ハンセン病学習などで訪れる人たちを対象とした国立療養所長島愛生園(岡山県瀬戸内市)の宿泊研修施設「むつみ交流館」ができて1年。岡山自主夜間中学校(岡山市北区)が4年ぶりの校外学習として1泊2日の研修を行った。生徒14人とボランティアスタッフら25人が参加。同校代表の城之内庸仁さんは「夜間中学生の中には自身が直面してきた差別や偏見と思いを重ねる人もいた」と話す。
■誤解の歴史
研修では、長島愛生園の田村朋久学芸員の案内で、「愛生園歴史館」を見学。田村学芸員は「ハンセン病はらい菌による細菌感染症で、感染力は非常に弱い。皮膚と末梢神経がおかされ、まぶたや唇が下がるなど外見に変化が生じることもあり、差別を受けやすい。薬が開発され、適切な治療を受けると治る病気となり、入所者は全員完治している」などと説明した。 誤解や差別が残っている原因としては、感覚がまひして熱さを感じられず、やけどをして指をなくす事例から「手足が腐って落ちる病気」と言われたり、家族内での感染事例を「遺伝する病気」とされたり。国が昭和6年、らい予防法という法律をつくって強制隔離を進め、完治していても差別の問題から家族のもとに帰るのが難しい実情などについても解説した。
■差別を新たにつくらない
歴史館は旧事務棟でもある。長島愛生園は島にあり、敷地面積は東京ドーム約51個分。歴史館には入所者手作りの約60年前の島の大きな模型が置かれている。田村学芸員は模型を前に「昔は職員と入居者の生活区域を境界線で分けた。入所者同士での結婚は認めても子供をもうけることは許されないなど、数々の人権侵害があった」などと説明した。
生徒数人と城之内さんらは入所者とも面会した。
面会した入所者の男性は10歳代で入所したといい、生徒の夜間中学での勉強ぶりの説明を受け、「えらいなあ。来てくれてありがとう」と歓迎してくれたという。
入所者による語り部事業は高齢化に伴う健康状態への配慮から、2人が原則として毎月1人1回程度対応し、直接面会できる機会が激減している。
田村学芸員は「入所者の思いは同じような差別に苦しむ人を新たにつくらないこと。新型コロナウイルス感染症では差別や偏見のリスクが表れ、何も変わっていないという思いも聞いた。互いに関心を持ち、正しい理解を深めることで誤解や偏見、差別は防ぐことができる」と締めくくった。
■生徒自身が重ね合わせ
研修2日目は、家族訴訟原告団の副団長を務めた黄光男(ファングァンナム)さんが、自身の経験を、ギターの弾き語りで自作の歌を交えて講話した。
子供の頃から糖尿病と闘っているという井上健司生徒会長は、「僕も病気があるので共感するところがいっぱいあった。面会して、もっと頑張らなくてはと逆に勇気をもらい、必死に生きていくことを学んだ」と話した。
黄さんは「自主夜間中の生徒さんにはいろんな境遇を抱えている人も多く、受け止め方が違い、話をしてよかった」と感想を述べた。城之内代表も「差別や障害、病気、いじめなどさまざまな自分自身の困難と重ね合わせ、もう一度前に向かって進みたいという決意が伝わってきた」と話していた。(和田基宏)
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国内に13カ所ある国立ハンセン病療養所の一つ「長島愛生園」は昭和5年に設置。最多で2000人以上だった入所者は研修時に84人で平均年齢は88歳超。「むつみ交流館」は宿泊研修で、深い学びをしてもらいたいと開設。1年間の利用者は大学生ら約530人に上った。利用は長島愛生園で原則1泊2日の研修・研究を行う10人以上の団体で宿泊料は無料。食事提供はなく、各自で用意する(自炊可能)。