「静かすぎる能登」 ボランティアまだ1万人、復旧遅れで受け入れ進まず(2024年3月30日)

産経新聞

能登半島地震の発生からまもなく3カ月を迎える中、被災地で活動したボランティアは延べ約1万人余りに過ぎない。平成28年の熊本地震では3カ月で延べ約10万人が活動しており、経験豊富なボランティアからは「能登は静かすぎる」との声も。道路やインフラの復旧遅れが主な要因だが、2次避難で多くの住人が被災地を離れ「ニーズの把握が難しい」との指摘もある。

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■実働1日310人 3月26日

、甚大な被害があった石川県輪島市町野町(まちのまち)地区で、関西の大学生ボランティアら約10人が、被災家屋から家財の運び出しを手伝った。

依頼した柴田剛さん(67)は「本来なら一日仕事が数十分で終わった。本当にありがたい」と感謝。関西大3年の西出梨乃さん(21)は「自分に何ができるのか不安だったが、『ありがとう』と言われて嬉しくなった」と笑った。

とはいえ、被災地に入るボランティアはまだ少ない。石川県によると、ボランティアセンターには26日時点で全国の約3万4千人が登録しているが、受け入れを始めた1月27日以降に被災6市町で活動したのは延べ約1万2千人。1日当たりの実働数は約310人にとどまっている。

ボランティア元年」と呼ばれた平成7年の阪神大震災は、発生1カ月で延べ約62万人、1年間では約137万人が活動。23年の東日本大震災は、センターを通じた活動に限っても発生50日で延べ約23万人、1年間では約102万人に達した。熊本地震も1カ月で約6万人、半年間で約11万人だった。

東日本大震災の被災地などでボランティアの経験があり、現在は輪島市内で活動する男性(56)は「多くの人ががれきを片付けていた東北とは違い、(能登半島は)静かすぎる被災地。こんなことは初めてだ」と打ち明ける。

■自粛が自粛呼ぶ?

能登地震でのボランティア不足の大きな要因とされるのが、「半島」ならではの地理的要因や道路の寸断による復旧遅れだ。発生当初は被災地で大渋滞が起こり、石川県や国は単独行動のボランティアも含め、「被災地への不要不急の出入りは控えて」と自粛を呼びかけた。交流サイト(SNS)でも、ボランティアに向かう著名人らに批判の声が上がった。

こうした影響から「ボランティア自粛の声が広まったのでは」と指摘するのは、石川県災害危機管理アドバイザーの経験もある神戸大の室崎益輝(よしてる)名誉教授。ボランティア不足でがれき撤去などが進まず、生活再建のめどが立たない状況が続けば「避難先から戻る人が減り、人口流出につながる恐れがある」とし、「一人でも多くのボランティアが行けるように考えるべきだ」と訴える。

■受け入れ拡大も

当初は県に一本化されていたボランティアの受け入れ窓口は現在、被災各市町に拡大した。県は2月下旬、長期活動のボランティア向けに穴水町に宿泊拠点を開設。NPO法人「ピーク・エイド」なども七尾市にボランティア用のテント村を設けるなど、受け入れ態勢は整いつつある。

その中で課題として浮かぶのが、被災者ニーズの把握だ。県によると、被災家屋の片づけなどには原則、住人の臨場が必要だが、多くの被災者が2次避難先や被災地外の親類宅などに身を寄せ、各市町からは「被災者が自宅におらず、ニーズがつかめない」との声が上がっているという。

県の担当者は「現状はボランティアの希望者より、現場のニーズが圧倒的に少ない」と説明。今後、インフラ復旧などが進み避難先から戻る住人が増えれば、ニーズも増えてくるとみる。

これに対し、室崎氏は「被災者の話を聞くだけ、手を握るだけでも立派なボランティア活動になる。(行政などは)積極的な姿勢で誰がどこにいるのかを把握し、ニーズをつかみにいかなくてはならない」と述べた。(安田麻姫)

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