天橋立「股のぞき」中、知人を15m転落させた男性の「罪」 悪ふざけと犯罪の境界線(2024年4月7日『産経新聞』)

今年2月、日本三景の一つ、天橋立京都府宮津市)を望む公園の展望台で、観光に訪れていた男性が高さ約15メートル下の斜面に転落した。原因は一緒に訪れていた知人の悪ふざけ。下半身を押され転落した男性は骨折などの重傷を負ったが、幸い命に別条はなかった。冗談のつもりから男性を転落させてしまった知人だったが、刑事責任を問われる可能性はあるのだろうか。

【写真】男性は防護用ネットを乗り越えて転落。ネットの先は転落の影響で曲がった

■落下防止のネット超え転落 2月15日午後2時ごろ、50代の男性は同僚ら約10人とバスツアーで天橋立傘松公園を訪れていた。海抜約130メートルにある公園の展望台からは天橋立を一望でき、股の間から逆さに見ることで龍が天に舞い上がるように見えるという「股のぞき」は名物となっている。 例にならい男性も股のぞきを試みた。

するとその時、50代の知人男性が近づき、背後から右手で下半身を押した。はずみで体勢を崩した男性は斜面を転がり落ちると、落下防止のネットを越え、そのまま高さ約15メートル下まで転落してしまった。

施設関係者によると、突き落とした知人男性は急いで斜面を降り、転落した男性の元へ向かった。服は泥だらけになり、不安そうな表情を浮かべていたという。

転落した男性は意識はあったものの「胸が痛い」と訴えた。

通報から約1時間半後、消防隊員らが救助用の担架とロープを使い、斜面から引き上げて搬送した。 京都府宮津署によると、突き落とした男性は「悪ふざけで押した」。転落した男性は命に別条はなく、事故後も会話ができていたが、骨折していたことが分かった。同署は負傷男性の回復を待って事情を聴く方針で、事故の状況を捜査したり男性の処罰感情などを踏まえたりして、立件の可否を検討するとした。

■落とし穴で死亡した事件も

過去にはこんなケースもあった。平成23年、石川県かほく市の海岸。いずれも23歳の夫婦が友人が掘った落とし穴に転落し、窒息死した。落とし穴を作ったのは、妻と、その6人の友人だった。

夫の誕生日を祝う目的で約4時間かけ、砂浜に深さ2メートル以上の落とし穴を掘ったという。 石川県警は関係者への事情聴取や人形を使った実況見分を重ね、捜査を継続。友人らが穴を掘る際に「パラパラと穴の砂が崩れて危ないと思った」と説明したことや結果の大きさを鑑(かんが)み、立件が可能と判断した県警は重過失致死と海岸法違反の疑いで友人6人と死亡した妻を書類送検した。

悪ふざけか犯罪か。近畿大法学部の辻本典央教授(刑事法)は「結果の重大性と被害者の感情が重要になる」と説明する。例え悪ふざけであったとしても、結果として死亡させたり回復不能なけがをさせたりした場合、被害感情がなくても刑事処分を受ける可能性は否定できないという。

■今回の場合は…

一方で、今回の天橋立での事故は「骨折という回復可能な結果であることや、知人同士という間柄から話し合いで決着がつく可能性がある」(辻本氏)。このまま被害届の提出がなければ、刑事事件に発展する可能性は低いとみた。

「謝って済むなら警察はいらない」との言葉がある。刑事事件にならなくとも、治療費などを請求されたり、人間関係が壊れたりするケースは十分に想像できる。あまりにも安易なその場の「ノリ」の代償は、決して小さくないのだ。(木下倫太朗)

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