ソウル市長選を題材にした韓国映画を…(2024年4月12日『毎日新聞』-「余録」)

政権批判の象徴となった長ネギを持って野党候補を応援する支持者=ソウル近郊の京畿道で2024年4月8日午後4時29分、日下部元美撮影

政権批判の象徴となった長ネギを持って野党候補を応援する支持者=ソウル近郊の京畿道で2024年4月8日午後4時29分、日下部元美撮影
出口調査の結果に沈鬱な表情を浮かべる与党「国民の力」のリーダー、韓東勲前法相(中央)=10日(代表撮影・AP)
出口調査の結果に沈鬱な表情を浮かべる与党「国民の力」のリーダー、韓東勲前法相(中央)=10日(代表撮影・AP)

 ソウル市長選を題材にした韓国映画を動画配信サービスで見た。3選を目指す現職が若者向け集会でヒップホップダンスを踊り、ラップを歌う。選挙本部には広告代理店出身者が陣取り、ライバル候補を陥れる隠し撮り画像をSNSで流す

▲フィクションだが、韓国選挙の一面を反映してはいるのだろう。日本より早くインターネット選挙が解禁され、動画投稿サイトの政治チャンネルが人気を博す。候補者や運動員が歌って踊る動画も定番という

▲与党の惨敗に終わった10日の総選挙もSNSの影響が大きかったらしい。尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の妻が高級バッグを贈られる隠し撮り動画が拡散され、尹氏が大安売りの値札を見て「妥当な価格」と語った長ネギが政権批判のシンボルになった

▲駐オーストラリア大使に任命された前国防相が辞任に追い込まれるスキャンダルが追い打ちをかけた。1カ月前に野党を上回っていた与党の支持率が急落したというからSNS時代の世論の変化は早い

▲日韓の懸案だった徴用工問題を決着させて関係正常化に導いたのは尹氏の功績だ。残り任期は3年。野党が支配する議会との「ねじれ」で求心力が低下すれば、日韓関係に影響しないかと心配になる

▲もっとも昨年日本を訪れた韓国の人たちは約700万人。中国や台湾を上回り断トツの人数だ。日本では動画配信サービスの普及で韓国ドラマがいっそう身近になった。最も近い隣国である。政治の変化に左右されない安定した関係こそ目指すべきゴールだろう。