「世界に響いた銃声」と呼ばれる…(2024年4月16日『毎日新聞』-「余録」)

イランが発射したミサイルやドローン迎撃のため、稼働したイスラエル軍の防空システム=イスラエルのアシュケロンで14日、ロイター

 

国連安全保障理事会の緊急会合で発言するイランのイラバニ国連大使=14日、AP
国連安全保障理事会の緊急会合で発言するイランのイラバニ国連大使=14日、AP

 

 「世界に響いた銃声」と呼ばれる110年前のオーストリア皇太子暗殺事件。セルビア人の暗殺団は爆弾で殺害しようとして失敗し、爆弾事件のケガ人を見舞おうと病院に向かった皇太子に再度、銃撃を加えた

▲暗殺未遂なら第一次世界大戦はなかったのか。「歴史にイフはない」そうだが、史上初の国家間の総力戦につながり、1000万人近いとされる戦死者を出した戦禍を思えば「もし」が頭に浮かぶ

▲いまだに何が原因かも論争がある。セルビアに最後通告を出したオーストリアもせいぜい局地戦と考え、英仏露独など大国も総力戦は想定外だった。ちょっとしたボタンの掛け違いが戦火を拡大させた側面は否定できない

▲そんな歴史を連想したのがイスラエルに対するイランの大規模攻撃だ。本来、不可侵のはずの在シリアのイラン大使館を空爆された報復で、イスラエル領土への直接攻撃は初めてという

▲約300発のミサイルやドローンの大半がイスラエル軍や米軍に撃墜され、大きな被害はなかった。イランにも報復の連鎖を避ける計算があるのだろう。米国はイスラエルの勝利と位置づけて事態沈静化を図っている

▲だが、戦火に直面すれば、強硬論が台頭し、対話が難しくなるのも歴史の教訓である。ロシアのウクライナ侵攻後、大国間の対立が深まっている。ボタンの掛け違いが起きないかと心配になる。「破壊的な全面戦争の現実的な危険に直面している」と警告するグテレス国連事務総長の言葉に真剣に耳を傾けたい。