エナジードリンクが「依存症」の入り口に…カフェイン過剰摂取で「命の危険」 子どもも大人も要注意(2024年4月11日『東京新聞』)

 
 若者を中心に問題となっているカフェイン中毒。コーヒーやお茶、解熱鎮痛剤などの幅広い飲料や市販薬に含まれ、最近は、エナジードリンクがきっかけとなるケースもあるという。眠気覚ましや集中力アップのために飲む人も多いが、許容される摂取量は明確に定まっていない。どう付き合うべきか。(西田直晃)

◆栄養ドリンクとは似て非なるもの

 夜通し勉強に励み、教室で昼寝してしまう高校生の女の子がいる。机の上には複数の空き缶。見かねた同級生がこんな声をかけた。「エナジードリンク飲みすぎじゃない?」
 横浜市が制作、ウェブサイトで公開したアニメ動画「I am 依存症?」の一コマだ。若年層が陥りやすい依存症は他にもあるが、担当者は「ドリンクは学習生活に身近なもの。子どもでもすぐに購入でき、だからこそ気を付けてほしい」と説明する。
 
エナジードリンクの大量摂取など依存症予防を呼びかける若年層向けの啓発動画(横浜市のホームページから)=スクリーンショット

エナジードリンクの大量摂取など依存症予防を呼びかける若年層向けの啓発動画(横浜市のホームページから)=スクリーンショット

 そもそも、エナジードリンクとは何か。全国清涼飲料連合会によると、カフェインやアミノ酸、ビタミンなどを含む炭酸飲料を指す場合が多い。栄養ドリンクとは似て非なるもので、「滋養強壮」などの効果・効能とは無縁の清涼飲料水という。カフェイン含有量は商品によって違い、コンビニの売れ筋商品を見比べると、缶1本当たり80~142ミリグラム含まれていた。
 ドリンクには「お子様、妊娠中または授乳中の方にはお勧めしません」「適量の飲用をお願いします」との注意書きも。とはいえ、カフェインの1日当たりの望ましい摂取量は「個人差が大きい」(厚生労働省)との理由から基準が設けられていない。

◆海外では1日当たりの摂取量に目安

 一方、海外では目安が存在している。カナダ保健省が「健康な成人は1日当たり400ミリグラム(マグカップのコーヒー3杯分)」、英国食品基準庁が「妊婦は1日当たり200ミリグラム」に制限すれば、副作用や出生児への悪影響を避けられるとの見解を示している。
  ただ、日本の薬局では、ドリンクよりさらに大量に摂取しやすいカフェインの錠剤が置かれており、こちらも未成年を含めて誰でも簡単に入手できる。
エナジードリンクの表示には「カフェイン」の含有と適量の飲用のお願いが記されている(一部画像処理)

エナジードリンクの表示には「カフェイン」の含有と適量の飲用のお願いが記されている(一部画像処理)

 児童精神科医の岡琢哉氏は「カフェインを過剰摂取する10代には、勉強よりも、ゲームにのめり込むためという動機が目立つ。集中力を高める効果があるので、不注意の特性が強い子ほど逆に依存してしまう。自由な時間が少なければ、カフェインを過剰に摂取しやすい傾向もある」と警告する。

◆2011年度からの5年で101人が救急搬送

 過剰摂取に陥ってしまえばどうなるのか。厚労省によると、めまいや吐き気、興奮、不安、震え、不眠症などの健康被害を及ぼす。死に至るケースまであり、日本中毒学会によれば、2011年度からの5年間に少なくとも101人が救急搬送され、うち3人が亡くなった。
 覚醒効果と裏腹のリスクを抱えるカフェインだが、健康への悪影響が大きいとされる子どもたちが摂取する機会は少なくない。

◆中高生男子の1割強が「1週間に1本以上は飲む」

 日本体育大の野井真吾教授(学校保健学)によると、10~18歳の約6千人を対象とした2018~19年のエナジードリンクに関する調査で、小学生男子の45.5%、高校生男子の67.6%が「飲んだことがある」と回答。中高生男子の1割強が「1週間に1本以上は飲む」と習慣化しており、こうした生徒は「夜中に目が覚めやすい」「何もしたくない」といった状況に陥る傾向があると判明した。
 大人も子どもも依存してしまう恐れはある。岡氏は付き合い方をこう提唱する。「もとは、カフェインを含むお茶やコーヒーはどこの文化圏でも、ぜいたくを楽しむ『嗜好(しこう)』だったのに、カフェイン自体をたやすく摂取できる現代では、楽しみを通り越して、依存を意味する『嗜癖(しへき)』になってしまっている。嗜好品として楽しむものと意識を戻したほうがいい」