韓国与党敗北に関する社説・コラム(2024年4月13日)

韓国総選挙での与党敗北で尹錫悦大統領の求心力が低下するのは避けられない(5日、ソウル)=AP

 

関係改善の流れ止めるな/韓国与党惨敗と日本(2024年4月13日『東奥日報』-「時論」)


 韓国総選挙は、最大野党「共に民主党」が議席の半数以上を獲得する圧倒的勝利を収め、尹錫悦(ユンソンニョル)政権の保守系与党「国民の力」が惨敗する結果となった。尹氏の政権運営がさらに厳しくなり、野党は対日政策にも批判を強めることが予想される。関係改善の流れを止めないためにも、今こそ日本は積極的な努力をすべきだ。

 大統領就任から2年となる尹氏にとって、今回の総選挙は「中間評価」の意味合いを持つ。尹政権を支える与党は少数派で、国会での対応に苦慮してきたことから、政権と議会のねじれを解消し、安定した基盤で残り3年の任期を送ることをもくろんでいた。

 しかし、共に民主党議席を増やし、文在寅(ムンジェイン)政権で法相を務めた曹国(チョグク)氏の率いる革新系新党「祖国革新党」も躍進した。迅速な法案採決が可能となる5分の3以上の議席野党勢力が占め、与党の自由度はさらに狭まることとなる。

 こうした結果を招いた最大の原因は、尹氏の独善的な政治手法にある。批判に耳を傾けず、過去に自らがトップを務めた検察出身者を政権で厚遇し、妻の不正疑惑では特別検察官が捜査する法案に拒否権を行使した。物価高騰などで庶民の生活が苦しさを増す中で、身内に甘い姿勢は「不公正」と映り、政権審判を訴える野党の主張が支持を集めた。

 2022年3月の大統領選で、尹氏は共に民主党の李在明(イジェミョン)代表を破って当選したが、その票差はわずか0.7ポイントで、民意が分断された中での船出だった。それだけに、尹氏には謙虚な姿勢が求められていたが、トップダウン形式で進めるワンマンな手法に、当初は様子見だった有権者も、次第に批判を強めてきたと考えられる。

 もっとも、そうした尹氏のスタイルによって、事態が進展したものもある。その一つが、日本との関係改善だ。歴史問題を巡って文政権下では日韓関係が冷え込み、その水準は戦後最悪とも言われた。だが、最大の懸案だった元徴用工訴訟問題の解決策を昨年3月に発表し、シャトル外交の復活など日韓関係は急速に改善した。

 日本重視の姿勢には、韓国世論から「一方的に譲歩しすぎだ」との批判を浴びた。だが日韓関係の改善は尹政権にとって成果であり、総選挙での敗北を受けて、その方向性が揺らぐとは考えにくい。むしろ、米国との連携強化や、北朝鮮への強硬策と並び、対日政策も政権のカラーとして強化していく可能性もある。

 一方で、野党は外交面でも尹氏に対して批判を強めるとみられ、日本との関係もその対象となることは確実だ。李氏は日韓の歴史問題に関する尹氏の姿勢を強く非難してきただけに、対日政策の見直しを迫ってくるだろう。その背景に、歴史問題について日本からの積極的な対応がない、という韓国での根強い不満があることを見逃してはならない。

 27年の次期大統領選を見据え、与野党内での権力抗争が高まっていく中で、日本との関係が政争の渦に巻き込まれることも予想される。尹氏は世論への丁寧な対応が求められるが、日本も長期的な関係維持に向け、歴史問題で韓国にくすぶり続ける不満を和らげるための、より一歩踏み込んだ対応をとっていく必要がある。

 

政治改革特別委 まず実態解明の徹底を(2024年4月13日『山形新聞』-「社説」)

 衆参両院は、自民党派閥の裏金事件を受け、政治改革特別委員会を相次いで設置した。
 戦後まもなく制定された政治資金規正法は、政治とカネを巡る不祥事が起きるたびに改正を重ねてきたが、なお抜け穴だらけだ。
 一時しのぎを続けてきた過去を反省し、二度とこのような事件を起こさないために、抜本改革に向けた議論を徹底してもらいたい。
 そのためにはまず、事件の実態解明を尽くすことだ。裏金づくりは、その目的や経緯、使途などが依然判明していない。
 問題の根源が分からなければ、それを防ぐ手だても曖昧になる。まやかしを放置してはならない。
 特別委での究明だけでなく、虚偽答弁に偽証罪が適用される証人喚問も早急に実現させるべきだ。
 約80人の裏金議員のうち政治倫理審査会に出席したのは9人しかいない。しかもいずれも「知らぬ存ぜぬ」を繰り返しており、説明責任を果たしたとは言えない。
 自民党内からは「特別委は裏金問題を追及する場ではない」との声が上がるが、不正を重ねた当事者の党から言う話ではない。真相究明に自ら努力するのが筋だ。
 岸田文雄首相は森喜朗元首相に電話し、裏金への関与はなかったと認定したというが、やりとりを含め根拠が明示されていない。
 森氏は裏金づくりの開始経緯を知る可能性がある人物だ。やはり本人の国会招致が必要だろう。
 規正法改正の論点は、野党からはほぼ出そろっている。
 会計責任者だけではなく政治家自身も責任を追う連座制の導入や、外部監査を通じた透明性の確保、政党から政治家個人に渡される政策活動費の廃止などだ。
 中でも企業・団体献金の全面禁止は、30年前の政治改革から積み残された課題である。
 政財界が癒着し、資金力の多寡によって政策決定がゆがめられるようなことがあってはならない。今回こそ決着をつけるべきだ。
 そもそも政治にカネがかかるとは本当か、だとすれば何が問題かの議論も突き詰める必要がある。
 問題はいまだに具体案を示さない自民党だ。首相は「火の玉になる」と宣言しながら、一向に党内論議を主導する姿勢が見えない。
 日本の代表制民主主義が根幹から揺らいでいることへの危機感が足りないのではないか。
 政権党としての政策推進の正当性が問われている。野党案を全て受け入れるくらいの覚悟がなければ、国民の信頼回復は望めまい。

 

韓国与党敗北 対日関係に影響が及ばぬよう(2024年4月13日『読売新聞』-「社説」)

 

 任期を3年残す韓国の尹錫悦大統領の政権基盤が揺らぐ結果となった。日韓関係に悪影響が及ばないよう望みたい。

 韓国の総選挙で、尹政権の保守系与党「国民の力」が過半数を大きく割り、敗北した。

 左派系の最大野党である「共に民主党」は議席を積み上げ、単独過半数を確保した。共に民主党との連携を表明している左派系新党「祖国革新党」も躍進した。

 与党は、野党側による大統領の 弾劾だんがい 訴追案の議決を阻止できる議席をかろうじて得たが、尹氏はこれまで以上に、少数与党での厳しい政権運営を迫られる。

 韓国の大統領は任期が5年で、再選がない。今回の与党の敗北により、尹氏の求心力低下が加速することは避けられまい。

 懸念されるのは、日韓関係への影響だ。就任以降、尹政権が一貫して進めてきた対日関係の改善は、最大の外交成果と言える。

 昨年3月には、両国間の懸案だった元徴用工(旧朝鮮半島出身労働者)訴訟問題を巡り、韓国政府傘下の財団が賠償金相当額を支払う解決策を発表し、悪化していた日韓関係を正常化した。

 これに対し、野党は「譲歩しすぎで屈辱的だ」と批判してきた。次期大統領選に向け、野党側が選挙で示された「民意」を背景に、「対日屈辱外交」との尹政権批判を強めるのは確実だ。

 今回の選挙では日韓関係が大きな争点にならなかった。

 尹氏が対日政策を転換するとの見方はほとんどない。尹氏には、日本との良好な関係が韓国の利益になると、国民に粘り強く訴えることを期待したい。

 北朝鮮がミサイル発射を繰り返し、緊張が高まる中で、日韓関係の重要性は増している。日本政府も、関係改善の流れを維持するため、首脳間のシャトル外交を継続していくことが欠かせない。

 尹政権は内政面の課題も多く抱えている。物価高や少子化、若者の就職難などに、有効な手立てを打てず、国民の支持が広がらない要因となっている。

 一方、妻が知人から高級バッグを受け取る動画が拡散した問題では謝罪を拒み、職権乱用疑惑で捜査を受けていた前国防相を大使に任命して出国させた問題では、与党の反対を無視したという。

 自らの考えにこだわる尹氏の姿勢は「独善的」との批判を招き、今回の選挙では、主に無党派層の票が野党に流れた。尹氏は選挙の敗因をしっかり分析し、今後の政権運営に生かすべきだろう。

 

与党大敗でも日韓協力の歩みを着実に(2024年4月13日『日本経済新聞』-「社説」)

 10日投開票した韓国総選挙で与党の国民の力が目標の過半数どころか選挙前の議席も割る大敗を喫した。2027年の尹錫悦大統領の任期切れまで少数与党の逆境が続くが、それでも日韓は正常な軌道に乗りつつある協力関係を着実に前に進めるべきだ。

 定数300のうち保守系の国民の力が系列政党を含めて6議席減らし108議席にとどまったのに対し、革新系最大野党の共に民主党は系列と合わせ19議席の上積みで175議席過半数を占めた。曺国元法相が率いる革新系の祖国革新党も第3党に躍進した。

 選挙戦は「尹政権の審判」の色彩を強めた。尹氏の指導力は対日関係を劇的に修復させる一方で、自らが正しいと思えば突き進む政治スタイルが多くの国民には傲慢と映ったようだ。暮らしを直撃する物価高も政権に矛先が向けられ、与党の逆風となった。

 元徴用工問題や原発処理水の海洋放出でも日本の対応を批判する野党勢力は今後、尹政権への攻勢を強めるとみられる。いたずらに対日強硬で世論をあおるのはよくない。尹氏は外交路線を変えない見通しで、与党も大局的な立場で支えてもらいたい。

 日韓関係は18年の韓国での元徴用工判決と日本の韓国向け輸出管理の厳格化などによって「戦後最悪」とも呼ばれた。その後、岸田文雄、尹両政権のもとで著しく改善し、安全保障や経済分野での連携が進んでいる。その歩みを遅らせる余裕は両国にない。

 周囲を見渡すと北朝鮮の核・ミサイルの脅威は共通課題である。中国は強権の度合いを深め、同盟を結ぶ米国でも再選をめざすバイデン大統領の政策が内向きになっている。地域の安定は日韓にとりわけ重要であり、声をそろえて行動することで影響力が増す。

 朝鮮半島や台湾の有事をにらんだ3カ国協力の具体化がまさに始まろうとしている。10日に日米首脳が顔を合わせ、7月の北大西洋条約機構NATO)首脳会議で調整されている日米韓首脳会談も重要だ。韓国政局を地域安保に波及させない努力が必要になる。

 尹氏は「総選挙での国民の意思を謙虚に受け止め、国政を刷新する」と語った。政策を進めるため国民と丁寧に向き合ってほしい。日韓が重層的な関係を築くのは日本の国益につながる。世界のなかの日韓というグローバルな視点で互いに知恵を出しあいたい。

 

岩波少年文庫の朝鮮民話選に『ネギをうえた人』という少々怖い…(2024年4月13日『東京新聞』-「筆洗」)

 

 岩波少年文庫の朝鮮民話選に『ネギをうえた人』という少々怖い話がある

▼人間がネギを食べなかったころ、人間は互いが牛に見え、間違えて食べることがよくあったそうな。そんな間違いが嫌になったある人が、人間が互いに人間に見える国を探す旅に出て、長い年月を経てようやく見つける。なぜ人間と牛が見分けられるのか聞くと、秘密はネギ。栽培して食べると間違いはなくなったと知る

▼民話では人に和をもたらすネギだが、韓国の国会議員を選ぶ総選挙で野党が与党打倒の象徴に長ネギを使い大勝。尹錫悦(ユンソンニョル)大統領を支える与党は惨敗した▼ネギ活躍の発端は尹氏がスーパーの視察で1束875ウォン(約100円)の長ネギを見て「合理的な価格だと分かる」と言ったこと。尹氏が接した品はあくまで特価で通常は数倍という

▼物価の実情に疎いと批判が出て「長ネギ」と「大破」の韓国語の発音は同じ「テパ」のため野党側は長ネギを手に「与党を大破」とアピール。物価高に苦しむ民に浸透した。ネギのせいばかりでなかろうが、尹氏には苦い結果である

▼民話では、ネギを知った人は種をもらい急ぎ故国に戻る。みんなを救えると種をまいたが、収穫前に周囲の人たちが「牛がいる」と捕まえようとし危機に陥る。結論を書くのは控えるが、公のために汗を流しても、理解を得るのはそう簡単ではないと分かる話である。

 

韓国与党大敗 対日関係後戻りさせるな(2024年4月13日『新潟日報』-「社説」

 大統領の求心力低下は避けられない。独断的とされる政治姿勢が招いた結果だ。今後は、国民の声に耳を傾ける謙虚な政権運営が必要だろう。

 改善してきた日本との関係に影響が生じるか懸念される。日韓両政府は、両国関係を後戻りさせぬよう一層力を注いでもらいたい。

 300議席を争う韓国総選挙が行われ、尹錫悦(ユンソンニョル)政権の保守系与党「国民の力」は系列政党を含め108議席で大敗した。革新系最大野党「共に民主党」と系列政党が、過半数を大幅に超える175議席を獲得した。

 総選挙は、5月に任期3年目に入る尹政権の「中間評価」と位置付けられた。尹大統領は残る3年、苦しいかじ取りを迫られる。

 共に民主党は、反政権で手を組む構えの革新系新党と合わせると、対決法案の迅速採決が可能な180議席以上を獲得した。国民の力の党トップや首相、大統領府高官らは一斉に辞意を表明した。

 尹氏は、選挙結果を受け「国民の意思を謙虚に受け止め、国政を刷新する」と述べた。

 言葉通りに、民意と向き合うことを期待したい。

 与党の敗因は、頑固に原則を貫き、「対話姿勢に欠ける強権政治」との批判が出ている尹氏の統治スタイルにあると指摘される。

 尹氏の家族の不正疑惑や身びいきな人事のほか、食料品の高騰などで国民に不満が高まっていたにもかかわらず、改善策を示せなかったこともあるだろう。

 非難合戦に終始し、政策論争が深まらなかったことは残念だ。

 心配なのは、日本への影響だ。直ちに外交政策が変わることはないとみられるが、尹氏の対日政策に韓国国内の批判は根強い。共に民主党の李在明(イジェミョン)代表は、日韓の歴史問題に対する尹氏の姿勢を強く批判してきた。

 日本に過去の清算を求める市民団体や野党の批判が、これまで以上に高まると予想される。

 与党内で尹氏と距離を置く議員が増えれば、国内の反発を抑え込む形で進めてきた対日政策は難しくなるだろう。

 「戦後最悪」と言われるほど冷え込んだ日韓関係を、尹氏の大統領就任で改善へと転換した。昨年3月に、5年ぶりとなる日韓首脳会談を開き、11年以上途絶えていたシャトル外交を再開させた。

 元徴用工訴訟問題を巡っては、日本企業の支払いを韓国財団が肩代わりする解決策を打ち出した。

 世界文化遺産登録を目指す本県の「佐渡島(さど)の金山」には、韓国内で「朝鮮半島出身者の強制労働の場だった」と反発する声がある。登録に韓国の理解は欠かせない。

 覇権主義的な動きを強める中国や核・ミサイル開発を続ける北朝鮮を抑止する観点からも、米国を含めた日韓の緊密な連携は不可欠なはずだ。

 

韓国総選挙、与党大敗 日本との関係悪化気がかり(2024年4月13日『中国新聞』-「社説」)

 韓国の総選挙で、対日関係の改善に尽くしてきた尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の保守系与党が大敗した。もともと少数与党で国会対応には苦労していたが、革新系野党の大勝で、与野党議席差が一層広がった。

 求心力や政策推進力の低下は避けられない。約3年の任期を残す尹政権が、従来の政策変更を余儀なくされる恐れも指摘されている。

 気になるのは対外政策だ。とりわけ日韓関係。尹大統領の就任前は「史上最悪」といわれるまで冷え切っていた。徴用工など主張の食い違う問題が山積していたからだ。再び冷え込まないか、日本としても注視する必要がある。

 今回の総選挙は、有権者による尹政権への中間評価という意味を持つ。独断的で対話を重んじない政治姿勢などへの逆風は強く、厳しい審判が下された。与党「国民の力」は、定数300のうち、比例代表向けの系列政党と合わせて、108議席にとどまり、改選前より六つ減らした。

 逆に、最大野党「共に民主党」は系列政党と合わせて19増の175議席。革新系の新党「祖国革新党」は12議席と大幅増となった。法案を迅速に採決できる180議席以上を確保し、国会の主導権を確実に握った。尹政権には大きな打撃である。

 与党の大敗は、「子飼い」の検察出身者を要職に登用した身内びいきや、妻の高級バッグ受け取り疑惑への強い批判の表れだろう。特に、家族の疑惑を追及する特別法を拒否権を使って廃案にした対応は異論を聞こうとしない傲慢(ごうまん)なイメージを定着させた。

 さらに、長ネギの価格に関する尹氏のとんちんかんな発言が政権与党にはマイナスとなった。食品価格の高騰で高まっていた庶民の不満に油を注いだといえよう。

 とはいえ、強引とも批判される尹氏の強い信念と推進力が、日韓関係を急速に改善させることにつながった面は否定できない。

 それだけに、今後の日韓関係が懸念される。野党の「共に民主党」と「祖国革新党」の代表はいずれも日本に対する強硬姿勢で知られている。これまでも、尹政権の対日政策への批判を繰り返してきた。3年後の大統領選に向け、さらに批判のトーンを高めることが予想される。

 良好な日韓関係を支えてきた重鎮議員が相次いで落選したことも気がかりだ。韓日議員連盟の会長や、尹政権の初代外相、野党の知日派議員である。政府間だけではなく、議員相互の交流や意思疎通も重要だ。パイプが細らないように努めなければならない。

 日本にとって、韓国は単なる隣国にとどまらない。植民地支配をしていた負の面も含めて、歴史的なつながりや文化的・経済的交流は深い。

 歴史認識の問題で、両国には意見の隔たりがある。それでも、互いに大局的視点に立ち、韓国の政権が保守系であれ、革新系であれ、意思疎通を欠かさず、一致点を探る努力を続けるべきである。両国関係が良好であれば、北東アジア地域の平和と安定の土台にもなるはずだ。

 

韓国総選挙関係改善 流れ止めるな(2024年4月13日『山陰中央新報』-「論説」)

 韓国総選挙は、最大野党「共に民主党」が議席の半数以上を獲得する圧倒的勝利を収め、尹(ユン)錫悦(ソンニョル)政権の保守系与党「国民の力」が惨敗する結果となった。尹氏の政権運営がさらに厳しくなり、野党は対日政策にも批判を強めることが予想される。関係改善の流れを止めないためにも、今こそ日本は積極的な努力をすべきだ。

 大統領就任から2年となる尹氏にとって今回の総選挙は「中間評価」の意味合いを持つ。尹政権を支える与党は少数派で、国会での対応に苦慮してきたことから、政権と議会のねじれを解消し、安定した基盤で残り3年の任期を送ることをもくろんでいた。

 しかし、共に民主党議席を増やし、文在寅(ムンジェイン)政権で法相を務めた〓国(チョグク)氏の率いる革新系新党「祖国革新党」も躍進した。迅速な法案採決が可能となる5分の3以上の議席野党勢力が占め、与党の自由度はさらに狭まることとなる。

 こうした結果を招いた最大の原因は、尹氏の独善的な政治手法にある。批判に耳を傾けず、過去に自らがトップを務めた検察出身者を政権で厚遇し、妻の不正疑惑では特別検察官が捜査する法案に拒否権を行使した。物価高騰などで庶民の生活が苦しさを増す中で、身内に甘い姿勢は「不公正」と映り、政権審判を訴える野党の主張が支持を集めた。

 2022年3月の大統領選で尹氏は、共に民主党の李在明(イジェミョン)代表を破って当選したが、その票差はわずか0・7ポイントで、民意が分断された中での船出だった。それだけに、尹氏には謙虚な姿勢が求められていたが、トップダウン形式で進めるワンマンな手法に、当初は様子見だった有権者も次第に批判を強めてきたと考えられる。

 もっとも、そうした尹氏のスタイルによって事態が進展したものもある。その一つが、日本との関係改善だ。歴史問題を巡って文政権下では日韓関係が冷え込み、その水準は戦後最悪とも言われた。だが、最大の懸案だった元徴用工訴訟問題の解決策を昨年3月に発表し、シャトル外交の復活など日韓関係は急速に改善した。

 日本重視の姿勢には韓国世論から「一方的に譲歩しすぎだ」との批判を浴びた。だが、日韓関係の改善は尹政権にとって成果であり、総選挙での敗北を受けて、その方向性が揺らぐとは考えにくい。むしろ、米国との連携強化や、北朝鮮への強硬策と並び、対日政策も政権のカラーとして強化していく可能性もある。

 一方で、野党は外交面でも尹氏に対して批判を強めるとみられ、日本との関係もその対象となることは確実だ。李氏は日韓の歴史問題に関する尹氏の姿勢を強く非難してきただけに、対日政策の見直しを迫ってくるだろう。その背景に、歴史問題について日本からの積極的な対応がない、という韓国での根強い不満があることを見逃してはならない。

 27年の次期大統領選を見据え、与野党内での権力抗争が高まっていく中で、日本との関係が政争の渦に巻き込まれることも予想される。

 尹氏は世論への丁寧な対応が求められるが、日本も長期的な関係維持に向け、歴史問題で韓国にくすぶり続ける不満を和らげるための、より一歩踏み込んだ対応をとっていく必要があるだろう。

 

【韓国与党大敗】日韓関係の悪化を防げ(2024年4月13日『高知新聞』-「社説」)

  
 韓国総選挙(国会定数300)は、革新系の最大野党「共に民主党」が比例代表向けの系列政党と合わせ175議席を獲得し、尹錫悦(ユンソンニョル)政権の保守系与党「国民の力」に圧勝した。
 野党側が議席過半数を占めるねじれの状態は解消されなかった。総選挙は、5月で就任から2年となる尹大統領への「中間評価」の側面を持つ。尹氏は一層苦しい政権運営を強いられることになった。
 尹政権は、5年ぶりの保守政権として2022年に発足した。尹氏は貧富の格差拡大や保守と革新の対立が深刻化する中、国民に団結を訴え、急速な経済成長による課題解決を目指した。
 しかし、尹政権の支持率は30%台に低迷し、選挙戦は当初から接戦が予想されていた。
 与党の敗因の一つは、「独善」「強引」との批判を招いた尹氏の政治手法だ。家族の不正疑惑や身びいきの人事をはじめ、医師不足対策として掲げた大学医学部の定員増の問題でも強硬姿勢を貫き、社会に混乱を招いた。
 急激な物価上昇についても目立った成果を出せなかった。特に生鮮食品の値上がりは著しく、今年2、3月の物価上昇率は前年同月比で約20%を記録した。尹氏の物価感覚を疑わせる、長ネギの値段に関する発言も与党に大打撃となった。
 韓国は超少子化が進み、所得格差の拡大、弱者へのしわ寄せなど課題が山積する。国民の政治に対する関心が高く、今回の投票率は1996年の総選挙以降で最高の67・0%を記録した。
 にもかかわらず、選挙戦では肝心の政策や公約が語られず、与野党は非難合戦に終始した。国民の期待に沿った選挙戦とは言えなかった。
 野党側の「政権審判」の訴えが奏功し、政治不信や不満が与党に向いた選挙結果であり、野党側も積極的に支持されたわけではないということを自覚するべきだ。国民の分断、政治の劣化が危惧される。
 気がかりなのは、改善基調にある日韓関係への影響だ。
 野党側は単独で法案を迅速に採決できる180議席以上を確保した。国会の主導権を握られた尹氏の求心力の低下は避けられない。
 最大の懸案だった元徴用工訴訟問題に対して尹政権は昨年3月、韓国政府としての解決策を発表した。首脳同士が相互訪問する「シャトル外交」も本格的に再開された。「戦後最悪」と言われるほど冷え込んだ文在寅(ムンジェイン)前政権時からの転換を明確にしてきた。
 与党が大敗しても、尹氏の日韓関係を重視する姿勢は変わらないとの見方が強い。しかし、尹政権の対日政策に批判的な野党が今後圧力を強めれば、これまでのような対日外交が難しくなる可能性がある。内政の行き詰まりから、強硬路線に変換することも否定できない。
 来年は日韓国交正常化60年という節目の年だ。安保を含む幅広い共通の課題に立ち向かう対等なパートナーとして関係を築いていきたい。