エスカレーター おとなしくしていた方がいい(2024年4月14日『毎日新聞』)

松尾貴史のちょっと違和感

松尾貴史さん作

松尾貴史さん作

 子どもの頃、駅やデパートのエスカレーターを進行方向と逆に駆け上がったり、駆け下りたりして、いつまでも目的の階にたどり着かないのを楽しんだ思い出がある。手すりから外側に身を乗り出して後ろを見ていた子どもの首が、天井とエスカレーターの斜線に挟まって大事故が起き、そのため、樹脂でできた注意喚起の三角形の板が一斉にぶら下げられるようになったのも覚えている。

 大学に入った頃には、「お急ぎの方のために左側をお空けください」とアナウンスがあった記憶がある。安全よりも効率を優先する意識があったのだろうか。左側を空けるのは、私が関西に住んでいて阪急電車を利用していたからだが、どちらか片側を空けて立つというのは、ある種のマナーのように錯覚していた時期だったのかもしれない。海外でも、設置者が「急ぐ人のために片側を空けよう」という呼びかけをしていた時代もあったそう…