おコメの国のおにぎり文化(2024年4月8日『産経新聞』-「産経抄」)

 
人気の「卵黄しょうゆ漬けと肉そぼろ」(550円)。具材はぎっしり、ご飯はほろほろ、ほどけるよう=東京・新宿の「おにぎりまんま」(酒巻俊介撮影)

スシにカラオケ、マンガ、ボンサイ。海外でそのまま通じる日本語は多い。最近は、和食人気で食に関する言葉が増えているそうだ。オックスフォード英語辞典(電子版)に「onigiri(おにぎり)」が追加されたという。

▼そういえば世相を表す昨年の「一皿」は「ご馳走(ちそう)おにぎり」だった。携帯食の筆頭ともいえるおにぎりがごちそうとはいかに。物価高にあえぐ庶民の小さなぜいたくだろうか。こんなニュースが目に留まった。

▼小麦価格の高騰で食のトレンドがパンからおにぎりへとシフトしているという。コメの国でのコメ復権、といったところだろう。元来、コメ不足にコメ余りとその過少過多は日本人の生活を左右してきた。冷夏と長雨で小売店の店頭からコメが姿を消した平成5年の「米騒動」はいまだ記憶に新しい。

▼おにぎり人気の背景にはコンビニエンスストアでの普及、しのぎを削る商品開発、専門店の躍進もあるだろう。専用器具など大きな初期投資もいらず、作るのにさしたる技術も必要ない。日本食を代表する存在に成長したのもうなずける。

▼ならば、やはり〝文化〟は受け継いでいってほしい。古くは奈良時代の「常陸国風土記」に「握飯」という言葉があるそうだ。歴史はかくも古いのである。載せてよし、包んでよし、包まれてよし。私見だが、その魅力は簡便さとごちそうにも非常食にもなる汎用(はんよう)性だ。

▼かつて阪神大震災でボランティアが詠んだ歌が心に残る。「避難所に今日とどけむと掌(てのひら)の色変るまでおむすび握る」(歌集『瓦礫(がれき)の街から』)。おにぎり、おむすび、握り飯。先の能登半島地震でも、そのぬくもりをかみしめた人は少なくないだろう。ただ塩で握っただけのコメの奥深さよ。