陸自訓練場計画見直し 超党派要求は白紙撤回だ(2024年2月29日『琉球新報』-「社説」)

 自民党県連幹事長の島袋大県議が、うるま市のゴルフ場跡地に陸上自衛隊の訓練場を整備する計画の白紙撤回を政府に求める考えを表明した。この動きを受け、防衛省は計画の大幅見直しの作業に入った。沖縄の総意を受け止め、防衛省は計画見直しではなく、完全に撤回すべきだ。

 この計画にはこれまで石川地区の全15自治会でつくる石川地区自治会長連絡協議会や石川地区の与野党市議が反対している。玉城デニー知事や県政与党も撤回を求めている。自民県連が「白紙撤回」を打ち出したことによって超党派で訓練場計画に反対する態勢が整い、防衛省の計画に歯止めをかける形となった。
 防衛省は訓練場で(1)新隊員の教育(2)災害への対処訓練(3)ミサイル展開など部隊展開訓練―などを実施する計画を示している。当初は空包の使用やヘリの輸送訓練も想定していたが、実弾、空包、照明・発煙筒などの化学火工品は使わず、災害時や緊急時などを除いてヘリは飛行しないと従来の方針を変えた。
 「安全な施設」と印象づけ、地元の反発を沈静化させようという狙いがうかがえる。だが、施設が完成してしまえば、なし崩し的に当初の計画通りの訓練が行われる可能性は否定できない。訓練の状況を毎回確認し、制限することはほぼ不可能だ。
 自民県連は17日に来県した木原稔防衛相に対して「地元への丁寧な説明」を求めた。その時は計画撤回を迫ってはいない。今回の方針転換については、6月の県議選で争点化を避けたいという党内事情が作用したとの見方がある。
 しかし、忘れてはならないのは地元住民の切実な思いだ。地元は日々の穏やかな暮らしを守るために声を上げているのだ。その声に応え、国の計画に異議を申し立てるのは、党派を超えた政党の責務と言える。
 自衛隊であれ、米軍であれ、基地問題は本来、県民の生命と財産に関わる問題だ。保守革新を問わず、政治家は地元の懸念に向き合い、代弁者となって政府に声を届けるべき立場にあるのだ。その点で、今回の自民県連の判断は政党の役割を果たすものであり、賢明であった。
 うるま市中村正人市長は「防衛省と地主の売買に不利益を与える可能性がある」として賛否を示していない。防衛省に対しては「地域の思い、意見書の中身を検討してほしい」としているが、市民の負託を受けたリーダーとして、賛否を明確にすべきだ。
 うるま市では勝連分屯地に地対艦ミサイル部隊配備も計画されている。市民はこれ以上の負担を受け入れる余裕はない。木原防衛相は「計画を白紙にする考えはない」と抗弁していたが、要請を無視できない状況に至った。超党派による沖縄の要求は計画見直しではなく、あくまでも白紙撤回だ。木原防衛相は地元の声に向き合うべきだ。