◆出産直前も「控える」となったのは改善だが
2014、22年の通知では、出産のため分娩(ぶんべん)室などに入室している間は「手錠を使用してはならない」とし、出産後に授乳などで子どもと接している間は「使用を控える」としていた。今回は病院への護送中や分娩室に入るまでの間も「使用を控える」になった。手錠を使用しない期間が、出産中や出産直後に加え、出産の直前まで拡大されたことになる。
◆「国際ルールの趣旨を考慮した」
この問題を指摘してきた国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」(HRW)の笠井哲平氏は「法務省が国際基準を参考に、通知の対象を拡大したことは評価できる。バンコク・ルールズでは婦人科検診時も手錠を使用しないよう求めており、さらに拡大すべきだ」と述べた。
◆「刑の執行停止」規定はあるのに…
一方で「そもそも妊娠中、出産時、そして出産直後の女性を受刑させておくのが人権上適切なのか考える必要がある」とも問題提起する。
刑事訴訟法では、受刑者が病気や高齢の場合のほか、妊娠や子育てなどの際に、検察官の判断で刑の執行を停止できる規定がある。具体的には、受胎後150日以上▽出産後60日を経過しない▽子や孫が幼年で他にこれを保護する親族がいない―などの場合だ。
しかし、法務省の統計では18~22年に刑を執行停止した女性受刑者は11人だけだったという。笠井氏は「11人の執行停止の理由は分からないが、数は少ない。積極的に活用するべきだ」と提言する。
◆「刑務所内で子育て」制度も活用されていない
女性受刑者の子育てについては、刑事被収容者処遇法で、刑務所長の許可があれば刑務所内で最長1年6カ月子どもを養育できるとの規定もある。だが、法務省矯正局によると、19年から5年で約60件の出産があったが、申請はゼロ。こちらも制度はあるのに、利用されていない実態が浮かぶ。この問題は3月22日の参院法務委員会でも取り上げられ、福島氏は「もっと告知や、丁寧な説明をしてほしい」などと訴えた。
一般社団法人「刑事司法未来」の代表理事で立正大の石塚伸一客員教授(刑事政策)は、手錠禁止の対象を拡大した今回の通知についてこう見解を述べる。「母子の保護を考えれば、出産する女性受刑者に対しては、本来は刑の執行停止を検討するべきだ。実際に使えるルールはあるのに、ほとんど利用されていないのは、現場が消極的だから。『何かあったらどうしよう』と事なかれ主義に陥るのではなく、執行停止なら検察官、刑事施設内での養育なら刑務所長が勇気を持って適切に判断するべきだ」
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