石川(うるま)陸自訓練場白紙へに関する社説・コラム(2024年4月12日)

石川陸自訓練場白紙へ 整備そのものを断念せよ(2024年4月12日『琉球新報』-「社説」)

 うるま市石川への陸上自衛隊訓練場整備計画について、防衛省は地元の反発を受けて予定地への整備を断念することを決めた。木原稔防衛相は「不可能と判断した」と述べた。沖縄本島内の別の場所に検討する構えだ。過重な基地負担を背負っている沖縄にこれ以上の関連施設の新設は認められない。整備計画自体を断念してもらいたい。

 県内ではこれまでにも自衛隊配備や施設建設への反対運動はあったが、今回のような党派を超えた異議申し立ての動きは異例である。住民への説明は後回しにして南西地域への防衛力増強を是が非でも進める国への不信感もある。本島内で代替地を探すというが、県民の反発の中で整備された訓練場を運用することはできないのではないか。
 訓練場では地対空・地対艦誘導弾(ミサイル)部隊の展開訓練、迫撃砲の取り扱い訓練、戦闘訓練などを想定していた。予定地は住宅地に隣接し、最も近いところで6メートルの距離である。県内全域の児童生徒を受け入れ、年間ほぼフル稼働している県立石川青少年の家にも近い。
 国が整備計画をうるま市などに通知したのは、昨年末の閣議決定後だった。住民の要望を受ける形で計画に関する説明会を開いたが、2月に入ってからと時間を要した。
 生活環境が乱されるとの不安の声が予定地の旭区自治会で上がり、反対運動は市全域に広がった。千人規模の市民集会も開かれた。うるま市議会は石川出身の与野党の市議らが沖縄防衛局に反対を伝達。住民からの請願を受ける形で断念を求める意見書も可決した。県議会も白紙撤回を求める意見書を可決した。
 防衛省は訓練場では照明・発煙筒などは使用せず、緊急時などを除いてヘリの運用はしないなどとしたが、理解は得られなかった。
 今月に入り、木原氏は短期間のうちに「交流の場」との併設案や別の候補地探しについて国会などで発言した。観測気球を上げ、市民を揺さぶるような姿勢は許されない。
 今回の計画撤回について木原氏は「地元の状況についての把握、分析が結果として不十分だった」と述べ、地元へのおわびも表明した。当初は住民の懸念など念頭になかったのではないか。
 反対の声はうるま市以外にも広がっている。八重瀬町中城村南風原町の議会は白紙撤回や断念を求める意見書、決議を可決した。うるま市議会や県議会での決議を受け、県民として反対の姿勢を示すべきだという各議会の判断である。うるま市での計画を断念した場合、代替地を検討するとされてきたことへの警戒もその背景にはある。
 国は那覇陸自第15旅団を師団化することで、訓練場が不足する状況に変わりはないとして、本島内で別の候補地を探す考えだ。県民は不安にさいなまれることになる。計画自体を断念すべきだ。

 

うるま訓練場断念 基地押し付けの破綻だ(2024年4月12日『沖縄タイムス』-「社説」)

 木原稔防衛相は、うるま市のゴルフ場跡地に陸上自衛隊の訓練場を新設する計画について会見し、地元の理解を得るのは難しいとして断念を表明した。

 政府が一度決めた基地政策を白紙に戻すのは極めて異例と言える。だが、裏を返せば、地元との合意形成の努力をしない「国策優先・民意軽視」の姿勢が招いた当然の帰結である。

 計画地とされたうるま市石川の旭区自治会が1月の臨時総会で計画反対を全会一致で決議してから、地元で大きなうねりとなった運動は、党派や世代を超えて、あっという間に広がった。

 ゴルフ場跡地には、住宅地や自然環境豊かな県立石川青少年の家などが隣接する。そこに、約20ヘクタールを取得する計画だった。当初は実施するとしていた、ヘリの離着陸や空包を用いた訓練をしない、と方針転換したことも逆に国の説明に対する不信感を高めた。

 与那国町では、沿岸監視部隊の配備に賛成した島民も、その後、ミサイル部隊の配備が明らかになったことで「だまされた」と強く反発した。

 防衛省の計画断念は、生活環境を守るという一点で団結した住民運動の勝利として、評価したい。

 同時に、県内でいったん造られた施設が、なし崩し的に運用拡大される実態を県民が学んだことによる。政府の防衛政策への不信は大きい。

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 先月、開かれた「自衛隊訓練場計画の断念を求める市民集会」には、石川会館が満席になる1200人以上が参加した。子どもたちの未来を思い拳を上げる高齢者、自由と権利を守りたいと訴える高校生。「住民の視点が完全に欠落したあまりにもずさんな計画」に次々と抗議の声が上がった。

 うるま訓練場建設の断念を発表した木原防衛相だが「訓練の必要性は変わらない。沖縄本島のどこかを訓練場として準備しなければいけない」との立場だ。会見でも自衛隊員増員に伴い、訓練場不足を補う必要があるとの考えを示した上で「あらゆる選択肢を検討する」と述べた。問題が解決したわけではない。

 在日米軍専用施設だけで、7割以上が集中する沖縄での広大な訓練場の新設は、自衛隊施設といえども「負担増」につながるのは間違いない。

 防衛省は新たな訓練場施設を求める前に、まずは、一方的に計画を進めた経緯を説明する責任がある。

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 国は、一定の面積を確保できるなどとして計画を押し進めたことを反省すべきだ。そこで生活する人々や自然環境への影響より、自分たちの都合だけを優先したのだ。

 県民の根強い反対にもかかわらず、国が強行するのは、辺野古も同じだ。

 1996年4月12日に、日米両政府が、米軍普天間飛行場の返還合意をしてから28年となる。新基地の完成は「早くても2037年」とも言われるが、軟弱地盤の難工事で確たる見通しはない。

 うるまの陸自訓練場を断念したのと同様に、建設ありきで民意の支持を得られない辺野古の工事も中止すべきだ。