子育て支援金 「国民負担」の全容を示せ(2024年3月7日『西日本新聞』-「社説」)

 厚生労働省が先週発表した2023年の出生数は75万8631人で、過去最少を更新した。8年連続の減少だ。

 想定より10年以上早く進む少子化のペースに、政府の対策が追いついていない。岸田文雄首相が「異次元」と称する新たな対策も心もとない。財源確保の道筋がいつまでたっても見えないからだ。

 国会で少子化対策関連法案の審議が始まった。児童手当や育児休業給付を拡充し、親の就労にかかわらず子どもを預けられる「こども誰でも通園制度」を新設する。

 子育て支援をはじめ、関連する対策には年3兆6千億円の予算が必要になる。肝心の財源は法案が提出されてもなお曖昧さが残ったままだ。

 特に議論になっているのは26年度に新設する「子ども・子育て支援金」だ。公的医療保険料に上乗せして国民や企業から徴収する。段階的に増額し、28年度に1兆円を確保するという。

 政府は28年度の1人当たりの徴収額を月平均500円弱と説明してきた。加藤鮎子こども政策担当相は衆院予算委員会で、千円を超える場合もあり得ると答弁している。

 加入する医療保険や所得によって徴収額は当然異なる。国民はその全体像が知りたいのに、政府ははっきり示そうとしない。

 社会全体で子育てを支援するため、幅広い世代で費用負担を分かち合う発想は理解できる。子育てに関わらない人からも賛同を得るには制度の詳細な説明が不可欠だ。

 この財源問題を一層分かりにくくしているのが首相の発言である。社会保障費の歳出改革と賃上げで「国民に実質的負担は生じない」と繰り返し述べている。

 社会保障費を削減すれば、国民の社会保険料を抑えられる。さらに賃上げで所得が増えれば、医療保険料の上乗せ負担分は相殺される、という理屈だ。どれだけの国民が理解できるだろうか。与党内からも「分かりにくい」と批判的な声が出ている。

 社会保障費の歳出改革は、介護保険分野の先送りが決まったばかりで実行可能性に疑問符が付く。賃上げは雇用者が決めることであり、医療保険料を負担する全ての人が対象にならない。

 負担増の議論を最初から避けた首相は不誠実である。国民に協力を求めるなら、無理な理屈でごまかさずに正面から語るべきだ。

 仮に当て込んだ財源を確保できなければ、借金に頼らざるを得ない。子育て支援の借金返済を子どもたちに回すとは、笑えないシナリオだ。

 23年の婚姻数は90年ぶりに50万組を下回った。経済的な理由で結婚や子育てを諦める人が少なくない。

 少子化対策子育て支援に偏らず、若い人の雇用や暮らしを支援することが重要だ。子どもを持つ希望が持てるように、実効性のある対策を急がなくてはならない。

 

沖縄タイムス