半導体の人材 地域の大学を育成の拠点に(2024年4月22日『読売新聞』-「社説」)

 国内で半導体工場の新設が相次ぐ中、人材の育成が大きな課題となっている。大学など各地域の教育機関を核として、産官学の連携を深めていくことが求められる。

 半導体は、自動車や家電製品など様々な工業製品に使われ、産業競争力を左右する重要物資だ。コロナ禍後の景気回復に伴い、世界的に半導体不足が生じ、各国で自動車の生産に支障が出た。

 経済安全保障の観点からも安定調達が不可欠だ。先端半導体の生産拠点は台湾に集中しているが、欧米は最近、自国への工場誘致を競っている。日本も半導体産業の基盤強化を図るべきだろう。

 半導体の受託製造で世界首位の台湾積体電路製造(TSMC)は、熊本県菊陽町に日本で初めての工場を作り、年内に量産を開始する。第2工場の建設も決めた。

 国内の民間企業が出資し、最先端半導体の国内生産を目指す新会社「ラピダス」も、2027年の量産化を想定して、北海道千歳市で工場建設を進めている。

 ただ、工場の設備を整えても、研究開発や生産にあたる人材が十分に確保できなければ、産業の再興は容易ではない。電機産業の業界団体は、10年間に主要メーカーで少なくとも4万人の人材が追加で必要になると推計している。

 人材育成の鍵となるのは大学である。九州大学は今月、TSMCと連携の覚書を交わした。TSMCの社員が講師となる講座を開くほか、TSMCの台湾の拠点にインターンシップ(就労体験)として学生を派遣する計画だ。

 熊本大学も、TSMCから大学生向けの奨学金や講座の提供を受け、共同研究を進めるという。

 別の台湾企業の半導体工場が進出する東北でも、産官学の組織が人材育成に取り組んでいる。

 製造業の工場は地方に立地し、地域経済を支える存在となることが多い。半導体企業が地方の大学と協力する意義は大きい。高等専門学校高専)を含め、人材育成の拠点となることが望まれる。

 教育の場では、工業製品に欠かせない物資を作る半導体産業の魅力を広く学生に伝えることが重要だ。経済の屋台骨となるモノづくりの大事さも訴えたい。

 日本の半導体産業はかつて世界一だったが、国際競争力の低下に伴いリストラを繰り返し、人材は海外企業や他産業に流出した。

 そうした人材を呼び戻し、技術を伝承することも必要だ。企業は処遇を含め、技術者を大切にする姿勢を再確認してほしい。