「手錠かけたまま出産」法務省が改めて禁止 そもそも出産前後の女性を受刑させておくのは人権上どうなのか(2024年3月27日『東京新聞』)

 
 女性受刑者が出産する時は手錠を外すという国の通知に反し、手錠をかけたままのケースが起きていた問題を東京新聞こちら特報部」は2月に報じた。法務省は今月に入って新たな通知を出し、出産時の手錠使用を改めて禁じた上で、出産のために刑事施設から医療機関へ護送する間なども使用を控えることを全国の刑事施設に求めた。出産する受刑者の処遇は改善されていくだろうか。(森本智之)

◆出産直前も「控える」となったのは改善だが

 22日の参院法務委員会。法務省の花村博文矯正局長は社民党福島瑞穂氏の質問に対し、18日付で新しい通知を出したことを明らかにした。
 
参院法務委員会で22日、答弁する花村博文矯正局長=参議院インターネット審議中継より

参院法務委員会で22日、答弁する花村博文矯正局長=参議院インターネット審議中継より

 2014、22年の通知では、出産のため分娩(ぶんべん)室などに入室している間は「手錠を使用してはならない」とし、出産後に授乳などで子どもと接している間は「使用を控える」としていた。今回は病院への護送中や分娩室に入るまでの間も「使用を控える」になった。手錠を使用しない期間が、出産中や出産直後に加え、出産の直前まで拡大されたことになる。

◆「国際ルールの趣旨を考慮した」

 花村氏は「(国際基準の)マンデラ・ルールズ、バンコク・ルールズでは拘束具を分娩中の女性などについて使用してはならない旨規定している。今般の通知は、その趣旨を考慮した」と説明した。
 出産時の手錠使用を巡っては、2月8日の衆院予算委員会で、従来の通知に反して、手錠をかけられたまま出産したケースが14~22年に6件あったことを小泉龍司法相が明らかにしていた。
 この問題を指摘してきた国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」(HRW)の笠井哲平氏は「法務省が国際基準を参考に、通知の対象を拡大したことは評価できる。バンコク・ルールズでは婦人科検診時も手錠を使用しないよう求めており、さらに拡大すべきだ」と述べた。

◆「刑の執行停止」規定はあるのに…

 一方で「そもそも妊娠中、出産時、そして出産直後の女性を受刑させておくのが人権上適切なのか考える必要がある」とも問題提起する。
 刑事訴訟法では、受刑者が病気や高齢の場合のほか、妊娠や子育てなどの際に、検察官の判断で刑の執行を停止できる規定がある。具体的には、受胎後150日以上▽出産後60日を経過しない▽子や孫が幼年で他にこれを保護する親族がいない―などの場合だ。
 
 しかし、法務省の統計では18~22年に刑を執行停止した女性受刑者は11人だけだったという。笠井氏は「11人の執行停止の理由は分からないが、数は少ない。積極的に活用するべきだ」と提言する。

◆「刑務所内で子育て」制度も活用されていない

 女性受刑者の子育てについては、刑事被収容者処遇法で、刑務所長の許可があれば刑務所内で最長1年6カ月子どもを養育できるとの規定もある。だが、法務省矯正局によると、19年から5年で約60件の出産があったが、申請はゼロ。こちらも制度はあるのに、利用されていない実態が浮かぶ。この問題は3月22日の参院法務委員会でも取り上げられ、福島氏は「もっと告知や、丁寧な説明をしてほしい」などと訴えた。
 一般社団法人「刑事司法未来」の代表理事で立正大の石塚伸一客員教授(刑事政策)は、手錠禁止の対象を拡大した今回の通知についてこう見解を述べる。「母子の保護を考えれば、出産する女性受刑者に対しては、本来は刑の執行停止を検討するべきだ。実際に使えるルールはあるのに、ほとんど利用されていないのは、現場が消極的だから。『何かあったらどうしよう』と事なかれ主義に陥るのではなく、執行停止なら検察官、刑事施設内での養育なら刑務所長が勇気を持って適切に判断するべきだ」