これまでの裁判で、須藤被告は「私は野崎さんを殺していないし、覚醒剤を摂取させたこともない」として一貫して無罪を主張。一方、検察側は、被告が覚醒剤の密売人と接触していた点や、覚醒剤や殺人、遺産相続について何度もインターネットで検索していた点などを指摘。犯人は被告以外ありえないとして、無期懲役を求刑していました。
きょうの判決で和歌山地裁は、検察側の主張について「密売人から購入したものが実際は氷砂糖だった可能性を否定できない」「殺害を計画していなければありえないような検索履歴とはいえない」などと指摘。「被告が殺害したのではないかと疑わせる事情はあるものの、野崎さんが誤って致死量の覚醒剤を摂取し死亡した可能性を否定できない」として、須藤被告に無罪を言い渡しました。
Q.無罪判決が言い渡されたときの須藤被告の様子はいかがでしたか?
主文を言い渡された瞬間、須藤被告は少し下を向いて涙ぐんで、弁護人がそっと差し出したハンカチでその涙をぬぐっていました。
また、判決全体の言い渡しが終わって退廷する際、裁判長に向かって小さくですが会釈をし、裁判長もそれに対して会釈し返すといった、そういった場面もありました。
判決言い渡しが終わった後、検察官全員が呆然とした表情を浮かべていたのが印象的でした。
和歌山県田辺市の資産家で「紀州のドン・ファン」と呼ばれた会社経営者野崎幸助さん(当時77歳)に覚醒剤を摂取させて殺害したとして、殺人罪などに問われた元妻、須藤早貴被告(28)の裁判員裁判の判決で、和歌山地裁(福島恵子裁判長)は12日、無罪(求刑・無期懲役)を言い渡した。
判決を聞き、ハンカチで涙を拭う須藤被告(イラスト 竹本佐治)
主な争点は、野崎さんが殺されたかどうか(事件性)と、殺害されたとして須藤被告が犯人かどうか(犯人性)だった。
被告が野崎さん死亡時に2人きりで、多額の遺産相続という殺害の動機もあったと認めたが、「被告が殺害したと推認するには足りない」と判断した。
須藤早貴被告の被告人質問当時の様子(イラスト・山川昂)
「紀州のドン・ファン」と呼ばれた和歌山県田辺市の資産家、野崎幸助さん=当時(77)=に致死量の覚醒剤を飲ませて殺害したとして殺人罪などに問われた元妻、須藤早貴被告(28)に無罪を言い渡した12日の和歌山地裁判決。福島恵子裁判長は「初めて覚醒剤を使用する野崎さんが、誤って致死量を摂取した可能性を完全に否定することはできない」と述べた。
これまでの公判では、野崎さんの知人女性が死亡の約1カ月前、野崎さんから電話で「覚醒剤やってるで」と言われたと証言。知人女性は冗談だと受け取り、死後の捜査でも野崎さんが覚醒剤を常習していた痕跡はなかった。
ただ地裁は、人脈が広く、経済力もある野崎さんが覚醒剤を入手することが不可能ではなく、野崎さんの発言が全くの噓だとは言い切れないと判断。野崎さんが知人女性への発言当時、覚醒剤の入手を依頼したり、実際に入手したりしていた可能性は残るとした。
元妻は初公判で「私は殺していません」と全面的に否認。被告人質問では、野崎さんの死亡前月に薬物の密売人と接触したことは認めつつ、「野崎さんから覚醒剤の購入を依頼された」とし、自殺や誤飲の可能性に言及していた。また、弁護側は仮にカプセルで致死量の覚醒剤を飲ませようとすれば最大で約30個必要で、「本人の意思に反して摂取させるのは極めて困難」と事件性に懐疑的な見方を示していた。
これに対し、検察側は論告で、元妻が「老人 完全犯罪」などと検索し、野崎さんが覚醒剤を摂取したとされる3時間余りは自宅に2人きりだったと指摘。野崎さんは死んだ愛犬のお別れ会を死亡翌月に予定し、現場周辺で覚醒剤の容器なども見つかっておらず、自殺や誤飲の可能性を否定していた。
無罪判決に涙拭う須藤被告 閉廷後、裁判長に一礼―資産家殺害(2024年12月12日『時事通信』)
判決を聞く元妻の須藤早貴被告(手前)=12日午後、和歌山市(イラスト・松元悠氏)
「被告人は無罪」。和歌山地裁で12日あった須藤早貴被告(28)の判決。待ち望んだ主文を耳にした須藤被告は首をやや下に傾け、右手で涙を拭うようなしぐさを見せた。
午後1時半ごろ、101号法廷に現れた須藤被告は上下黒のパンツスーツにマスク姿。これまで開かれた審理とは異なり、胸部まで伸びた髪を巻いていた。隣に座った弁護人と時折、言葉を交わしながら落ち着いた様子で開廷を待った。
福島恵子裁判長に促されて証言台前の椅子に座って言い渡しに臨んだ被告。主文が言い渡された瞬間、満席の傍聴席は静まり返った。傍聴席から被告の表情はうかがえなかったが、無罪とした判決理由が読み上げられる中、歩み寄った弁護人から紺色のハンカチを渡されると、軽く礼をして受け取り、何度も目に当てていた。
約40分にわたった言い渡しが終わると、立ち上がって裁判長に向かい頭を下げ、刑務官に連れられて法廷を後にした。
地裁によると、午前中に行われた一般傍聴席の抽選には、48席に対して301人が並んだ。
裁判員を務めた20代男性会社員は会見で、「今回、直接的な証拠がないということもあり、有罪の目で証拠を見てしまうと有罪に見える。無罪の目で見ると無罪に見えてしまう。中立の立場で証拠だけをみて、感情を切り離して考えるようにしました」と話しました。
◆判決の総合評価は
和歌山地裁(福島恵子裁判長)の判決は、総合評価として、「被告が野崎さんに致死量を超える覚醒剤を摂取させることは一応可能で、インターネットで覚醒剤を注文し、密売人から品物を受け取ったことや、死亡当日に、繰り返し2階と1階を行き来する普段と異なる行動を取っていることなどは、被告が殺害したのではないかと疑わせる事情ではあるが、被告が殺害したと推認するに足りない」としました。
具体的な項目については、以下のように判断しています。
【2階との行き来について】
判決では「死亡当日は、ヘルスケアアプリの記録から1時間に7回行き来した記録があり、ほかの日には見られない行動だが、野崎さんと無関係な理由で1階と2階を行き来していた可能性も否定はできない。」と判断しています。
【検索履歴について】
判決では、「被告は、『殺人罪 時効』『殺人 自白なし』などを検索しているが、単なる関心から検索することもあり得、殺害していなければあり得ない行動とは言えない。」と判断しました。
【品物は覚醒剤だったのか】
これについて判決は、「氷砂糖と言った証人は、覚醒剤と言うと処罰される可能性があり、虚偽供述する理由がある」とわざわざ述べつつも、結論としては「覚醒剤だった可能性はあるものの、氷砂糖であった可能性も否定できない」とし、じゅうぶんな立証とは認めませんでした。
和歌山県田辺市の資産家で「紀州のドン・ファン」と呼ばれた野崎幸助さん(当時77歳)を急性覚醒剤中毒で死なせたとして、殺人などの罪に問われた元妻、須藤早貴被告(28)の裁判員裁判の判決で、和歌山地裁(福島恵子裁判長)は12日、無罪(求刑・無期懲役)を言い渡した。
判決後、裁判員を務めた20代の男性会社員が記者会見に応じ、「審理の期間が長く、証人も多かったため全て吟味して判決を出すことに苦労した」と振り返った。
公判は9月12日に始まり、11月18日まで計22回の審理があった。証人は28人に上った。
野崎さんの急死を巡っては、目撃証言を含めて被告の関与を裏付ける直接的な証拠がなく、検察側は状況証拠を中心に立証を進めた。
男性は「直接的な証拠がないこともあり、判決まで答えが出なかった。(無罪の結論は)評議の中でしっかりと話し合って出した答え。悩みは特にない」と語った。
報道陣から「被告が判決時に泣いているように見えたがどう思ったか」と問われると、「安堵(あんど)したのかなと思った」と話した。【安西李姫】
和歌山県田辺市の資産家で「紀州のドン・ファン」と呼ばれた野崎幸助さん(当時77歳)を急性覚醒剤中毒で死なせたとして、殺人などの罪に問われた元妻、須藤早貴被告(28)の裁判員裁判の判決で、和歌山地裁(福島恵子裁判長)は12日、無罪(求刑・無期懲役)を言い渡した。
「被告は無罪」。福島恵子裁判長が主文を言い渡した瞬間、被告は前を見つめて落ち着いた様子だった。
この日の法廷には、黒のスーツに白いマスク姿で出廷。判決言い渡しの最中は証言台の前に座り、前を向いて聴き入った。手を顔に当てて涙を拭うような仕草をし、弁護人がハンカチを渡す場面もあった。
野崎幸助さん=知人提供
約40分間の読み上げが終わると、立ち上がって裁判員らに向かって深々と頭を下げ、法廷を後にした。
9月から始まった公判の終盤、被告は3日間に及んだ被告人質問に臨んだ。金銭への執着や野崎さんへの恨み節を語っていた。
「どちらかというと『無』ですかね」。被告は野崎さんが死亡した際の第一発見者で、その時の心境を一言で表現した。「遺産がもらえるまで時間がかかるので面倒」とも言い放った。
結婚した際、野崎さんから毎月100万円を受け取る約束だったことも明らかにした。「ラッキー。うまく付き合っていこうと思った」と振り返り、「遺産目当てだとは誰にも隠していない」と語った。
一方、覚醒剤を巡っては捜査段階で明かしていなかった供述も。「社長から『買ってきてくれませんか』と言われた」と述べ、20万円を手渡されたと説明。「冗談だと思った。買ったことないから放置した」としたが、野崎さんから促されて購入したと話した。
野崎さんの死亡に関与していないとしたうえで、「(野崎さんが)死にたいと言っていたから自殺の可能性がある」「(覚醒剤の)量を間違えたんじゃないか」と指摘。「殺人犯扱いをされた」と繰り返したうえで、「(野崎さんには)もうちょっと死に方を考えてほしかった」と言った。【藤木俊治】
“紀州のドン・ファン”元妻『無罪』判決にすすり泣き 異例の長期裁判「犯行に合理的疑い残る」 控訴で判決変わる可能性「ないとは言えない」と菊地弁護士(2024年12月12日『FNNプライムオンライン』)
ついに判決だ。
12日、和歌山地裁は、無罪を言い渡した。
裁判長は理由をどう説明したのか。法廷で何が…。
■資産家を殺害した罪に問われる元妻へ無罪判決 傍聴席48に300人並ぶ
和歌山地裁・福島恵子裁判長:被告人は無罪。
判決の瞬間、須藤早貴被告(28)は、少し視線を下に落とし、すすり泣く様子が見られた。
記者リポート:午後1時すぎです。須藤被告を乗せたと見られる車が、和歌山地裁に入ります。
3カ月間という、異例の長期裁判の判決の日。
記者リポート:注目の判決を見届けようと、和歌山地裁前には傍聴券を求めて長い列ができています。
48の傍聴席に対し、およそ300人が並んだ。
■覚醒剤の入手を認めるも、自己や自殺の可能性を主張
事件が起きたのは、2018年。
死因は、急性覚醒剤中毒で、何らかの方法で飲ませ殺害したとして、元妻の須藤早貴被告(28)が、逮捕・起訴された。
ことし9月から始まった裁判員裁判。
初公判で須藤被告は…。
須藤早貴被告:私は、社長を殺していませんし、覚醒剤を摂取させたこともありません。私は無罪です。
覚醒剤を売人から入手しようとしたことは認めたものの、「野崎さんに頼まれた」として、事故や自殺の可能性を主張した。
■検察側が立証しようとしたのは「事件性」、「犯人性」
一方、検察側が立証しようとしたのは、大きく2つ。
1つは、事件性。
野崎さんの知人など複数の証言から、「野崎さんは、これまでに覚醒剤を使用しておらず、先の予定を楽しみにしていた」として事故や自殺ではなく「殺人事件である」と主張。
もう1つは「犯人性」。
野崎さんが覚醒剤を摂取したとされる時間に、家にいたのは須藤被告だけで、犯人は「被告以外に考え難い」と主張した。
■「殺害したと言い切ることはできない」と元妻は無罪判決
そして12日、注目の判決。午後1時40分すぎ。
判決文を裁判長が読み上げ、野崎さんの死亡当時の状況について、こう述べた。
和歌山地裁・福島恵子裁判長:当日の状況、被告人と野崎さんの関係から、被告人が覚醒剤を摂取させることは可能だった。被告人が野崎さんと2人きりで野崎方にいた間に、普段と異なる行動をとっていたことが疑われる。
しかし、その上で、須藤被告が野崎さんを殺害したと言い切ることはできないと続けた。
また、野崎さんが飲んだ覚醒剤については。
と述べた。
そして、インターネットで、被告が『完全犯罪』と検索していたことについては、「殺害を計画していなければ、検索することはありえないとまでは言えない」とし、「検索履歴をもって、被告人が野崎さんの殺害を計画したとは言えない」とした。
これらを総合し、裁判長は「被告人の犯行に合理的疑いが残る」として、無罪を言い渡した。
■判決後「すごく苦労した」と裁判員 検察は「判決文の内容を精査し、適切に対応」とコメント
須藤被告への判決の後、記者会見に応じた裁判員は…。
裁判員(20代・会社員):今回の裁判、期間が長いというのと、証人の数も多いですし、証拠の数も多いので、それを全て吟味した上で判決を出すのは、すごく苦労した点かなと思います。
一方、和歌山地検は「検察官の主張が受け入れられなかったのは残念である。今後については、判決文の内容を精査し、上級庁とも協議の上、適切に対応したい」とコメントしている。
■検察控訴の場合 判決が変わる可能性「ないとは言えない」と菊地弁護士
裁判では、覚醒剤を買ったことそのものも認定されなかったということで、これが判決に与えた影響は大きかったのだろうか。
菊地幸夫弁護士:大きいですね。今回の事件では、覚醒剤は被害者の命を奪う凶器みたいなものですから、それが凶器じゃなかったかもしれないということになる。あと誤飲の可能性があるという、これも大きいと思いますけれども、入口の点は大きいと思います。
無罪判決について、菊地弁護士は次のような印象を述べた。
菊地幸夫弁護士:もともと直接証拠がない、直接証明するものがなく、本体の周りを埋めていくという作業をしなければいけない難しい事件だったんです。そこが埋めきれなかった。周りを全部埋めて、中心を認定してもいいでしょうというレベルまでいかなかったという、簡単にいえばそういう判決ですね。
ただ見方として、一つ一つを見れば『検索履歴』だけじゃ犯人じゃない。だけど全体をつなげてみれば、覚醒剤も買いに行ってる、検索もしている、実行するチャンスもあったというような、いろんな見方ができる。この判決は全体の見方というよりは、むしろ個々のものを判断してという印象が強いなと私は思います。だから何を言いたいかというと、裁判官が変わればまた別の判断もあり得るかもしれないです。
今後の検察の控訴の可能性について、新たな証拠が出てこなかったとしても、高裁で判決が変わる可能性というのはあるのだろうか。
菊地幸夫弁護士:ないとは言えないと思います。ものの見方の考えの違いで、違う結論が出る可能性はないとは言えないと思います。
■『疑わしきは罰せず』の原理に則った無罪判決か
無罪判決が出て、この後、須藤被告はどうなるのだろうか。
菊地幸夫弁護士:今回の事件であれば無罪判決が出れば、須藤被告の身柄を拘留している勾留状というのは失効するのですけれども、別の詐欺の事件ですでに有罪の実刑が確定している身です。いわば受刑者が外に出てきて裁判を受けているという立場なので、今回の無罪判決によっても身柄はただちに開放はされないです。
関西テレビ 神崎博報道デスク:今回の裁判では、自殺、事故、事件・他殺という3つの線があると思います。このうち事故の線、つまり何らかの形で野崎さんが覚醒剤を入手して誤って太量に飲み込んでしまい、亡くなったという、事故の線が消せなかったことが一つあります。
それと須藤被告が入手した覚醒剤が本物の覚醒剤なのかどうか。氷砂糖という話もありました。そこが本物かどうか確証が得られなかった。その2点でやはり疑問が残ったので、無罪という判決になった。やはり刑事裁判の大原則である、『疑わしきは罰せず』『疑わしきは被告人の利益』によって、原理原則に則ったような判決だったのかなと思います。
今回の判決を受けて検察側が控訴するのかどうか注目される。
(関西テレビ「newsランナー」 2024年12月12日放送)