ではそれぞれ、「監理支援機関」「育成就労機構」と名称を変えて存続する。名前だけでなく、機能も変わらなければならない。
 ほかに、悪質なブローカーの排除へ転籍手続きで民間業者の関与は認めないことなども盛り込んだ。いずれの取り組みも、実効性を高めていくことが求められる。
 法案は、外国人永住者の増加を見込み、納税など公的義務を故意に怠った場合は永住許可を取り消せるようにした。しかし、最も安定した在留資格であり、相応に扱われるべきだ。日弁連は差し押さえで対応可能とする。法案の理念とも逆行するのではないか。
 外国人材が増えればその家族も含めた生活支援が重要になっていく。そうした視点での取り組みを強化していくことも欠かせない。
 
祝・五輪決定(2024年4月24日『高知新聞』-「小社会」)
 
 漫画「ドラゴンボール」はなぜ世界で大ヒットしたのか。作者の鳥山明さんが先月亡くなった時、改めて考察が飛び交った。まずは画力、そして独創的なバトル…。さまざまある理由の一つに主人公・孫悟空の進化も挙がる。
 壁にぶつかるごとにレベルアップを繰り返す。原動力は、敵が強いほど心が躍るメンタルの強さで、「オラ、ワクワクすっぞ」は作品を代表するせりふの一つだ。無邪気な悟空が格上相手を倒す展開には痛快さがある。
 その悟空と、男子レスリングでパリ五輪出場を決めた清岡幸大郎選手(高知南高出)が重なった。指導者いわく「相手が強いほど生き生きしてくる」「向上心の塊」とか。漫画ほど劇的でないにしても、勝負に高揚できる力の効果は裏付けられていて、楽しさで分泌される「幸せホルモン」が意欲や向上心、技術の定着につながるとされる。
 清岡選手は必ずしも、代表候補の最有力ではなかった。敗北と悔しさを味わいながら選考レースを勝ち抜いた成長は、まさに「ワクワクすっぞ」のメンタルのたまものだろう。
 おかげで、五輪に向けた楽しみが増えた。女子の桜井つぐみ選手に続いて県勢の出場は2人目。しかも2人とも頂点を狙える。
 漫画では悟空がピンチになった時、周りの人や自然のパワーを集めてつくる「元気玉」が逆転の必殺技になった。県民がパリに向けて応援する気持ちが両選手の元気玉になればうれしい。
 
海自ヘリ墜落 捜索と原因究明の徹底を(2024年4月24日『西日本新聞』-「社説」)
 
 海上自衛隊のSH60K哨戒ヘリコプター2機が、伊豆諸島の鳥島東方海域で訓練中に墜落した。搭乗していた8人のうち、救助された1人は死亡が確認され、残る7人は行方が分かっていない。
 墜落したヘリ2機は長崎県大村航空基地徳島県小松島航空基地の所属だった。地元関係者のショックは大きいだろう。捜索に全力を挙げてほしい。
 事故は20日深夜、ヘリからつり下げた機器で潜水艦を探知する訓練で起きた。海自が「最重要任務」と位置付ける潜水艦対処の能力を高めるものだ。
 海自の護衛艦隊司令官が定期的に部隊の作戦遂行能力を評価する「訓練査閲」の最中で、ヘリ6機と艦艇8隻、潜水艦1隻が参加していた。
 捜索現場では破損したヘリの回転翼のブレード(羽根)や機体の一部が見つかった。海自は2機のフライトレコーダー(飛行記録装置)を回収し、データを解析している。
 飛行中の機体に異常を示すデータは確認されておらず、2機が空中で衝突し、墜落した可能性が高いとみている。同じ高度で飛行していたとすれば深刻な事態だ。
 事故当時はヘリ3機が飛行していて、事故状況を客観視できたとみられるヘリの搭乗員、艦艇の乗組員からの聞き取り調査も進める。原因を徹底解明してほしい。
 このところ自衛隊ヘリの事故が相次いでいることを憂慮する。
 昨年4月、陸自のヘリが沖縄県宮古島付近で墜落し、搭乗していた10人全員が死亡した事故は記憶に新しい。
 海自の哨戒ヘリも2017年8月、青森県沖での夜間訓練中に墜落し、死者が出た。21年7月には鹿児島県の奄美大島沖で、2機が接触する事故が起きている。これも夜間訓練中だった。
 海自は奄美の事故を受け、複数のヘリが展開する現場では、互いの飛行高度を変えるといった再発防止策を実行していたはずだ。
 木原稔防衛相は自衛隊の全航空機について、飛行前点検を入念に行い、安全管理や緊急手順の教育を改めて徹底する指示を出した。
 形式的な指示にならないように、再発防止策が現場で徹底されているかを厳しく検証してもらいたい。
 自衛隊の潜水艦対処は重要度を増している。日本周辺海域では、海洋進出の動きを強める中国の潜水艦の航行が幾度も確認されている。南西諸島はその最前線だ。
 中国艦に対処する実任務に追われ、十分な訓練時間を確保するのが困難になっているとの指摘もある。重要任務を遂行する能力を落とさない対策も必要だ。
 輸送機オスプレイを含め、自衛隊機やヘリの事故は隊員の命に関わる。基地周辺住民の不安も高め、信頼を損ないかねない。実効性の高い再発防止策を求めたい。
 
太陽光発電 持続可能な事業へ深化を(2024年4月24日『熊本日日新聞』-「社説」)
 
 再生可能エネルギーの主力である大規模太陽光発電に暗雲が漂っている。自然破壊や景観悪化など施設を巡るトラブルが全国各地で起きている一方、寿命を迎えた発電パネルの大量廃棄といった問題への対応も急務だ。持続可能な事業とするため、一層の環境整備が求められる。
 総務省行政評価局は3月、全国の355市町村で太陽光発電設備を巡るトラブルが起きていたとの調査結果を公表した。現地調査では、敷地から道路や農地への泥水流出、管理不足による雑草繁茂などの事例を確認。こうした状況が続けば再エネ普及による脱炭素化が停滞しかねないとして、経済産業省に現地調査の強化やトラブルの未然防止を求めた。
 再生可能エネルギー発電の事業者への法規制も4月に強化され、地域住民への事前説明が義務化された。事業者は誠実に対応しなければならない。
 太陽光発電施設は、2012年に電力の固定価格買い取り制度(FIT)が導入されたことを機に増加。熊本県内でも事業参入が相次いだ。その陰で、南関町では建設現場からの大量の土砂流出で被害が発生。菊池市では施設の倒壊や景観悪化を懸念する近隣住民らが撤去を訴える事態となった。
 発電施設の設置は森林法や環境影響評価(アセスメント)法などを基に規制されているが、対象とならないケースもあり甘さが指摘されている。自治体による独自規制が増えているのはこのためだ。
 地方自治研究機構によると、3月29日時点で全国275自治体が条例を制定。県内では菊池市天草市南関町大津町が施設新設を首長の許可制としたり、設置を抑制する区域を設けたりする条例を定めた。政府も昨年、事業の特性を踏まえて省庁が横断的に対応するよう申し合わせた。
 広大な草原を有する阿蘇地域でも規制が強化された。環境省は4月、規定が曖昧だった国立公園内での大規模発電施設の設置許可基準を明確化。景観や野生動植物への配慮を求め、違反者に事業停止命令を出せるようにした。
 外輪山周縁では大規模施設が既に稼働しており、景観保全策が急務だっただけに評価したい。地域の草原や林地は、社会状況の変化や高齢化で維持・管理が難しくなっている。そうした現実も踏まえた対応を重ねてほしい。
 太陽光発電を巡っては新たな課題も浮上している。発電パネルの寿命による大量廃棄だ。環境省は、20年度に2800トンだった廃棄量が39年度には276倍の77万5千トンになると見込んでいる。
 採算面の懸念から発電施設を売却する事業者も急増。買い手が見つからない事例もあるという。
 地球温暖化対策に太陽光の活用は不可欠だろう。東京都では25年度から、新築の建物に太陽光パネル設置が義務付けられる。法改正で太陽光を含む再エネ設備の設置促進も図られる。そうした施策が軌道に乗るよう、事業全体の在り方を深化させたい。
 
円安と海外旅行(2024年4月24日『熊本日日新聞』-「新生面」)
 
 30年ほど前、オーストラリアを1年間バイクで旅した。ガソリン代を捻出するために、食事はパンと豆の缶詰などでしのぎ続けた。そんな毎日も楽しくはあったのだが、追い打ちをかける事態が起きた。円安だった
渡航時、約70円だった1豪ドルは、旅の後半には85円になった。全財産を円のトラベラーズチェックで持っていたため、2割ほど目減りした計算だ。急激な円高への対策が講じられた結果だったのだが、切り詰めて旅をしている身にはこたえた
▼そんな経験を思い出したのは円安の話題を耳にするからだ。このところの円相場は1米ドル154円台で推移している。輸出企業や訪日客の受け皿となる業界は潤うだろうが、過度な円安は輸入品の値上がりによる物価高を招いている。当然、海外旅行での出費も増える
▼旅行大手のJTBによると、今年のゴールデンウイーク期間の海外旅行者は前年の約1・7倍の52万人に回復する見込み。ただ、米国では昼食のバーガーセットが2千円超、と聞けば二の足を踏む人も多かろう。増えている行き先は韓国や台湾、というのもうなずける
▼日米韓は17日、財務相会合の共同声明で急速な円安、ウォン安について「深刻な懸念」を表明した。なんとか落としどころを見いだせないものか
▼オーストラリアの旅は過酷だったが、大地を駆け抜けた爽快感は今も胸に残っている。小さな冒険を成し遂げたという自信にもなった。若者が臆することなく海外を旅行できるぐらいの力を、円が取り戻せるといい。
 
共同親権法案 DV排除へ議論深めよ(2024年4月24日『佐賀新聞』-「論説」)
 
 離婚後も父母が共に子どもの養育に関われるよう共同親権を導入する民法改正案が衆院で可決されて参院に送られ、今国会で成立する見通しとなった。離婚後はどちらか一方による単独親権と定める今の民法を改め、離婚の際に双方の話し合いで共同か単独を選べるようにする。折り合えないときは、家庭裁判所が判断する仕組みにする。
 共同親権にすると、ドメスティックバイオレンス(DV)や児童虐待などの恐れがあり、子の利益を害するとみられる場合、家裁は単独親権にしなくてはならないとも明記する。しかしDV被害から逃れるため、子を連れて家を出た経験を持つ母親たちを中心に懸念と不安の声は尽きない。
 衆院審議で野党は、父母の十分な合意を共同親権の条件とするよう与党に修正を迫った。DVなどで父母の力関係に差があり、対等に話し合えないことも考えられるからだ。付則に「真意を確認する措置を検討する」との文言が盛り込まれることになったが、課題を先送りしたに過ぎず、実際に何らかの対策が講じられるかは見通せない。
 共同親権からDVを排除できるかが問われている。さらに子の医療や教育を巡り、どこまでなら父母双方の同意は必要なく、一方の親だけで決められるかという線引きも曖昧なままだ。混乱を招かないよう、参院で議論を深め、詰めなくてはならない点が多々ある。
 改正案が成立すれば2026年までに施行され、それ以前に離婚した父母も共同親権への変更を申し立てることができる。共同親権の下では子の進学や長期的治療など重要事項は父母が話し合って決める。それが元夫のDVに苦しめられ、別居して子と一緒に暮らす母親に重くのしかかる。
 住所を秘して生活する人もいる中で「DVが継続しかねない」「元夫に共同親権への変更を申し立てられないか」と悲痛な声が後を絶たない。
 DVの恐れがあるなら家裁は共同親権を認めないとはいえ、そもそも密室の出来事で証拠が残りにくい。精神的DVなどをどう証明すればいいのかと戸惑いも広がる。
 また子のために一方の親が単独で決められるのは身の回りの世話など「日常の行為」か「急迫の事情」がある場合に限られる。両者の意見が対立した場合、どちらが決めるか家裁が判断する。
 野党は緊急手術など具体例をいくつか挙げ、日常か急迫かをただしたが、政府側は「適切な手続きを定める」と曖昧な答弁に終始した。政府はできるだけ早く、具体的に日常と急迫のケースを例示する必要がある。
 保護者の収入で受給資格が決まる高等学校等就学支援金にも影響してくる。文部科学省は「共同親権なら、親権者2人分の所得で判定する」と説明した。ひとり親家庭が養育費をまともに受け取れていないのに収入が基準額を上回って支援金を受けられず、困窮する事態も懸念されている。
 改正案に「法定養育費」が盛り込まれ、法令で定める最低限の支払いを相手に義務付けるが、手続きに時間がかかるのは避けられそうにない。
 父母が離婚した未成年の子は近年、年間20万人近くに上る。共同親権が導入されれば、多くの争いが家裁に持ち込まれることになるだろう。それをさばき、信頼を得るのに十分な体制を早急に整えなくてはならない。(共同通信・堤秀司)
 
「北バイ」誕生50年(2024年4月24日『佐賀新聞』-「有明抄」)
 
 「貫通道路ツーツラツー」。昔、県外の人に佐賀弁の使い方で紹介したことがある。「ツーツラツー」は「すいすいすい」の意味。では貫通道路とは? 旧国道34号の一部、今の県庁前道路である
◆昭和11(1936)年に整備された時の道幅は約18メートル。市民が驚くほどの幅員で、往来はさぞツーツラツーだったろう。だが、車社会の到来で渋滞がひどくなり、建設省がバイパスを整備。昭和49(74)年4月24日、佐賀市兵庫町から小城市牛津町までの「佐賀北部バイパス」が全線開通した。きょうは、通称「北バイ」の誕生50年の節目だ
◆それでも渋滞はなかなか解消しない。交通事故もゼロにはならない。半世紀前は全線開通の当日に北バイで交通事故が起きた。交通量が多すぎるのだ。佐賀は「1人1台」といわれるほどのマイカー王国。車の利便性を味わったら徒歩や自転車には戻りにくい
◆愛車の軽自動車はエンジンを切ると「エコスコア」が表示される。高得点は速度を抑えて急発進、急ブレーキを少なくし、「エコドライブ」に努めた証しだ
◆道路は車だけのものではない。特に、新入学児が登下校に慣れ始めた今の時期は逆に危ない。細心の注意を払いたい。人にも地球にも優しい運転が、ひいてはツーツラツーにつながると思う。マイカー王国の一員として最低限の責務である。(義)
 
南城市長セクハラ疑惑 市と議会は実態解明せよ(2024年4月24日『琉球新報』-「社説」)
 
 古謝景春南城市長のセクハラ疑惑を受け、南城市議会の特別委員会が始めた職員アンケートで、約80人の会計年度任用職員や業務委託で働く人へのアンケート配布が見送られていた。市議会事務局は「市職員が職場にいるこども園を除き、市庁舎外に勤務する人は対象外にした」としている。
 勤務場所が市本庁舎でないからといって会計年度任用職員や業務委託の職員をアンケートの対象から外す必要はあるのか。きっかけは市長のセクハラ疑惑だったとしても、アンケートの目的は、南城市役所で働く全ての人たちが職場でハラスメント被害を受けていないかを調査するためのものだ。
 だからこそ、南城市の正職員、会計年度任用職員、業務委託で働く職員の合計数約600人分のアンケート用紙を市議会は用意していたはずである。
 アンケートの対象から外された職員の一人は「一人でも回答者を減らしたいのだろう」と対応を批判した。南城市のために働く全ての人たちが職場で不利益を被っていないか丁寧に調査する意思があるなら、いたずらに対象を狭めるような対応をしてはならない。
 今回のセクハラ疑惑を巡っては、胸を触られたと被害を訴える女性と、「肩をたたいただけだ」という市長の主張は対立している。女性は損害賠償を求めて提訴し、裁判で事実関係が争われる予定だ。
 疑惑の解明に向けた動きは市議会でも出ている。野党・中立・無会派の市議8人は市役所内のハラスメント実態を調査する第三者委員会の設置を求める決議を提出するため、臨時議会の招集を市長に求めた。ところが、市長は臨時会招集を拒否した。議員らは市長に代わって中村直哉議長にも臨時会を求めたが、議長は「地方自治法の招集要件に当たらない」との理由で市長と同様、招集を拒否した。
 これで市民は納得するだろうか。市長は疑惑について、市民の代表が集まる議会で説明すべきである。議長も市民のために実態解明に積極的であるべきだ。執行機関である市を監視するという議会の役割を放棄してはならない。
 市長のセクハラ疑惑を巡る市当局や市議会の一連の対応を見ていると、実態解明に後ろ向きな姿勢が目立つ。
 地方自治体は住民が首長と議員を選挙で選ぶ二元代表制を取っている。両者は互いをけん制し、緊張関係を保ちながら首長は行政を運営、議会はそれを監視する。南城市の現状は緊張関係というよりも、もたれ合いに近いのではないか。
 実態解明や被害を訴える女性への対応がおざなりになれば、市民は安心して行政を任せられない。利害関係に左右されない第三者による調査を実施すべきだ。実態解明を進め、疑惑を持たれない体制を構築しない限り、市民の不信感は払拭できない。
 
情報の海におぼれない(2024年4月24日『琉球新報』-「金口木舌」)
 
 「現代人が1日に触れる情報量は江戸時代の1年分、平安時代の一生分」という例えがある。さまざまな場面で引用されているので、目に、耳にした人もいるだろう
▼インターネットがこれほど身近ではなかったころを知っている世代としてはさもありなんという気はするが、この例え、出典がよく分からない。それこそ情報の宝庫であるネットを使っていろいろ調べてみたが、納得できる答えにはたどりつけなかった
総務省の調査によると、スマートフォンの利用率は60代で90%、70代でも70%を超えている。現代人は、情報の海に自ら飛び込んでいるといっても過言ではあるまい
▼最近、交流サイト(SNS)を悪用した詐欺事件の記事を目にすることが多くなった。新聞社の人間としては、こういった記事が掲載されることで少しでも被害防止につながることを願う
▼悪用を意図するような情報がある半面、これを見破る情報もある。さらには人生を豊かにする有益なものも。付き合い方を常に考え、生かしていく技術や知恵を身に付けたい。
 
令和書籍の歴史教科書 沖縄戦の実相が見えぬ(2024年4月24日『沖縄タイムス』-「社説」)
 
 文部科学省は、来春から中学校で使用される教科書の検定で「令和書籍」の歴史教科書2点を追加合格にした。2018年度から、これまで3回不合格となっていた。
 文科省は3月に検定結果を公表していた。
 令和書籍を巡っては、関係者が申請前に動画投稿サイトのユーチューブで、申請の予定があるといった趣旨を発言したことから、合否を保留していた経緯がある。
 教科書では、沖縄戦の学徒隊について「志願というかたちで学徒隊に編入」と記述している。
 学徒隊は劣勢にあった日本軍の人員補充の一環だった。兵役法で定めのなかった14歳以上17歳未満は戸主や親権者の承諾を得て、本人が志願すれば防衛召集の対象とした。
 実際には、生徒たちに十分な説明はなく、「志願」や「承諾」といった手続きが取られない場合もあった。
 証言などから、親の承諾や志願があったことも少なくない。一方で、召集令状を渡され、強制的に戦場へ駆り出されたケースもあった。
 「志願」は、当時の皇民化教育や軍国主義、軍の絶対的な存在が背景にあったことを無視した一面的な見方であり、誤解を与える。
 また「沖縄を守るために、爆弾を持ったまま敵艦に突入する特攻作戦も行われ、二八〇〇人以上の特攻隊員が散華しました」との記載もある。
 「沖縄を守るため」や「散華しました」という表現には戦争を美化する狙いがあるのではないか。
■    ■
 令和書籍は編集の趣意書で「天皇を軸として語ることで歴史の連続性をより実感できるよう工夫した」と説明し、従軍慰安婦や領土問題でも保守色が前面に出ている。
 沖縄戦の「集団自決(強制集団死)」については「逃げ場を失って自決した民間人もいました」と記述するだけで、日本軍による関与や強制性などは読み取れない。
 今回の検定では、自由社の教科書が昨年に引き続き、沖縄戦で「日本軍はよく戦い、沖縄住民もよく協力しました」と、県民が進んで協力したかのような記述になった。住民虐殺など日本軍の加害性には触れていない。
 共通するのは「殉国美談」である。
 かつての戦争を肯定的に捉えるだけでは、真実は伝わらない。
 体験者が懸命に語ってきた言葉をよりいっそう学び、引き継ぐ必要がある。
■    ■
 令和書籍の2冊を加え、中学歴史教科書の合格は10冊。検定意見526件のうち、追加合格の2冊で計210件と、全体の4割強を占めた。
 多かったのは「生徒が誤解するおそれのある表現」などだ。修正後も、製作者の意図が強く表れるような記述が残り、危機感を持つ。
 沖縄戦の特徴は、日本軍兵士よりも多い住民の犠牲である。なぜそうした事態が起きたのか、二度と惨禍を繰り返さないためにどうすればいいのか。歴史を学ぶ意味はそこにこそある。
 教科書で実相をゆがめることがあってはならない。
 
「身を切る改革」維新が万博推進では支持につながらない(2024年4月24日『日刊スポーツ』-「政界地獄耳」)
 
★21日投開票のあった大阪・大東市長選挙。大東市日本維新の会幹事長・藤田文武(大阪12区)のおひざ元。現職市長が3期務めて引退。新顔同士の対決となったが、大阪維新の会公認の前市議らを破り、無所属の新人で元大東市職員が当選を果たした。さすがに大阪で圧倒的に強い維新が取りこぼすとニュースになるが、22年3月の兵庫県西宮市長選の敗北、23年の9月の茨城県牛久市長選の新人の落選、10月の奈良県橿原市長選では前市長が落選。11月の京都府八幡市長選での新人の落選、同月の神奈川県海老名市長選でも新人(推薦)が落選を喫している。
★首都圏はとにかくも大阪、兵庫、奈良、京都という近畿圏の首長を取りにいく戦略は功を奏さず、かげりが見え始めたと評す声もあるが、大阪の衆院選挙では毎回、各党とも全く歯が立たない。もし大阪の有権者が地域の首長と東京で自民党やほかの野党と論戦を戦わせる役割を承知で投票行動を分けているのなら、なかなかなものだが、その背景には「身を切る改革」を掲げる改革政党としての維新のイメージが強く浸透しているということになる。だが維新が積極的誘致を決めた大阪・関西万博は会場建設費が膨らみ、建設工事の遅れも深刻化していることなどが背景にあるのだろうか。
立憲民主党はさまざまな分野で繰り広げられる野党共闘を念頭に、万博の費用問題や工事の遅れについての政府への批判すら封印している。政府批判もストレートに維新批判につながるからだ。東京の自民党関係者が言う。「確かに維新の勢いは下がってきている。身を切る改革と万博推進が東京ではなかなか重ならない」。立憲関係者も「改革路線は自民党支持者以外の業界団体などの活動も既得権のように扱い、否定的に見ているというただの壊し屋のイメージが強い。それでいて、いざとなると自民党を助けかねないという思いは有権者の方に強くある」。改革を叫ぶ自民党支持ではつじつまが合うまい。(K)
 
止まらぬ異常円安(2024年4月24日『しんぶん赤旗』-「主張」)
 
アベノミクスからの決別こそ
 異常な円安が止まりません。34年ぶりの水準となる、1ドル=154円台が続いています。
 円安ドル高は、ドルで売る商品の値段が高くなるので、トヨタ自動車などの輸出大企業は大もうけを続け、ためこんだ内部留保は過去最高となっています。
 円安によって、外国から見ると、日本の株式は相対的に安くなるので、投資が増え、日本の株高につながっています。
 ところが、下請け中小企業にとって円安は、原材料や燃料の値上げと、弊害ばかりです。日本に住む人にとっても、円安は輸入に頼る食料品や燃料の値上げで大変です。
 逆に外国に住む人の側から見ると、日本の製品は相対的に安くなり、観光客が多くつめかける「オーバーツーリズム」とよばれる現象まで起きています。
■金融の量的緩和
 円安の主要な原因は、アベノミクスの「第一の矢」として行われた「異次元の金融緩和」です。
 日本銀行国債買い入れにより、市場に資金を大量に供給することで金利を引き下げました。民間金融機関が日銀に預けている当座預金の一部からお金を徴収する「マイナス金利」政策まで導入しました。
 超低金利政策によって、預貯金の利子はほとんどゼロになりました。通常の金利水準であれば、庶民が得るはずだった利子金額の合計はばく大です。日本の家計の預貯金は、1012兆円なので、これに利子がつけば、1%あたりおよそ10兆円になります。
 アメリカのドルなどの金利が日本の金利よりも高ければ、日本の円は売られ、ドルなどは買われるので、円安は進行します。
 最近では、欧米諸国がのきなみインフレ対策として金利を上げています。アメリカの政策金利は上限5・5%になっており、円の上限0・1%との金利差がますます開いたことで異常な円安が進みました。
 日銀は、3月19日の金融政策決定会合で、「マイナス金利」政策などの解除を決めましたが、植田和男日銀総裁は「当面、緩和的な金融環境が継続する」として、日銀の国債の買い入れによる大量の資金供給を継続することを表明しています。
 円の金利上昇が予測されれば、通常は円高に動くはずですが、国民を物価高で苦しめている円安は止まっていません。
 日銀が、お金を預ける側が利子を払うという「マイナス金利」などの異常なやり方をやめただけで、国債を大量に買い続ける「異次元の金融緩和」をやめたわけではないからです。
 今の異常な円安とそれにともなう物価高は、金融頼みのアベノミクス継続の弊害です。
実体経済立て直し
 引き続く物価上昇のもと、実質賃金は、過去最長とならぶ23カ月連続の減少となりました。
 国民を苦しめる異常な円安から抜け出すためにも、金融頼みの経済政策から実体経済を立て直す政策へ転換することが急務です。
 中小企業の賃上げへの直接支援とともに、最低賃金を時給1500円に引き上げることなどアベノミクスからの抜本的な転換が必要です。
 
(2024年4月24日『しんぶん赤旗』-「潮流」)
 
 戦火想望俳句。この言葉を俳人で文芸家の堀田季何(きか)さんに教わりました。戦時平時を問わず戦地や戦火に包まれた街の景を想像して作る句のことです
▼堀田さんは本紙「俳壇」を2022年から2年間執筆。今年度からは「NHK俳句」に選者として出演しています。主宰を務める「楽園俳句会」は有季も無季も定型も自由律も全て可、多言語対応の結社です
▼13日に都内で開かれた「俳人九条の会』新緑のつどい」でも講演し、今こそ戦火想望俳句を作り広めようと呼びかけました。俳句は、凝縮した言葉で一瞬にして戦争の恐怖を脳裏に焼き付けられる、短さゆえに簡単に伝えられ、平和のバトンを次々に手渡していける、と
▼例として池田澄子氏の句〈春寒き街を焼くとは人を焼く〉〈焼き尽くさば消ゆる戦火や霾晦(よなぐもり)〉を挙げ、その師・三橋敏雄が戦火を想像で書くとはけしからんという風潮に対して「そこで死ぬかもしれない場がどのようなところなのかを、必死で想像するのは当たり前のことじゃないか」と反論したことを紹介しました
▼「想像力の欠如が戦時の戦争賛美や戦争協力、平時の戦争推進につながる」と堀田さん。自身にも〈塀一面彈痕(だんこん)血痕灼(や)けてをり〉〈ひややかに砲塔囘(まわ)るわれに向く〉〈ぐちよぐちよにふつとぶからだこぞことし〉等の句があります
▼もはやウクライナやガザの惨状は苛酷な現実です。かの地でも「戦争止めて」の悲願を込めて俳句が詠まれています。〈屋根なき家今朝までは誰かの家庭 L・ドブガン〉