キャッシュレス 決済の安全性向上が急がれる(2024年4月16日『読売新聞』-「社説」)

 政府の推奨でキャッシュレス決済が拡大するのに伴い、クレジットカードの不正利用による被害が急増している。
 決済の安全性が高まるよう、官民で不正利用による国内での被害額は約540億円に上り、14年と比べ4・7倍に増加した。
 「フィッシング詐欺」と呼ばれる手口が目立っている。
 何者かが、金融機関や通販サイト業者などを装ってメールで利用者を偽サイトに誘導した上で、カード番号などの情報を入力させ、その番号を使ってインターネットで商品を購入し、転売して換金する例が多いとされる。
 偽サイトは巧妙で、本物のサイトと見分けがつきにくい。被害は増える一方で、放置できない。
 政府は利便性を高めることを狙いに、クレジットカードや電子マネーなどキャッシュレスの割合を25年に4割にする目標を掲げ、普及を強く後押ししてきた。
 特に、ネット通販の拡大などでクレジットカードの利用額が伸びており、23年に105兆円と、5年前の約1・6倍となった。
 しかし、利便性の向上と、不正利用のリスクの増大が同時に進行している現状は、健全とは言えない。キャッシュレス普及の旗を振る以上、政府は安全対策に万全を期す責任がある。
 経済産業省は、不正防止に向けた官民合同の対策会議を設けた。ジェーシービーやクレディセゾンといったカード会社や、決済事業者の団体などが参加している。
 対策会議は、盗まれたカード情報で買い物が実行されるのを防ぐため、決済の前段階で、事業者が短時間しか使えないパスワードを所有者の携帯電話に送り、それを入力してもらう本人確認の仕組みの導入拡大を促すとしている。
 カード情報だけでは買い物ができないため、不正の抑止が可能だ。このシステムの活用が進む欧州では不正利用の割合が減っており、日本でも導入を急ぎたい。
 利用者側が警戒を強めることも大切だ。不審なメールの指示に従い、安易にカード情報を入力しないよう、注意する必要がある。
 不正利用されても、カード所有者がすぐに気づかないケースもあるという。こまめに明細を点検し、身に覚えのない支払いがないかどうか確認することも望まれる。
 警察が、盗んだカード情報を使った買い物など、犯罪行為の摘発に努めることも重要だ。