東北ユースオケ 被災地の花、根付かせたい(2024年4月7日『河北新報』-「社説」) 

 音楽家坂本龍一さんが昨年3月に亡くなってから、1年余りが経過した。他界の直前まで、音楽を通じて東日本大震災の被災地に思いを寄せ続けた坂本さん。まいた種の一つが岩手、宮城、福島の被災3県の子どもたちを集めて2014年に発足した一般社団法人東北ユースオーケストラ(TYO)だ。

 被災地に咲いた愛らしい花を、心の復興に向けしっかり根付かせるために、地域を挙げて光を当て続ける努力が求められよう。

 TYOは発足以来、坂本さんが代表・音楽監督を務めてきた。現在は3県出身の小学生から大学生まで75人の楽団員と、卒業団員16人の計91人で演奏活動を展開している。

 坂本さんの遺志を継ぎ、演奏を通じて被災地の心の復興を図り、震災の記憶風化を防ぐとともに、楽団員の中から世界レベルの音楽家輩出も目指す。

 個人での日常練習のほか、毎年8月から翌年3月まで10回程度、楽団員が一堂に会して合同練習会を開催。大震災のあった3月には岩手、宮城、福島の3県と東京で演奏会を開催するのが恒例だ。

 坂本さんの一周忌と重なった3月の演奏会は、「戦場のメリークリスマス」や「ラストエンペラー」など、坂本さんの代表曲を披露する追悼コンサートとして開催され、大勢の聴衆が追悼の音に耳を傾けた。

 10年以上にわたり活動を着実に積み重ねてはいるものの、楽団運営に必要な財政の状況が、震災の風化に伴い厳しさを増しているのも実情だ。

 楽団の23年4月期決算によると、収入約2755万円に対する支出は約3643万円で900万円近い赤字決算となった。24年4月期も、思ったように収益改善は図られそうにない見通し。

 要因に挙げられるのが、震災から13年が経過したことによる寄付金の減少。震災10年以降、特に個人からの寄付金が目減りし続けており、年間200万円ほどの水準にとどまる。

 大震災は、誇るべき古里の文化に大きな被害をもたらした。半面、新たな花を咲かせる契機にもなった。その一つであるTYOをしっかりと東北の地に根付かせ、活動継続を可能にするため、地域を挙げてのサポート体制の構築が求められよう。

 生前、坂本さんはTYOの活動を「楽しいお祭り」と例えた。「先祖の霊を思い、村の神様に感謝するお祭りと共に音楽は発展した。音を鳴らしてエネルギーを爆発させ、活力を得るから日常を頑張れる。この活動をずっと継続させたい」と。「Ars longa, vita brevis(芸術は長く、人生は短し)」。坂本さんが好んで口にしたラテン語の一節である。私たちも胸に刻み、何ができるか考えたい。