比較的小さな図書館を「文庫」と呼ぶ…(2024年4月30日『毎日新聞』-「余録」)

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「まちあい文庫」の呼び掛け文=JR木ノ本駅の待合室で2024年3月23日正午ごろ、小倉孝保撮影
 
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「携帯電話からひととき目を離して、本を読んでみては」と話す久保寺容子さん=JR木ノ本駅の「まちあい文庫」で2024年3月23日正午ごろ、小倉孝保撮影
 
 比較的小さな図書館を「文庫」と呼ぶ。JR北陸線木ノ本駅滋賀県長浜市)の待合室には「まちあい文庫」があり、木製の書棚に文庫本約200冊が並ぶ
▲近くで古書店を営む久保寺容子さんが9年前に設置した。「Phone(フォン)からHon(本)へ さぁ! 本を持って出かけよう」。棚の天板に置かれた呼び掛け文だ。小さな駅のため列車の本数が少なく、待ち時間が長い。携帯電話(フォン)からひととき目を離し、本との出合いを経験してもらいたかった
▲借りたまま列車に乗り込み、遠方まで行く人もいるはずだ。簡単には返却できない。そのため貸出期間を定めていない。「いつでも、誰でも、いつまでも」がモットーである。「10年後に返しに来てくれたら、それも縁ですから」と久保寺さんはのんびりしたものだ
▲周りからは当初、「返さない人が多く、そのうち蔵書がなくなってしまう」と危惧する声があった。実際はむしろ増えている。読み終えた本を提供していく人がいるようだ
▲「電車が止まってしまった図書館記念日のですが、助かりました」「心がほんわかしました」。返却用紙に走り書きされた感想を読むと、待ち時間も悪くないと思えてくる。文庫の効用だろう
▲きょう30日はである。1950年のこの日、図書館法が公布されたのにちなむ。「まちあい文庫」は改修のため一時閉鎖中だが、5月末に再開予定だ。久保寺さんは言う。「返却が遅れても、本が旅しているのを想像すると楽しくなります」
 
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