経済安保法案 治安強化の後ろ盾さらに(2024年4月11日『信濃毎日新聞』-「社説」)

 特定秘密保護法共謀罪法、土地利用規制法…。公安警察の後ろ盾となる治安法が、安倍政権以降、次々とつくられてきた。

 経済安全保障の名の下、秘密法制を拡大する新法によって、その権限が一段と強化されようとしている。市民への監視や情報収集が歯止めなく広がり、民主主義の土台を掘り崩す危うさに目を向けなければならない。

 機密保全の対象を産業・経済の分野に広げる重要経済安保情報保護・活用法案である。踏み込んだ議論がないまま、与野党の賛成多数で衆院を通過した。

 漏えいすると国の安全保障に支障がある情報を機密に指定し、保全を図る。加えて、安全保障に著しい支障がある情報は特定秘密とし、秘密法による保護の範囲そのものを拡大する制度改定だ。

 それに伴って、機密を扱う資格を審査するセキュリティー・クリアランス(適性評価)も間口が大きく広がる。これまでは秘密法の下で公務員が主な対象だったが、新法により、民間企業の技術者、研究機関や大学の研究者らが幅広く対象になる。

 犯罪歴、飲酒、借金、精神疾患など機微な個人情報が洗い出されるだけではない。調査事項を列記した条文に「我が国及び国民の安全を著しく害し、又は害するおそれ」といった文言があるのを見過ごすわけにいかない。

 国家機密を保全する制度の性質から、個人の思想や信条に踏み込んだ調査につながる恐れがある。いったい何が調べられ、集めた個人情報がどう扱われているかを確かめるすべはない。

 公安当局による秘密裏の監視や情報収集にお墨付きを与えるようなものだ。調査は首相の下に設ける機関が担う。対象者が大幅に広がり、個人情報が一元的に集約されることで、市民の監視に結びつく危険はさらに強まる。

 新法は秘密法と同様、機密の漏えいに刑事罰を科し、教唆や共謀も処罰の対象にする。具体的に何が機密にあたるかは、法の成立後に運用基準で定めるという。刑罰法規が備えるべき明確性を欠き、恣意(しい)的な運用を防げない。

 そのこと自体、公安当局による情報収集や監視と表裏一体だ。市民の言動に当局が目を光らす社会は、人々を縮こまらせ、言論や思想の統制につながる。

 法案は衆院で、機密指定や適性評価の運用を国会が監視する修正がなされたが、根本にある危うさは拭えていない。廃案を視野に、参院で徹底した審議が要る。