爆音の空を見上げると(2024年4月12日『琉球新報』-「金口木舌」)

 昼下がり、嘉手納基地に暫定配備されている戦闘機の轟音(ごうおん)が中部の空をしばし占拠する。ひどい爆音に小鳥の声も街の気配も、空を見上げる自分の感覚もつかの間かき消える

▼79年前のこの時期、米軍は慶良間の島々を皮切りに4月1日には読谷村に上陸。極限状態の中で住民は「集団自決」(強制集団死)に追い込まれた。本島では人々が北に南に逃げ、家にとどまった人もいた。あらゆる恐怖を思う
▼「鉄の暴風」と呼ばれた圧倒的な火力を持つ米軍の空襲、艦砲射撃、銃声。沖縄戦時に島に轟(とどろ)いた戦争の音。一方で逃げた住民は息を潜めることを強いられた。火薬の音は今も世界のあちこちで大手を振るい、戦禍の人々を黙らせる
▼老朽化したF15の退役に伴い、1年半前に始まった嘉手納基地への外来機の暫定配備から騒音が激化、広域化する。新世代のエンジンは推力の強化も進み、騒音が減ることはない
▼新しいF35A戦闘機の地鳴りのような爆音がやまない空を見上げながらつれづれに考え、ふと我(われ)に返る。空はまだうるさかった。