【震災13年】経験を語り継ぐのは “震災を知らない世代”(2024年3月10日『NHKニュース』)

東日本大震災

 

 

「私は被災者ではありません。ですが何年か後、何日か後に被災する1人かもしれません」

そう語りかけるのは、高校生の語り部です。

震災から13年。東日本大震災の経験をどう伝え続けていくかが各地で課題となるなか、震災の経験のない若い世代がいま動き始めています。

「来館者がゼロになるかも」伝承施設の危機感 

震災の翌年、2012年4月に宮城県名取市に開所した民間の伝承施設、「閖上の記憶」。

被災して解体された地元の中学校の備品や津波でねじ曲がったガードレールなどが展示されているほか、語り部津波で犠牲になった14人の中学生の震災直前の様子や命の大切さなどを伝えています。

施設によりますと、開所以来、個人をはじめ県外からの修学旅行やボランティア団体などが訪れ、ピーク時の2014年度には年間2万人近くが訪れたということです。

しかし、新型コロナウイルスの影響などで一時、客の受け入れを中止。

その後、再開しましたが、昨年度は5000人余りで今年度も2月末の時点で6500人ほどにとどまりコロナ前の水準には戻っていません。

施設ではSNSで発信するなどして来館を呼びかけていますが、修学旅行などの団体客を中心に来年度以降も大幅に増える見通しはなく、教訓をどう伝え続けていくか危機感を抱いています。

 

丹野祐子さん 「閖上の記憶」代表

施設の代表を務め、震災で中学1年生の息子を亡くした丹野祐子さんは「私たちがここで活動を続けているということを知らない方がまだたくさんいる。来館者が少なければ伝える機会も少なくなる。震災から時間がたつにつれて、あの日のことをみんなが忘れていくのが当たり前で、来館者がゼロになることはもしかしたらあすかもしれない」と話していました。

動き始めたのは、若い世代

こうして経験や教訓の伝承が課題となる中、震災を経験していない若い世代が被災した人に代わって語り継ぐ動きが出てきています。

岩手県釜石市の高校生で作る震災の伝承や防災活動に取り組む団体では、5年前から活動を行っていますが、震災当時の記憶が無い生徒や震災を経験していない生徒が毎年増えているということです。

 

板谷美空さん

活動に参加する高校2年生の板谷美空さんです。

震災当時は秋田県に住んでいましたが、先輩たちの活動を見て自分も教訓を伝えていきたいと語り部に挑戦することを決め、去年から準備を進めてきました。

震災を経験していない自分が伝えることができるか葛藤もありましたが、津波で妻が行方不明になった男性の経験を聞き取る中で、助かるために備える大切さを伝えようと考えました。

そして今月3日、釜石市のスタジアムで開かれたイベントで、経験を聞き取った男性が作成した「あなたも逃げて」と刻まれた津波の祈念碑の前で、初めて語り部として活動を行いました。

冒頭で「私は被災者ではありませんが何年か後、何日か後に被災する1人かもしれません。あなたもそうかもしれません」と発言し、防災について考えて欲しいと訴えました。

託された言葉を

そのうえで、話しを聞いた被災者たちから託された言葉として、「祈念碑の『あなた』は、今後災害が起こった時、逃げる私たちのことを指しています。10年以上たっても家族を亡くした被災者の後悔は消えずに心の奥底に根付いています。全員が生き残ってやっと幸せを感じることができるのです」と訴えました。

板谷さんに妻が震災で行方不明になった経験を伝えた男性は、「自分事として捉えて語ってくれたことに感謝している。直接、被災した人は年月の経過とともに少なくなっていくので、若い人たちにこれからも語り継いでいってほしい」と話していました。

板谷さんは「聞いた人たちから心に響いたと言ってもらえて、自分の語りが人に届くのだと実感することができた。これからも多くの方に話を聞き、語り部として成長していきたい」と話していました。

“評価する”6割に

被災地に住む人たちに行ったNHKのアンケートでも、震災を経験していない人たちが活動することを「とても評価する」と答えた人が27%、「ある程度評価する」が35%と、評価するという回答があわせて62%にのぼりました。

理由について複数回答で聞いたところ、
「震災の経験や教訓を未来に伝え続けていくことは意義があるから」が79%、
「今後被災地でも未経験者が増えていくから」が56%などとなりました。

1人1人にそれぞれの人生があった

静岡県出身の東北大学の2年生、堀口和泉さんです。

東日本大震災の被害の大きさや防災に関心を持ち、2022年に東北大学に進学しました。

1年生の時の授業で、震災で両親を亡くし語り部として活動している宮城県石巻市出身の高橋匡美さんと出会ったことをきっかけに、石巻市にある伝承活動のサポートを行う団体の協力でタカ橋さんの経験やことばを直接学び、代わりにみずから伝える語り継ぎの活動に取り組んでいます。

堀口さんは高橋さんの体験を聞く中で、それまで犠牲になった人たちについて、数字でしか捉えていませんでしたが、1人1人にそれぞれの人生があったことに改めて気付かされたといいます。

伝えることは絶対に役に立つ 

3月16日には高橋さんとともに講演に参加して、語り継ぎを行う予定で、それに向けて準備を進めています。

地元の静岡も南海トラフの巨大地震で大きな被害が想定されていて、被災地だけでなく地元でも震災を経験していないからこそ同じ世代の人たちに命を守る大切さを伝え続けたいと考えています。

堀口さんは、「経験した人が語り続けるのは年齢などもあり難しいと思うが、大切な経験を伝えることは今後の震災で絶対に役に立つと思う。つらい経験を『つらかったね』で終わらせるのではなくて、日本に住む以上、震災は繰り返されると思うのでこういう話を思い出して、早く逃げようとか、深刻な被害にならないような助けにつなげたい」と話していました。

引き継がれる安心感

また、自身の経験が語り継がれる高橋さんは、「私が話すということは、両親が生きていた証しだと捉えていて、私が話せなくなってしまったら終わってしまう。それが引き継がれることですごく安心感を覚えている。語り継いで伝えていくことはとても大事だと思うので、どんな形でも伝え続けてもらえるのはとてもうれしいことだ」と話していました。