【防衛装備品輸出】国会関与の仕組みが必要(2024年4月9日『高知新聞』-「社説」)


防衛装備品の輸出「国主導」で推進、国家安保戦略に明記へ

 

 安全保障政策の転換で、平和国家のありようが変容している。政府は殺傷能力のある武器を含めた防衛装備品の輸出拡大を狙う。しかし、国民への説明や議論は乏しい。国会が関与してチェックする仕組みを構築する必要がある。
 日本は武器輸出を事実上禁止してきたが、2014年に防衛装備品の輸出ルールを定めた防衛装備移転三原則を制定して禁輸政策を転換した。昨年末には、外国企業の許可を得て製造するライセンス生産品の輸出を解禁した。
 これを受けて、米国企業のライセンスに基づき日本で生産する地対空誘導弾パトリオットが米国に提供される。殺傷能力がある武器の輸出を決めたのは初めてだ。
 政府はさらに、殺傷能力が高い戦闘機の輸出に踏み切る。英国、イタリアと共同開発する次期戦闘機の第三国輸出の解禁を閣議決定した。
 生産機数を増やして調達価格を抑えるため、英伊が解禁を求めていた。日本も対等な立場で協議する環境をつくり、必要とする性能を実現したい思惑が指摘される。
 岸田文雄首相は、「平和国家の基本理念を引き続き堅持する」と繰り返してきた。そのために厳格な手続きを経ると主張する。
 確かに、今回は対象を次期戦闘機に限定した。輸出先は日本と「防衛装備品・技術移転協定」を結んだ国に限定し、実際に輸出する場合は個別案件ごとに審査し閣議決定する。また、現に戦闘が行われている国には輸出しないとした。
 だが、こうした制約も実効性が疑問視される。個別案件の輸出決定は政府、与党の協議にとどまる。輸出対象の国は、新たに協定を結べば増える可能性がある。戦闘が行われていない国という条件があっても、将来的に戦闘国となる可能性は否定できない。
 それにもかかわらず、国会が関与する仕組みがなく、歯止め策は明確にならない。制限緩和への圧力が強まりかねず、対象が一段と拡大する恐れがある。
 第三国輸出について、世論調査では同盟国や友好国などに限定して容認する判断がやや上回るが、一切認めるべきではないとの意見も次いで多い。国際紛争の助長を避けようとする意思は相当強い。その一方で、首相が理解を求めるために説明を尽くしたとは思えない。
 首相はきのう米国へ出発した。バイデン大統領と会談する。
 防衛装備品の共同開発や生産に向けた協議体の新設で合意し、装備品の対象など具体的な協議に入る方向だ。陸海空3自衛隊在日米軍の指揮系統見直しなど、防衛協力の強化を打ち出すとみられる。
 安全保障環境が厳しさを増す中、岸田政権は反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有を打ち出し、持たないとした従来方針を転換した。日米同盟の深化が図られ、専守防衛の理念は形骸化が進む。国民への説明をないがしろにするようでは、理解は深まらずに分断が進んでしまう。