飯塚車いすテニス 「共生社会」定着への40年(2024年4月9日『西日本新聞』-「社説」)

 飯塚国際車いすテニス大会が、きょうから14日まで福岡県飯塚市で開かれる。第40回の節目を迎えた。

 この間、たくさんの市民が競技運営を支える「イイヅカ方式」は高く評価され、世界四大大会に次ぐスーパーシリーズとなった。優勝者には天皇杯皇后杯が贈られる。大会は地域の誇りである。

 ぜひ会場に足を運び、世界のトップ選手が繰り広げる熱戦と、大会に寄せる市民の熱意をじかに感じてほしい。

 今大会は8月に開幕するパリ・パラリンピックの前哨戦として注目を集める。

 金メダルの期待が大きいのは、昨年の男子シングルスを最年少の16歳で制した小田凱人(ときと)選手だ。1月の全豪オープンで初優勝し、昨年の全仏オープンウィンブルドン選手権に続き四大大会3勝目を挙げた。引退した国枝慎吾さんの後継者は「格好いい、を示していきたい」と意気込む。

 2021年の東京パラ大会をきっかけに、パラスポーツに関心を持った人も多いだろう。車いすテニスは人気競技の一つで、新型コロナウイルス禍を経て4年ぶりに開催された昨年の飯塚大会は、過去最多となる約9千人の観客が詰めかけた。

 スピードと変化を織り交ぜたサーブやストローク、機敏で巧みな車いす操作(チェアワーク)は見応えがある。会場で日本人選手とともに海外勢の名前を覚えると、パリの戦いも一層楽しめそうだ。

 大会は共生社会実現へのスローガン「社会にラリー、心にスマッシュ」を掲げ、1985年に始まった。炭鉱事故などで脊髄を損傷した患者が多かった飯塚市に専門医療施設が開設され、リハビリの一環で車いすテニスが盛んになった経緯がある。

 リハビリからアジア最高峰の大会への発展は、市民ボランティア抜きに語れない。

 選手の送迎、通訳、コートのボールパーソンなどに延べ2千人のボランティアが携わる。企業や団体だけでなく、個人からの協賛金、街頭募金への協力も活発だ。

 大会関係者は学校で大会を紹介する出前授業を重ね、イベントなどで車いすに触れる機会をつくる。こうした努力があって、車いすテニス大会の意義は市民に定着した。学生を含むボランティアを安定して確保するためにも継続する必要がある。

 海外選手には「日本=イイヅカ」が浸透している。選手と観客の距離が近く、会場の一体感が魅力だという。選手たちの賛辞は地元の励みになっている。

 選手や車いすで観戦に訪れる人が飲食や観光を楽しめるように、関係施設のバリアフリー化は今後も進めたい。その取り組みは市民にも利便をもたらす。

 障害の有無にかかわらず暮らしやすいまちづくりに、大会が果たす役割は大きい。開催50年へ向け、大会と地域の共生をさらに深めたい。