少子化(子育て支援金)に関する社説・コラム(2024年4月8日)

アジアの少子化 課題解決へ英知集めて(2024年4月8日『東京新聞』-「社説」)
 
 女性1人が生涯に産む子どもの推定人数「合計特殊出生率」がアジア各地で過去最低を記録している。この状況が続けば人口維持は厳しさを増す。各国・地域が危機感を共有し、有効な対策を講じるために知恵を集めてほしい。
 アジアの出生率は、韓国が2023年に0・72と世界最低水準にまで落ち込み、シンガポールも初めて1を割り0・97となった。台湾、香港も下げ止まらない。
 かつてアジアの「四小龍(スーシャオロン)」と呼ばれ、1990年代までに急成長を成し遂げた四つの経済地域は子どもの急減にもがいている。
 日本の状況も深刻で2022年は1・26。経済成長を果たした中国は1・09と推計され、16年に1786万人だった出生数は23年には902万人と半減した。世界銀行の統計によると、212カ国・地域のワースト15以内に四小龍と中国、日本が含まれる。
 出生数の急減は新型コロナ禍で婚姻数が減ったことが一因だが、若い世代の経済格差拡大、教育費・住宅費の高騰、働く女性が家庭との両立に苦しむジェンダー格差も背景にある。経済的に豊かになったことで価値観が多様化し、晩婚化が進んだことも要因だ。
 儒教的観念が根強く、婚外出産は極めて少ないという、アジア特有の事情も共通している。
 少子高齢化が進めば労働人口は減り続ける。社会保障を支える現役世代の負担は増し、制度の維持が難しくなるという悪循環に陥るのは各国・地域共通の悩みだ。
 岸田文雄首相は30年までが最後の反転の機会として「次元の異なる少子化対策」を打ち出す。韓国でも大統領直轄機関が21年までに計31兆円をつぎ込んだが、実効性に乏しいのが実情だ。
 一方、国連人口基金のカネム事務局長は「不平等こそが課題」として、出生率に注目することは改めるべきだと指摘する。若者たちが安心して子どもを産み育てられる社会環境づくりを最優先すべきだとの警鐘と受け止めたい。
 まずはアジア各国・地域の社会構造と意識の転換が必要だ。若者らの安定した雇用、男女の賃金格差の解消、不平等な慣習を改めるなど取り組むべき課題は多い。
 日中韓の専門家による情報共有と解決に向けた議論も始まった。国や地域の壁を越えて危機感を共有し、英知を集めることこそが、課題解決への唯一の道であろう。
 

少子化対策法案 国民負担、逃げずに議論を(2024年4月8日『中国新聞』-「社説」)

 子育て世帯への経済支援策を柱とした少子化対策関連法案が国会で審議入りした。

 政府は「2030年までが少子化を反転させるラストチャンス」とする。3年間で集中的に対策を進め、財源として28年度までに年3兆6千億円の確保を目指す法案だ。

 児童手当は所得制限を撤廃して高校生の年代まで支給を広げ、親の就労を問わずに保育を利用できる「こども誰でも通園制度」を全国で始めるなど対策はあの手この手だ。子育てを終えた人や高齢者を含め幅広く国民に負担増を求めるだけに、意義を社会で共有できる論戦にすべきだ。

 最大の懸念は、財源確保策として創設する「子ども・子育て支援金」制度である。

 公的医療保険料に上乗せし、新たに徴収する。しかし岸田文雄首相は、法案提出後も変わらず「国民の実質的な追加負担は生じない」との説明を続ける。医療や介護費の歳出改革で保険料の伸びを抑えるという理屈のようだ。

 分かりにくいし、正面切って国民に説明する姿勢に欠ける。そもそも社会保障費の削減策を決めない時点で現実的ではない。高齢者の自己負担を一部増やす案はたなざらしで、今後さらに医療や介護のニーズが増えるのは確実だ。答弁を野党が「ごまかし」と批判するのはもっともだ。

 その点を気にしたのか首相は審議入りに際し、徴収額を給与明細などに記載するよう事業主側に促すと口にした。ただシステム改修が必要であり、企業には新たな負担になる。現実的には難しい。

 何より個々の負担額をいまだ提示していないのが理解できない。政府は先月下旬、ようやく医療保険別の試算を公表した。被保険者1人当たり平均月額は28年度で350~950円という。所得や共働きかどうかなどで異なるが、モデルケースの提示は困難とした。挙げ句、加藤鮎子こども政策担当相が、月額で医療保険料の4~5%が目安として、国民が自分で計算できると説明したのには驚く。

 若い世代にさらなる保険料負担を求めるのは妥当か。なぜ税の徴収ではないのか。疑念は山積みで、制度設計の再考が必要だろう。議論を深めるには、政府による誠実で透明性ある説明が欠かせない。逃げた答弁を続けることで、肝心な施策の論戦がおろそかになってはならない。

 子育て世代への予算を手厚くすることに異論はないが、単なる家計支援では、ばらまきに陥る。政府は施策の根拠や効果を明示すべきだ。少子化対策はこれまで30年以上続けてきたが、出生数が年80万人を切る現状を招いた。検証が必要である。

 子どもがいる家庭への支援に偏る点も気がかりだ。例えば未婚者向けの対策が不足していることだ。若い世代には雇用や所得の不安から結婚や出産を諦める風潮が広がる。格差の解消を含めて社会の構造を変え、希望を持てる方向に向かわなければ出生率を好転させるのは難しい。

 国の将来や社会制度を左右する重要な課題である。まっとうな議論を求めたい。

 

子育て支援金】負担の議論を避けるな(2024年4月8日『高知新聞』-「社説」)

  
 児童手当の拡充や育児休業給付の引き上げなど経済的支援を柱とする少子化対策関連法案が、国会で審議入りし、議論が本格化した。
 最大の焦点は、2026年4月に創設される「子ども・子育て支援金」だ。公的医療保険料に上乗せして国民から徴収する。段階的に引き上げ、28年度には総額1兆円を見込む。今後3年間の少子化対策に必要となる、年最大3兆6千億円の財源の一部に充てる。
 社会保障の歳出削減で「実質的な負担は生じない」と、政府は繰り返している。しかし、その説明を疑問視する声は多い。率直で丁寧な説明が欠かせない。
 政府は2月、1人当たりの徴収額が28年度には月平均500円弱になるとの試算を示した。だが、これには支援金を払わない子どもらも含まれていた。審議入り直前の先月末になってようやく、医療保険別の試算を公表した。
 試算によると、実際に支援金を払う被保険者の負担額が最も大きいのは、共済組合の公務員らで28年度に1人当たり950円。健康保険組合に加入する大企業の会社員が850円で、全国健康保険協会協会けんぽ)に入る中小企業の会社員が700円と続く。最も低いのは75歳以上の人で350円になるという。
 負担をイメージしやすくはなったが、実際の徴収額は共働きかどうかや所得で異なる。試算は平均月額にとどまり、一人一人がどの程度の負担となるか具体的に示さなかった。
 政府は、社会全体で少子化対策を実施するとの理念を掲げている。だが、負担をどう分かち合うのか、現実的な金額を示さなければ、議論は深まらず、国民の理解を得ることは難しい。
 不可解なのは、歳出改革で医療や介護などの社会保険料を抑制し、賃上げが進めば、実質負担がゼロになるという政府の主張だ。高齢化で社会保障費が膨らむ中、減額は簡単ではない。賃上げについても、企業によって大きな差がある。改革の実現は見通せず、主張には無理がある。
 本社加盟の日本世論調査会が1~3月に行った調査では、支援金に「どちらかといえば」を含め反対が計58%、岸田文雄首相の説明に「納得できない」と「あまりできない」は計81%だった。多くの人が疑問を持っていることは明らかだ。同じ説明を繰り返すのならば、不信感はさらに強まるだろう。
 負担の議論を避ける一方で、政府は給付の試算を示し、支援金創設の意義を強調する。子どもが生まれてから18歳になる年代までに通算で受けられる児童手当やサービス費の総額は、1人当たり平均146万円で、支援金の負担を上回るとする。メリットの大きさを訴え、負担を小さく見せる狙いもうかがわれる。
 赤ちゃんの生まれた数は22年に初めて80万人を割り、23年は一段と減った。少子化は長年の政策課題であり、対策強化が必要なことには間違いない。正面から負担と給付のあり方を説明し、理解を求めるべきだ。

 

子ども子育て支援(2024年4月8日『しんぶん赤旗』-「主張」)

 

権利保障抜きにはすすまない
 子どもや子育て支援に求められることは何かを考えるとき、国会で審議中の子ども・子育て支援法改定案には問題があると言わざるを得ません。「少子化」を招いたこれまでの政策への反省も、理念も、まともな財源の手当てもないからです。

 法案は「こども未来戦略〈加速化プラン〉」として、2028年度までに▽児童手当の拡充▽妊婦への10万円支給―などをすすめるとします。児童手当の所得制限撤廃は、「子どもは社会が育てる」という理念に照らして評価できるもので、要求運動の成果です。

■限定的かつ負担増
 しかし、「異次元の少子化対策」を掲げながら、本格的な施策は児童手当の拡充だけです。国による学校給食や保育料の無償化も、高等教育無償化や奨学金返済の負担軽減の本格的取り組みもありません。極めて限定的です。一方で、3・6兆円の財源は国民の負担増で賄おうとしています。

 一つは、公的医療保険に上乗せして新たに国民から徴収する「支援金」です。支援を拡充しようとすれば保険料を上げざるを得ない、その範囲内でしか拡充されないとなりかねません。

 また、負担額は加入する保険で異なるため、収入の少ない人が多い人より負担が増えることが起こります。75歳以上の後期高齢者や今でも負担が重い市町村国保は、現在の保険料に対する負担増額の比率が高く、逆進性が強まります。

 もう一つの財源確保策は社会保障削減です。3・6兆円のうち1・1兆円を「歳出改革」で生み出すとします。介護・医療の自己負担3割の拡大、要介護1・2の生活援助見直し、国保料引き上げ圧力の強化―などが含まれます。このほかインボイスによる消費税収も当て込みます。

 政府は“社会保障が高齢者に偏っている”と世代間対立をあおり、医療・介護の削減をすすめています。しかし、高齢者の負担を増やしサービスを削減することは、親を支える子ども世代の負担に直結するうえ、若者を含めて現役世代の将来不安を広げます。

 負担増・社会保障削減が前提の「子育て支援」では国民は期待を持てません。

■将来不安をなくせ
 なぜそうなるかと言えば大軍拡と大企業優遇は温存という姿勢だからです。

 日本共産党高橋千鶴子議員の衆院特別委員会(3月13日)での追及に政府が認めたように、他の分野でやりくりした財源は子育て支援でなく「防衛力強化」に充てられます。社会保障削減で生み出すという1・1兆円は今年度の軍事費増額分と同じです。軍拡でなく暮らしに使うべきです。

 少子化という国の存続に関わる課題なら、抜本的支援のために税制を変え大企業・富裕層に応分の負担を求めることも不可欠です。

 “少子化で経済が大変だから子どもを増やせ”ではなく、暮らしを支え、将来に希望が持てる生活を権利として保障する政治・経済・社会への転換が必要です。非正規雇用長時間労働、低賃金をなくす、女性差別のないジェンダー平等社会にする、教育費の負担を減らす―政治がつくり出してきた若者の生活不安・将来不安を解消すること抜きには「少子化対策」をうたっても前にはすすみません。