「食べることは生きること」(2024年4月11日『新潟日報』-「日報抄」)

 「食べることは生きること」と言われる。近代俳句の道を切り開いた正岡子規の晩年は、この言葉を体現していた。結核性の脊椎カリエスに侵され起き上がることもままならない中、肉や魚を含め、とにかくよく食べた

 

ベースボールを「野球」と名付けたのはなんと歌人・正岡子規

▼食べることで、病魔と闘う体力と気力を養っていた。朝昼晩に粥(かゆ)やごはんを椀(わん)に3杯以上、各種のおかずを平らげた。その合間には菓子パンやせんべいも食べた。食事は日々の楽しみであると同時に、闘病そのものだったのだろう。食事の記録からは鬼気迫るものが漂う

▼子規は家計についての記述も残している。1897年の手紙を基に正岡家のエンゲル係数を計算すると61・84%だった。いまの常識からすれば、相当高い水準だ。(土井中照「大食らい子規と明治」

▼現在に比べ当時の社会は家計のゆとりが少なく、平均は65%前後だったという。ただ子規は床の中でも仕事に励み、それなりの収入があったようだ。その中でこうした数字になるのだから、やはり食費に相当支出したのだろう

総務省によると昨年のエンゲル係数は27・8%だった。基になるデータが異なるから子規の時代とは単純比較はできないが、明治の頃よりは生活水準が向上しているといえる

▼一方で、近年は上昇傾向にある。昨年は1・2ポイントも急上昇し、40年ぶりの高水準だった。単身世帯の増加なども背景にあるようだが、食品の値上がりが大きな要因なのは間違いない。食べることは生きること。とはいえ、生きていくのも楽ではない。